日本薬理学雑誌
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113 巻 , 4 号
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  • 水流 弘通, 川崎 博己
    1999 年 113 巻 4 号 p. 201-202
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    心臓と血管から構成される循環器の基本的な役割は,血液を循環させることによって身体の各臓器・組織を形作る細胞の生命維持・活動に必要な酸素と栄養素を供給し,またそこで産生された代謝産物・老廃物を搬出することである.その作業現場は体のすみずみまで張り巡らされた血管の中でも毛細血管を中心とした微小循環系であり,しばしば(毛細)血管床capillary bed / vascular bedとも呼ばれる(図1).この循環系の輸送機能によって生物個体の内部環境が維持されているわけである.さらに,微小循環系の入口に位置する抵抗血管と呼ばれる小動脈・細動脈の緊張によって血圧が維持され,微小循環系における物質交換機能を支えている.したがって,微小循環系の調節は細胞の,そして個体の生命維持にとって極めて重要である.
    従来から末梢組織への血流分配は血管運動中枢と自律神経系による神経性調節およびカテコールアミン,バソプレッシン,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系,カリクレイン・キニン系などの体液性調節によって行われていると考えられてきたが,1980年血管内皮細胞由来の弛緩因子(EDRF)が発見されたのを契機に,循環調節における血管内皮細胞の役割の重要性が認識されるようになった.これはちょうど細胞生物学,分子生物学の進展と相まって,「血管生物学(vascular biology)」という新しい学問領域として発展している.1987年にEDRFが一酸化窒素(NO)であることが同定され,また翌1988年には内皮細胞から分泌される強力な血管収縮因子であるエンドセリンが本邦で発見されて,血管内皮細胞にますます注目が集まった.さらに,アンジオテンシンIIも血管壁局所で産生されることが明らかとなり,血管自身が循環調節に深く関っていること,そして,いわゆる内因性血管作動物質が,血管の緊張状態のみならず,血管平滑筋の増殖・分化,遊走といった血管壁の再構築(リモデリング)にも関与することが明らかになってきた.さらにまた,このように分子・細胞レベルの「血管生物学」的研究で明らかにされたことを遺伝子工学/発生工学の手法を用いてwhole animalのレベルで検証するということも行われるようになってきている.
    このような目覚ましい血管生物学発展の端緒となったEDRFの発見者であるR. FurchgottならびにNOの生理学・薬理学的研究に貢献したL. IgnarroとF. Muradの3名のアメリカ人薬理学者が昨年度ノーベル医学生理学賞を受賞した.受賞理由は『循環器系における信号伝達分子としての一酸化窒素(NO)の発見』である.薬理学あるいは循環器の研究に携わる者にとってもこの上ない喜びで,心よりお祝いを申し上げたい.
    近年,交感神経と副交感神経の古典的伝達物質であるノルエピネフリンとアセチルコリンのほかに,各神経における共存伝達物質(cotransmitters)としてATPとニューロペプチドY; vasoactive intestinal polypeptide(VIP)とNOなどが,また,知覚神経においてもサブスタンスP,ニューロキニン,calcitonin gene-related peptide(CGRP)などのcotransmittersが知られるようになった.そして,血管の神経性調節に,以前から研究されてきた交感神経を中心とする機序に加えて副交感神経および非アドレナリン・非コリン作動性神経も関与することが明らかにされてきている.さらにまた,知覚神経が血管平滑筋のみならず血管支配自律神経にも影響を及ぼし,血管緊張の調節に関与することが示されている.これら神経性調節機構の研究においても,血管生物学の進展に伴って,種々の神経伝達物質の受容体タイプあるいはサブタイプの血管系における組織分布の差異や細胞内情報伝達機構が詳細に明らかにされつつあり,これらは臨床的にも大いに意義があると思われる.
