日本薬理学雑誌
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ラジカルストレスに対するニューロンの応答
ストレスと細胞応答
赤池 昭紀
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1999 年 114 巻 5 号 p. 273-279

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抄録

特定の神経細胞群の進行性変性という現象は,パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの難治性中枢神経疾患における重要な特徴であり,疾患特異的神経細胞死の重要な要因としてグルタミン酸による興奮性神経毒性と一酸化窒素(NO)やスーパーオキシドアニオン(O2·-)などのラジカル毒性の関与が指摘されている.グルタミン酸神経毒性にはNOとO2·-の反応により生成するperoxynitrite(ONOO-)が重要な役割を果たす.錐体外路系の運動疾患であるパーキンソン病は黒質線条体ドパミン系の障害を特徴とし,その原因としては1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)様物質の蓄積が有力視されている.ドパミンニューロンでは,ラジカルストレスに対するグルタチオンなどの抗酸化物質による防御系が発達しているが,MPTPなどの神経毒によりこのような細胞防御系が破綻し,興奮性アミノ酸刺激が引き金となって生じるラジカルストレスに対して脆弱になると推定される.一方,筋萎縮を主徴とする運動性疾患である筋萎縮側索硬化症(ALS)では,脊髄前核の運動ニューロンの変性が急速に進行する.培養脊髄細胞においてグルタミン酸トランスポーター阻害薬存在下に低濃度のグルタミン酸を長時間投与すると,運動ニューロンに対する選択的毒性が誘発される.脊髄前角では非運動ニューロンの方がグルタミン酸神経毒性に対して抵抗性を示し,その要因としてはcGMPの非運動ニューロンに対する保護作用が重要な役割を果たすと推定される.これらの知見は中枢変性疾患における選択的なニューロン死にはNOおよびO2·-の細胞毒性を制御する細胞内機構が重要な役割を果たすことを示唆する.

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