日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集 細胞の形と機能を司る生体膜のホメオスタシス制御とそこから迫る病態生理の新展開
赤血球寿命に寄与する膜脂質非対称性の維持と破綻のメカニズム
関 桃子新敷 信人星野 純一中村 史雄
著者情報
ジャーナル 認証あり HTML

2026 年 161 巻 4 号 p. 249-252

詳細
抄録

ヒトの成熟赤血球は,体内循環しながら120日間生存する.細胞膜の脂質二重層においてホスファチジルセリン(PS)は内層のみに非対称性に維持されており,それは赤血球膜においても例外ではない.内層に維持されたPSは,膜骨格タンパク質との相互作用によって膜の物理的強度の担保に一役買い,外層に表在化したPSは,脾臓マクロファージによる老化赤血球除去のシグナルとして利用される.これらの事実から,PSの分布が120日間の寿命と深く関わることは明白である.我々は,赤血球膜で働くPSフリッパーゼ分子はATP11Cが約90%を占め,その遺伝子変異は溶血性貧血の原因となること,ATP11Cが失われても大半の赤血球ではPSが表在化しないことを明らかにした.このフリッパーゼ活性に依存しないPS内層維持機構に,リン脂質スクランブルを抑制するコレステロールが関与していることも明らかにした.これらは,赤血球にとって解糖系のみで得られる貴重なATPを消費するATP11Cには依存せず,そもそもPSを表在化させないように防御するという理にかなった生存戦略である.寿命直前の老化赤血球を集めてみると,ATP11Cの減少,赤血球内ATP,Kの減少によってフリッパーゼ活性が低下しており,細胞内への少量のCa2+導入によって容易くPSが表在化した.詳しい機序は不明だが,老化の過程で起こる赤血球内Ca2+濃度上昇が解明の鍵であると推察された.また,赤血球寿命の短縮が原因の一つとされる腎性貧血では,産生されてから80日程度の赤血球でフリッパーゼ活性の低下,PS表在化率の上昇も認められ,ATP11Cの減少,赤血球内Kの減少といった健常老化赤血球と類似の変化が生じており,生理的な老化変化が早期に起こっていると考えられた.今後は,老化変化が早期に発生する機序を明らかにして,腎性貧血改善につながる新たな治療法を提案していきたい.

著者関連情報
© 2026 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top