2026 年 161 巻 3 号 p. 171-176
一次繊毛は,細胞外の液性・力学情報を感知し,細胞内シグナルに変換する微小管性の不動性の細胞表面突起構造である.その機能不全は多発性嚢胞腎,網膜変性症などを特徴とする繊毛病(ciliopathy)を引き起こす.繊毛膜は,他の細胞膜領域に比べて,コレステロールが高度に濃縮され,一次繊毛に局在するGタンパク質共役型受容体(GPCR)やイオンチャネルの生理機能に必須である.コレステロールのde novo合成不全(Smith-Lemli-Opitz症候群:SLOS)は典型的な繊毛病様症状を呈することから,コレステロール欠乏が繊毛病の発症機序の一つであることが示唆される.我々は,一部のペルオキシソームが微小管を介して繊毛基部へ運動し,コレステロール輸送体ORP3を介してペルオキシソーム膜から繊毛膜へとコレステロールを供給する経路を特定した.さらに最近,常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の原因遺伝子産物である機械受容性陽イオンチャネルpolycystin(PKD1/PKD2)複合体は,コレステロール依存的な繊毛局在を示すことを見出した.我々は,ADPKD患者データベースで見られるPKD2のコレステロール結合部位のミスセンス変異(p.L517R)に着目し,この変異を持つマウスが内臓逆位や多発性嚢胞腎といった繊毛病スペクトラムを示すことを見出した.L517R変異タンパク質は,チャネル活性が正常にもかかわらず繊毛膜への局在が障害されていた.興味深いことに,外部からのコレステロール投与は,ペルオキシソーム形成不全症・Zellweger症候群モデル細胞におけるPKD2の繊毛輸送障害と上皮管腔の異常拡大を回復させたが,PKD2 L517R変異細胞ではレスキュー効果が見られなかった.これらの結果は,PKD2の繊毛膜コレステロール結合能がADPKDの病態を回避するために不可欠であることを示唆する.本総説では,繊毛膜コレステロールがADPKDの新たな治療戦略につながる可能性を提唱する.