抄録
食餌制限による栄養不良状態のラットを作製し,皮膚全層欠損創の治癒遅延モデルの開発を試みた.次いで,このモデルを用いて塩化リゾチーム軟膏ガーゼ(M-1011G)の創傷治癒促進効果について検討した.市販固形飼料を自由摂取させた対照動物に比べて,1日当たり6gに制限した2週間の給餌は,栄養不良状態と考えられる体重減少および血清中総タンパク質量の有意(P<0.01)な低下と,血清中アルブミン量の低下を引き起こした.さらに,肝臓重量の減少や,組織学的に肝内グリコーゲン顆粒および脂肪滴の減少が認められたものの,血清中トランスアミナーゼ活性(GOTおよびGPT)には変化は認められず,著明な肝機能障害は認められなかった.また,2週間の制限給餌以降,1日当たり12gの給餌を行うことにより,肝障害のない栄養不良状態を維持することができた.次いで,この栄養不良状態の動物の創傷治癒過程を検討した結果,創傷部面積の縮小は対照群に比べて緩徐であり,治癒日数は対照群に比べて有意(P<0.05)に遅延した.このような新しい創傷治癒遅延モデルに対して,滅菌ガーゼ処置のみの対照群,ガーゼに油脂性軟膏を塗布して処置したプラセボ群,塩化リゾチームを5%含有する油脂性軟膏をガーゼに塗布して処置したM-1011G群および乳剤性基剤に塩化リゾチームを5%含有するR軟膏をガーゼに塗布して処置したR-G群について,多重比較検定により検討した.M-1011Gは,これら4群の中で最も有効であり,対照群に対し受傷7および10日後において,それぞれ有意(P<0.01およびP<0.05)に創傷部面積は縮小し,治癒日数も有意(P<0.05)に短縮した.また,組織学的にも肉芽形成は良好であった.以上の成績より,本研究で開発した6g/日に制限して2週間だけ給餌し,以降12g/日に制限給餌することにより作製した栄養不良状態ラットの全層欠損創モデルは,短期間で作製することができ,肝障害がなく,創傷治癒が遅延するモデルであった.このモデルに対してM-1011Gは,肉芽形成および上皮形成を促進することにより創傷治癒を促進したと考えられた.