日本薬理学雑誌
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特集 骨格筋恒常性維持における受容体・チャネル研究の最前線
定量可視化を実現する蛍光寿命イメージング型バイオセンサーの開発
新井 敏
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2026 年 161 巻 1 号 p. 16-20

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抄録

近年,細胞内外のシグナル分子の時空間動態を可視化する蛍光バイオセンサーの開発が進み,特に,標的分子の濃度変化を蛍光輝度の変化で捉える輝度変化型センサーは生命科学研究において広く用いられている.しかし,輝度変化型センサーを用いた解析では,細胞へのセンサーの導入量や顕微鏡の条件(励起光,フィルター,焦点ズレなど)などの影響を受けやすく,定量解析が極めて困難であるという課題がある.筆者らは,これに対して,頑強な物理量である蛍光寿命を指標とするFLIM(fluorescence lifetime imaging microscopy)型センサーの開発を通して,細胞内の様々な因子の定量可視化に取り組んでいる.本稿では,骨格筋の恒常性やチャネルの活動などに関連する因子に焦点を絞り,関連するセンサー開発を紹介したい.例えば,細胞小器官で起きる温度変化の定量可視化を目指して開発した有機色素を用いた低分子型蛍光温度センサーの事例がある.低分子型センサーは,細胞小器官の小器官膜にターゲットできることから,熱源の場所に限りなく近づくことができ,サブセルレベルでの高解像度な温度測定が可能である.実際に,褐色脂肪細胞の熱産生におけるミトコンドリア局所の温度上昇を定量的に可視化することに成功した.一方,別の取り組みとして,細胞内のシグナル分子を定量解析できる蛍光タンパク質型センサーの開発を進めている.標的分子濃度を蛍光寿命の値として紐づけることができるため,細胞内のシグナル分子の実際の濃度を定量することができるのが利点である.筆者らは,細胞内のATPを定量できる蛍光タンパク質センサーを開発し,様々な細胞種・多細胞サンプルでの定量イメージングに成功している.更に,センサーの作動原理の解明を通して,プラットフォーム化に取り組んでおり,将来,複数のバイオセンサーの創出が期待できる.これが,骨格筋の恒常性に関わる研究において,将来的に,様々な視点で貢献できるものと期待される.

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