わが国では近年,食生活の欧米化と過栄養により脂肪性肝疾患が増加傾向にある.肝硬変に進展するリスクが高い代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の治療薬は,多くの製薬企業が長年開発を行っているが本邦では未だ承認されていない.臨床開発が長期化する原因の1つは,非臨床段階で用いる動物試験ではヒトでの挙動を正確に予測できないことにある.我々は,細胞を三次元組織化する基盤技術を用いてヒト臓器機能の一部を体外で再現した「機能性細胞デバイスFCD®」を開発している.高い再現性,均一な品質と簡易な操作性を特徴としたFCDの第一弾として,ヒト初代培養の肝実質細胞と肝星細胞の2種の細胞から成る「ヒト3Dミニ肝臓®」を2023年に上市し,肝毒性評価や薬物代謝性評価に使われている.続けて,我々は本ヒト3Dミニ肝臓組織内に線維化を誘導することに成功し,「ヒト3Dミニ肝臓®/疾患モデル」の名称で2025年より製造・販売を開始した.この3次元組織には,表現型として中性脂肪滴の蓄積と進行性の線維沈着が観測された.また網羅的遺伝子発現解析より,酸化ストレスと炎症に関連する遺伝子発現量の増加に続き星細胞の活性化を示す遺伝子発現量の増大が認められ,本3次元組織がMASHの病態と類似性の高い線維化モデルであることがわかった.次にMASH治療薬としてヒト臨床試験が行われた薬物を線維化した3Dミニ肝臓の培地に添加して1~2週間培養し,肝星細胞の活性化状態,コラーゲン産生量ならびに沈着線維量を評価した.遺伝子発現解析から得られるデータと合わせて,候補薬物のMASHに対する薬効予測やMOAの検証ができると考えられる.健常および疾患状態のヒト3Dミニ肝臓を評価ツールとして使用することで,ヒト生物学に基づいた安全性と有効性の薬剤評価が促進され,研究開発の効率向上への貢献が期待される.