日本薬理学雑誌
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パーキンソン病に対する疾患修飾薬の開発は険しい道のりか?
永井 将弘
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ジャーナル 認証あり 早期公開

論文ID: 22129

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抄録

パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで有病率が高い神経変性疾患であり,中脳黒質にあるドパミン神経細胞の変性・脱落により発症する.薬物治療には原因療法(疾患修飾薬)と対症療法(症状改善薬)に大別されるが,現在市販されているパーキンソン病治療薬は,すべて対症療法である.脳内のドパミン不足による大脳基底核回路の機能不全を改善するために,ドパミン前駆体であるレボドパがパーキンソン病薬物治療の主軸となっており,加えてドパミンアゴニスト,抗コリン薬,NMDA受容体拮抗薬,COMT阻害薬,MAO-B阻害薬,アデノシンA2A受容体拮抗薬,δ1受容体作用薬などの症候改善薬が補助薬として広く用いられている.原因療法に関しては,2020年1月にClinicalTrials.govに登録されたパーキンソン病を対象とした臨床試験145件のうち57件が疾患修飾薬に関連していた.抗αシヌクレイン抗体,GLP-1受容体作動薬,キナーゼ阻害薬などの臨床試験が疾患修飾効果を期待され行われているが,残念ながら現時点においてパーキンソン病進行抑制効果が立証された薬剤はない.基礎研究で得られた有益な結果を臨床試験で証明することは容易ではない.特にパーキンソン病のような神経変性疾患では,神経細胞の変性の程度を定量的に把握できる有用なバイオマーカーが臨床に存在しないため,疾患修飾薬の臨床的な有効性を示すことがより困難である.また,臨床試験においてプラセボを長期間使用することが研究倫理上難しいことも,適切な評価を困難にしている要因の一つとなっている.

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