日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集 新規創薬標的を導く感覚器研究の新展開
日常に潜む味覚感受性低下の原因と健康リスク:脂肪酸の味覚を含めて
安松 啓子永井 由美子上島 文江
著者情報
ジャーナル 認証あり HTML

2025 年 160 巻 2 号 p. 73-78

詳細
抄録

生体に備わるセンサーは体の内外環境を感知し,ホメオスタシスを維持するために,体温や物質濃度を適正な方向へ向かって修正するきっかけを作るが,美味しさを求めて必要以上に脂肪・糖・塩を摂取してしまえば生活習慣病(脳血管・心臓疾患・糖尿病等)へ,食欲の低下した高齢者等で味覚減退が起これば低栄養からフレイルや要介護へとつながるリスクとなる.そこで本総説では,加齢の影響が甘味,うま味,苦味,酸味,塩味の5つの基本味のうちどの味覚に現れるのかについて解説し,次に,口臭の原因になったり,高齢者等が,誤嚥を起こせば肺炎を惹起するなどの問題を引き起こす,口腔内の細菌と舌苔の,味覚への影響についてまとめた.また,健康な人でも,特定の味物質を日常的に食べ続けるような食生活を送ることで,味覚感受性が変化し,健康リスクが発生する.そして,脂肪酸の味覚の発見から現在までの研究をまとめ,摂食調節に味覚が関わることで生体のホメオスタシスにどのように関与していくのかを,文献調査によってまとめ考察した.最近,脂肪の嗜好に関与する脳腸間の回路が特定された.腸においても舌における味覚と同じ受容体で脂肪酸が感知され,迷走神経を通じて脳へ栄養情報が送られるが,脂肪酸特異的な栄養情報を伝える神経が発見されていることは大変興味深い.このように口腔内の味覚と,消化管の栄養センシングは大変似ているため,相互で参考にしながら研究を発展させていくことは大変有意義であると考えている.

著者関連情報
© 2025 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top