    本「微小循環」総説号では,脳,鼻,口腔,心臓,肺,腸間膜,腎臓を取り上げ,各々の循環調節について解説している.これら臓器の機能の多様性に対応して,各々の循環調節の仕組みも部位的に異なることが予想される.さらに,近年における目覚ましい血管生物学の進歩は,循環調節に関与する多種多彩な要因を明らかにし,その調節機構はますます複雑な様相を呈している.このような状況において微小循環系の調節に関与する因子全てを網羅することは至難である.したがって,限られた紙面の都合もあり,主な調節因子に注目して最新の解説をしていただいた.本ミニ総説号が循環薬理学のさらなる発展に寄与できれば幸いである.
  • 小野 信文
    1999 年 113 巻 4 号 p. 203-210
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    脳血流(CBF)は自動調節(autoregulation)能によってほぼ一定に保持されている.その調節には種々の因子が関与するが,神経性調節を中心にその特徴を述べる.CBFは圧の減少に依存する減少,血圧に依存しない一定量の保持状態,高圧時に圧に依存する増加(breakthrough)を特徴とし,自動調節は保持状態の部分である.これは全身血圧低下による酸素欠乏と全身血圧の異常上昇・CBF増加による脳浮腫から脳組織を保護するための調節機構である.脳血管の緊張低下に関係する脳内機構は,コリン神経,興奮性アミノ酸あるいはGABAなどが神経性にあるいは非ニューロン的に働いている.AChについては,前脳基底部のマイネルト核から大脳皮質へ投射する系と前脳基底部の中隔から海馬へ投射する系があり,コリン系神経興奮によって大脳皮質ではムスカリン性ならびにニコチン性受容体のいずれもCBF増加を起こし,海馬では主にニコチン性受容体を介している.血管緊張に与る系は,交感神経系支配によるノルエピネフリン,セロトニン神経などがある.セロトニンの収縮性受容体は5-HT1Dβならびに5-HT2Bであるが,一部5-HT7受容体性の拡張性も持つ.神経走行が明確でないが,NO,アンジオテンシン,ブラジキニン,PG類も自動調節に影響する.NOS阻害薬は自動調節の上限を強く抑制し,breakthrough発現を抑え,breakthrough時にはNO産生の亢進が推察される.また洞大動脈神経切除によってもbreakthrough発現が見られない.アンジオテンシンの産生を抑制すると自動調節を血圧の低い方ヘシフトする.ブラジキニンは脳血管に対しB2受容体と関連する血管拡張,血管透過性亢進ならびに血液脳関門透過性亢進作用がある.PGFもbreakthrough発現を抑える.また,自動調節の下限域では血中TX B2が増加し,上限域ではPG Eタイプや6-keto-PGFが増加し,血圧の状態によって異なるPGが産生される.
  • 渡部 浩, 水流 弘通
    1999 年 113 巻 4 号 p. 211-218
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    鼻腔は呼吸器の最前線に位置しており外界の影響を最も強く受ける.そのため生体防御機構上重要な役割を与えられており,吸気の加温,加湿,異物除去等の生理機能を担っている.鼻粘膜血管には容積血管としての洞様血管があり大量の血液を貯え,鼻粘膜微小循環の変化は主に鼻粘膜の収縮・腫脹として発現する.鼻粘膜血管には自律神経系の交感神経線維,副交感神経線維および知覚神経線維が分布している.交感神経にはnorepinephrine(NE),neuropeptide Y(NPY),adenosine 5'-triphosphate(ATP)が,副交感神経にはacetylcholine(ACh),vasoactive intestinal polypeptide(VIP),一酸化窒素(NO)が,知覚神経にはsubstance P(SP),calcitonin generelated peptide(CGRP),neurokinin(NK)などが主な神経伝達物質として存在する.それらのバランスの上で鼻粘膜微小循環の生理機能が保たれ,環境変化,病的状態においてもこれらの神経系が深く関与している.また,血管内皮細胞に由来する血管拡張因子としてNO,強力な血管収縮因子としてendothelin(ET)が知られているが,鼻粘膜血管においてもそれぞれの作用が確認されている.炎症時に放出されるケミカルメディエーターであるヒスタミン,leukotriene(LT),bradykinin(BK)などには鼻粘膜血管拡張作用が認められ,その多くは鼻粘膜血管内皮由来のNOを介する反応である.これらの反応が絡み合って,鼻粘膜微小循環の生理機能,病態時の反応が形成されている.
