2026 年 161 巻 5 号 p. 370-375
経口剤の開発において,薬物の消化管吸収や薬剤誘導性消化器毒性の定量的予測は重要な要素の一つである.しかしながら現状用いられている実験系には,動物実験による種差の問題やCaco-2細胞とヒト小腸組織との遺伝子発現の違いなど克服すべき課題が存在する.そこでよりヒト消化管に近い状況を反映可能な新たな実験系の構築が求められている.我々は,手術残余検体由来ヒト新鮮消化管組織よりcrypt領域を単離・マトリゲル中で3D培養することにより小腸幹細胞を安定的に継代培養し,それを用途に応じて適切に分化させることで消化管吸収や消化器毒性の予測系を構築してきた.消化管吸収の予測においては,Caco-2細胞では発現量の低さから評価できなかった薬物の消化管代謝回避率の定量的な予測やPXRを介した転写誘導を観察することができるようになった.また,市販凍結ヒト小腸検体の利用や96 well vitrigel chamberの活用により,よりハイスループット性や可用性が求められる創薬スクリーニングに利用しやすい実験系の構築も行った.さらに消化器毒性の予測としては,小腸幹細胞中のATPレベル減少の評価による下痢リスクの予測ならびにEC(enterochromaffin)細胞richスフェロイドからのセロトニン放出活性の測定による末梢性悪心・嘔吐の予測系を構築し,臨床で観察されている発症頻度と実験系から得られる指標との間の良好な相関性を認めるに至っている.以上,本稿ではこれまで創薬上用いられてきた薬物の消化管吸収および消化器毒性リスクの予測系の課題およびヒト小腸由来細胞を用いる利点について概説する.