2026 年 161 巻 4 号 p. 210-215
加齢に伴うmtDNAへの突然変異の蓄積がミトコンドリア呼吸機能の低下を誘導し,それが老化の原因になるとする仮説である「老化ミトコンドリア原因説」が提唱されてきた.この仮説は,mtDNAの複製酵素であるPolgの校正機能異常をホモで導入したPolgmut/mutマウスが高頻度のmtDNA突然変異を蓄積し,ミトコンドリア呼吸機能低下及び早期老化症状を示したことから,広く受け入れられている.しかし,Polgmut/mutマウスにおける正確なmtDNA突然変異の含有率,並びに,mtDNA突然変異の蓄積とミトコンドリア呼吸機能低下の直接的な因果関係については明らかではなかった.そこで本研究では,Polgマウス群(野生型Polgを有するPolg+/+マウス,Polgの校正機能をヘテロで欠損したPolg+/mutマウス,Polgmut/mutマウス)におけるmtDNA突然変異の含有率を正確に把握すると同時に,mtDNA突然変異の含有率を実験動物学的に変動させミトコンドリア呼吸活性との相関を検証した.その結果,mtDNA突然変異の含有率を変動させても,ミトコンドリア呼吸活性はPolg+/mutマウスでは軽度に,Polgmut/mutマウスでは重度に低下することが明らかになった.また,mtDNAの遺伝子型を変動させたことにより,Polgmut/mutマウスの一部の個体は,Polg+/+マウスの一部の個体と同程度のmtDNA突然変異の含有率を示したが,Polgmut/mutマウスにおけるミトコンドリア呼吸活性は重度に低下していた.これらの結果は,Polgの校正機能を欠損したマウスにおけるミトコンドリア呼吸機能低下は,mtDNA突然変異の蓄積よりむしろ,校正機能を欠損したPolgに起因することを示唆していた.本研究は,「老化ミトコンドリア原因説」の根幹であるmtDNAに蓄積する突然変異がミトコンドリア呼吸機能の低下を誘導するという仮説に対して再考の必要性を提案する.