日本薬理学雑誌
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イヌ遺伝性網膜変性モデルを用いた繊毛病の分子機構の研究
髙橋 慶宮寺 恵子
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ジャーナル 認証あり 早期公開

論文ID: 23071

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抄録

ヒトは高度に発達した網膜を有し,外部情報のおよそ8割を視覚から得ているため,視覚障害が人々の日常生活に及ぼす影響は非常に大きい.網膜の最外層に整列し光シグナルを受容する視細胞は,高度に分化・発達した感覚繊毛であり,一次繊毛に類似した構造的・機能的な特徴を有する.特定の遺伝子変異を原因として網膜・視細胞の機能が障害される疾患は遺伝性網膜変性疾患(IRDs)と総称され,これまでに280以上のIRDsの原因遺伝子が同定されている.IRDs原因遺伝子の中には,繊毛病の原因遺伝子と共通する遺伝子が多数存在するため,視細胞は繊毛病の研究対象として頻繁に用いられる.IRDsや繊毛病などの遺伝病の研究においては,飼育やハンドリング,病態モデル作製の簡便さなどの利点からマウスモデルが汎用されている.一方,マウス-ヒト間の網膜における構造的・機能的・遺伝的な相違がIRDs研究の妨げとなる場合がある.マウスモデルの欠点を補う手段の一つとして,より大型の脊椎動物のIRDsモデルは有益な研究対象になり得る.特に,イヌはヒト網膜と構造的・機能的に類似性の高い網膜を有することに加え,ユニークな遺伝的背景を有するため自然発生遺伝病家系が他の大型動物に比べて発見されやすいという特徴を有する.自然発生イヌIRDsモデルとして,現在までに30以上の遺伝子において病原性を有する変異が同定されており,病態解明や新規治療開発が進められている.本項では,繊毛病研究におけるイヌIRDsモデルの有用性について,筆者らの近年の研究成果を交えて解説する.

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