日本薬理学雑誌
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特集 性ホルモンを軸とした痛み研究の新展開
化学療法誘発性末梢神経障害と性ホルモン
宮本 朋佳坪田 真帆関口 富美子川畑 篤史
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2026 年 161 巻 2 号 p. 109-114

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抄録

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は,タキサン,白金製剤,ビンカアルカロイドなどの殺細胞性抗がん薬により高頻度で誘起される有害反応の1つで,患者のQOLを著しく低下させ,投与量制限や投与中止にも繋がる重大事象である.我々は,CIPN発症過程において核内タンパク質high mobility group box 1(HMGB1)の細胞外放出が極めて重要な役割を果たしていること,また,HMGB1をトロンビン依存性に不活性化するトロンボモジュリンアルファ(TMα)がCIPN発症を阻止できることを明らかにした.また,パクリタキセルが投与された乳がん・婦人科がん患者におけるCIPNに影響を及ぼす因子を後方視的コホート研究により解析し,閉経に伴うエストロゲン減少がCIPNの発症・重症化のリスク因子であることを見出した.さらに,実験動物において卵巣摘出によりパクリタキセルによるCIPNが増悪し,これがエストロゲンやTMαを投与することで予防できることを証明した.一方,実験動物ではプロゲステロンがCIPNを抑制することや,アンドロゲンが神経障害性疼痛に対して抑制的に作用することが報告されている.このように,CIPNの発症・重症化に対してエストロゲンを含む性ホルモンが抑制的に働く一方,加齢に伴う性ホルモンの減少がCIPNのリスク因子になり得るのではないかと考えられる.CIPN発症過程におけるHMGB1の挙動に性ホルモンがどのような影響を与えるかを解明するための研究は現在進行中であるが,閉経後の女性がん患者を含むCIPNリスクの高い患者群に対してHMGB1を不活性化するTMαを用いた予防的介入が有用ではないかと思われる.

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