  • 岡部 栄逸朗, 塗々木 和男
    1999 年 113 巻 4 号 p. 219-225
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    :三叉神経領域の求心性神経興奮は,歯髄を含む口腔組織微小循環系血管反応を引き起こす.このような神経原性血管反応のメディエーターとして,カルシトニン遺伝子関連ペプチドやサブスタンスP,あるいは一酸化窒素(NO)などが考えられている.歯髄には内因性の血管反応制御機構が存在する.交感神経の興奮に伴ない神経ペプチドの遊離が抑制を受け,これによって血管反応が調節されるのはその例である.また,歯髄で合成されたNOもこのような調節に与っている可能性がある.特に,炎症反応に連携して生成される活性酸素フリーラジカルとNOとの関連性を推理することは実に興味深い.このような観点から,神経原性血管反応の一部を構成する求心性神経誘発性の口腔内組織微小血管応答カスケードを理解することは,治療学的戦略の新しい薬理学的構想の触発につながるかもしれない.
  • 市原 和夫, 佐藤 久美
    1999 年 113 巻 4 号 p. 227-234
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    心筋組織は,冠循環によって酸素と養分に富んだ動脈血によって養われ,心筋収縮のためのエネルギーを好気的に得ている.左冠動脈前下行枝および回旋枝は,左心室心外膜表面を走行し,途中直角に心筋内膜下層に向かって走行して内膜下層心筋部位に微小血管として分布する.この冠血流が途絶えると心筋組織に虚血が生じる.特に心筋内膜下層は,心筋に対して直角に走行する冠血管が周囲の心筋が収縮する度に圧迫されるため,常に虚血になる危険に曝されている.狭心症の治療薬として,現在でもまだ冠血管拡張薬が使用されている.しかし,強力な冠血管拡張薬は,冠盗流現象を起こし,虚血心筋障害をかえって悪化させる可能性がある.筆者らは冠血管拡張薬により生ずる虚血心筋の微小循環における血流変化について述べ,虚血心筋に冠血管拡張薬が常に効果的であるわけではないことを述べる.
  • 白井 幹康
    1999 年 113 巻 4 号 p. 235-248
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    従来より肺血管系は,a) basal vascular toneが低い,b) 低酸素に対して収縮応答を示す,c) 自律神経性調節が明確でない等の点で,体血管系と比べ,循環生理的に特異であるといわれてきた.しかし,これらの血管特性に関する研究は,肺循環の圧-流量および圧-容積関係の計測等による間接的解析法や特殊な肺血管部位(太い伝導肺血管)での血管張力計測で行われてきたため,その詳細について不明な点が多く残されていた.近年,新しい技術の開発により,a) 肺血管末梢側の抵抗血管(直径:約100-500 μm)と中枢側の伝導血管の血管運動様式が大きく異なること,b) 肺交感神経活動の増大は肺血管収縮,拡張のいずれも起こし得ることが明らかになってきた.a)の原因として,nitric oxide(NO)合成酵素あるいは血管平滑筋のK+チャネルの両血管問での分布の違いが示唆されたことで,低いbasal vascular toneや低酸素性肺血管収縮を引き起こす肺血管の局所機構の詳細が見えてきた.また,b)に関してはinitial toneが重要で,肺交感神経活動の増大は,toneが高い時は主にβ-adrenergic mechanismsを,低い時は逆にα-mechanismsを活性化し,肺循環のホメオスタシス並びに左,右心臓の拍出量のバランスの維持に働くことが示唆された.本総説では,正常時,急性および慢性肺胞性低酸素時,並びに出血性低血圧時の肺循環調節機構について,さらに肺高血圧症に対する選択的肺血管拡張法として注目されている吸入NOおよびプロスタサイクリンについて,私共の研究を中心に概説する.
