日本薬理学雑誌
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微小循環
微小循環
水流 弘通川崎 博己
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1999 年 113 巻 4 号 p. 201-202

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抄録

心臓と血管から構成される循環器の基本的な役割は,血液を循環させることによって身体の各臓器・組織を形作る細胞の生命維持・活動に必要な酸素と栄養素を供給し,またそこで産生された代謝産物・老廃物を搬出することである.その作業現場は体のすみずみまで張り巡らされた血管の中でも毛細血管を中心とした微小循環系であり,しばしば(毛細)血管床capillary bed / vascular bedとも呼ばれる(図1).この循環系の輸送機能によって生物個体の内部環境が維持されているわけである.さらに,微小循環系の入口に位置する抵抗血管と呼ばれる小動脈・細動脈の緊張によって血圧が維持され,微小循環系における物質交換機能を支えている.したがって,微小循環系の調節は細胞の,そして個体の生命維持にとって極めて重要である.
従来から末梢組織への血流分配は血管運動中枢と自律神経系による神経性調節およびカテコールアミン,バソプレッシン,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系,カリクレイン・キニン系などの体液性調節によって行われていると考えられてきたが,1980年血管内皮細胞由来の弛緩因子(EDRF)が発見されたのを契機に,循環調節における血管内皮細胞の役割の重要性が認識されるようになった.これはちょうど細胞生物学,分子生物学の進展と相まって,「血管生物学(vascular biology)」という新しい学問領域として発展している.1987年にEDRFが一酸化窒素(NO)であることが同定され,また翌1988年には内皮細胞から分泌される強力な血管収縮因子であるエンドセリンが本邦で発見されて,血管内皮細胞にますます注目が集まった.さらに,アンジオテンシンIIも血管壁局所で産生されることが明らかとなり,血管自身が循環調節に深く関っていること,そして,いわゆる内因性血管作動物質が,血管の緊張状態のみならず,血管平滑筋の増殖・分化,遊走といった血管壁の再構築(リモデリング)にも関与することが明らかになってきた.さらにまた,このように分子・細胞レベルの「血管生物学」的研究で明らかにされたことを遺伝子工学/発生工学の手法を用いてwhole animalのレベルで検証するということも行われるようになってきている.
このような目覚ましい血管生物学発展の端緒となったEDRFの発見者であるR. FurchgottならびにNOの生理学・薬理学的研究に貢献したL. IgnarroとF. Muradの3名のアメリカ人薬理学者が昨年度ノーベル医学生理学賞を受賞した.受賞理由は『循環器系における信号伝達分子としての一酸化窒素(NO)の発見』である.薬理学あるいは循環器の研究に携わる者にとってもこの上ない喜びで,心よりお祝いを申し上げたい.
近年,交感神経と副交感神経の古典的伝達物質であるノルエピネフリンとアセチルコリンのほかに,各神経における共存伝達物質(cotransmitters)としてATPとニューロペプチドY; vasoactive intestinal polypeptide(VIP)とNOなどが,また,知覚神経においてもサブスタンスP,ニューロキニン,calcitonin gene-related peptide(CGRP)などのcotransmittersが知られるようになった.そして,血管の神経性調節に,以前から研究されてきた交感神経を中心とする機序に加えて副交感神経および非アドレナリン・非コリン作動性神経も関与することが明らかにされてきている.さらにまた,知覚神経が血管平滑筋のみならず血管支配自律神経にも影響を及ぼし,血管緊張の調節に関与することが示されている.これら神経性調節機構の研究においても,血管生物学の進展に伴って,種々の神経伝達物質の受容体タイプあるいはサブタイプの血管系における組織分布の差異や細胞内情報伝達機構が詳細に明らかにされつつあり,これらは臨床的にも大いに意義があると思われる.
本「微小循環」総説号では,脳,鼻,口腔,心臓,肺,腸間膜,腎臓を取り上げ,各々の循環調節について解説している.これら臓器の機能の多様性に対応して,各々の循環調節の仕組みも部位的に異なることが予想される.さらに,近年における目覚ましい血管生物学の進歩は,循環調節に関与する多種多彩な要因を明らかにし,その調節機構はますます複雑な様相を呈している.このような状況において微小循環系の調節に関与する因子全てを網羅することは至難である.したがって,限られた紙面の都合もあり,主な調節因子に注目して最新の解説をしていただいた.本ミニ総説号が循環薬理学のさらなる発展に寄与できれば幸いである.

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