ヒト脳の発生,機能,疾患,薬物応答を理解することは神経科学と医学の重要課題であるが,生きたヒト脳組織を詳細に解析することは技術的・倫理的に難しく,従来の研究は主に動物モデルや二次元培養系に依存してきた.しかし,ヒトと動物の間には発生過程,細胞構成,神経回路,薬物応答に多くの違いがある.脳オルガノイドは,ヒトES細胞やiPS細胞から作製される三次元神経組織であり,神経前駆細胞の分化,細胞種多様性,組織構造,神経活動の一部を再現できることから,ヒューマンバイオロジー研究の有力な基盤となっている.本稿では,脳オルガノイド研究の発展を概説し,神経活動計測,アセンブロイドやコネクトイドによる神経回路モデル,ヒトで顕著に発達した細胞種や遺伝子プログラムの再現,個人差の解析,毒性評価,疾患モデル,薬効評価への応用を紹介する.さらに,不均一性,成熟度,血管系・免疫系の欠如,標準化,品質管理,倫理的課題などを踏まえ,脳オルガノイドを用いたヒューマンバイオロジー研究の現状と展望を紹介する.