2026 年 161 巻 3 号 p. 177-182
一次繊毛は細胞表面に突出している非運動性の細胞小器官であり,細胞外刺激を受容し細胞内に伝達する「アンテナ」として機能する.近年,一次繊毛はケラチノサイトなど皮膚構成細胞にも形成されることが明らかとなった.ケラチノサイトは様々な細胞外シグナルを受容後ケモカインやサイトカインを産生し,皮膚の恒常性を支えている.このため,ケラチノサイトのシグナル伝達が破綻すると,様々な炎症性皮膚疾患の発症につながる.我々は,炎症性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎(AD)及び乾癬の表皮において,一次繊毛を有する細胞(繊毛細胞)が顕著に増加していることを報告した.しかし,その機能と病理学的意義は不明であった.我々は免疫染色法と単一細胞レベルの分解能を有する空間トランスクリプトーム解析(Visium HD法)を組み合わせることで繊毛細胞の網羅的特性解析を行った.まず初めに健常皮膚,AD,光線治療前後の乾癬皮膚切片中の一次繊毛を免疫染色で検出したところ,光線治療により疾患重症度や皮膚の肥厚が抑制されている乾癬皮膚においても,一次繊毛の数は依然として健常者よりも多いことが明らかとなった.続いて繊毛細胞のトランスクリプトーム解析により,繊毛細胞は未分化ケラチノサイト様の性質を保持し,細胞内代謝,細胞周期進行,サイトカインシグナル伝達に関わる経路が上昇していることが示唆された.これらの結果から,疾患で増加した一次繊毛は,ケラチノサイトのシグナル伝達や増殖制御を介して皮膚バリアの成熟を阻害し,治療後も表皮に残存することで,再刺激時に迅速な炎症応答を引き起こし,疾患の再燃に関与する可能性が示唆された.以上より,一次繊毛は炎症性皮膚疾患の発症・再発に関わり,繊毛形成や繊毛内シグナル伝達を制御することは,難治性皮膚疾患に対する新たな治療標的となりうることが示唆された.