  • 竹永 誠, 川崎 博巳
    1999 年 113 巻 4 号 p. 249-259
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    全身の血管床の中で腸間膜血管系は最も大きな血管床のひとつであり,全身循環への関与も大きい.腸間膜微小循環の調節には,血管支配神経による末梢血管(小動脈から細動脈)抵抗の神経性調節が重要な役割を果たしている.腸間膜動脈にはノルアドレナリンを伝達物質とするアドレナリン作動性交感神経および非アドレナリン・非コリン性神経が血管支配神経として分布している.また,僅かであるがコリン作動性副交感神経も関与している可能性がある.交感神経は伝達物質ノルアドレナリンの他にドパミン,ニューロペプチドY,アデノシン三リン酸(ATP),セロトニンをcotransmitterとし,血管緊張維持に中心的な役割を果たしている.また,非アドレナリン・非コリン性神経も緊張調節系として関与し,その主な神経伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を介して交感神経系とともに相反的支配を行っていると考えられる.これら多くの神経のうち,ノルアドレナリン作動性,ニューロペプチドY作動性,ATP作動性の各神経は血管収縮性神経として,ドパミン作動性,コリン作動性,CGRP作動性の各神経が血管拡張性神経として調節に関与している.以上の様に腸間膜循環系の神経性調節は,交感神経を中心に行われ,これに各神経の相互作用,シナプス前フィードバック機構,血管作動因子による修飾などが加わってより複雑に連携して行われている.これらの調節機構の障害は高血圧等の循環器疾患の成因となる可能性が考えられる.
  • 玉置 俊晃, 吉栖 正典
    1999 年 113 巻 4 号 p. 261-267
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    腎血管は,栄養血管というより機能血管としての役割が大きく,腎循環と尿生成は密接な関係を持つ.腎臓は,多量の血液供給を受け糸球体濾過・再吸収をおこなう課程で,生体の水・電解質バランスを維持している.糸球体濾過は,主に糸球体血行動態により調節されており,糸球体の前後に位置する2つの細動脈,輸入細動脈および輸出細動脈,により主に調節されている.この2つの細動脈は形態的に異なるのみならず機能的な差が存在する.従って,腎循環調節機構を解明するには両細動脈の機能および性格を明らかにする必要がある.このため,各種の腎微小循環研究方法が開発されて,細動脈レベルでの腎微小循環調節機序の解明が進んでいる.本総説では,1) 腎循環の特徴,2) 腎微小循環研究方法,3) アンジオテンシンIIの腎微小循環に対する作用,4) これからの課題について概説した.
  • 菅野 聡, 山崎 宏, 柏原 早苗, 内山 浩之, 前川 祐理子, 伊藤 吾朗, 武藤 正, 仮屋 勝秀, 小嶋 知夫, 越山 良子, 織田 ...
    1999 年 113 巻 4 号 p. 269-276
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    TO-193(TaclloComb®)は,コラーゲンシート上にフィブリノゲン,トロンビンおよび抗線溶薬であるアプロチニンを乾燥状態で固着させた新しいタイプのフィブリン接着剤である.TO-193のこれら活性成分が発現する膠着性について,肝臓切除部に対する製剤の接着力を指標に,TO-193の支持体であるスポンジ状コラーゲンシートおよびその類薬である微線維性コラーゲン止血剤Novacol®およびAvitene®と比較した.TO-193はいずれのコラーゲン製剤に比較しても有意に強い接着力を示し,TO-193の活性成分は適用部位において膠着性を発現することが確認された.また,TO-193の骨および皮膚の接着効果ならびに肺および胃に作製した縫合不全部の閉鎖効果について,液状フィブリン接着剤Beriplast® Pと比較検討した.TO-193はいずれの部位においても,Beriplast® Pに比較して適用早期より効果を発現し,その作用強度は明らかに強かった.Beriplast® Pのフィブリノゲン濃度は一定であるのに対し,TO-193では乾燥状態のフィブリノゲンを少量の組織液等で溶解させることから,適用部位に高濃度のフィブリノゲンが存在していると考えられ,両製剤の効果に差が生じた理由の一つとして,適用部位におけるフィブリノゲン濃度の差が関与した可能性が考えられた.また,支持体による適用部位の開裂阻止作用や圧迫適用によるフィブリンの浸透性の向上もTO-193の効果に関与している可能性が推察された.これらの結果は,フィブリンの膠着性を有効に発現させるシート状フィブリン接着剤の有用性を示唆するものと考えられた.
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