日本薬理学雑誌
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内因性パーキンソン病発症物質の探索
丸山 和佳子直井 信
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2000 年 116 巻 6 号 p. 333-342

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抄録

孤発性パーキンソン病の原因は不明であるが,ヒト脳に内在するドパミン神経細胞に選択的な神経毒が関与している可能性が示唆されている.神経毒候補物質の中でも脳内でドパミンより2段階の酵素反応により生成されるN-methyl(R)salsolinol[NM(R)Sal]は in vivo においてラット脳黒質ドパミン神経細胞に選択的な毒性を示した.さらに,未治療パーキンソン病患者の脳脊髄液でNM(R)Sal濃度が増加していること,NM(R)Salはヒト脳黒質線条体に蓄積していることが示され,さらに脳内NM(R)Sal生成の律速段階は(R)サルソリノール中性N-メチル転移酵素[nNMT]であることが示唆された.リンパ球におけるnNMT活性を測定したところ,パーキンソン病患者では対照より有意に増加していた.nNMTの活性増加を引き起こす遺伝および環境要因がパーキンソン病の原因に関与している可能性がある.一方,パーキンソン病における神経細胞死はアポトーシスであるとの報告がなされているが,NM(R)Salはヒトドパミン神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞にアポトーシスを惹起することが見い出された.アポトーシスの細胞内シグナルを検討したところ,ミトコンドリアの膜電位低下に引き続きカスパーゼ3の活性化と核の凝縮と分葉,DNAの断裂が認められた.さらに,NM(R)Salの光学異性体であるN-methyl(S)salsolinol[NM(S)Sal]はミトコンドリアの膜電位低下を惹起せず,アポトーシス誘導活性も殆ど認められなかった.ドパミン神経細胞ミトコンドリアにはNM(R)Salの光学異性体を認識し,アポトーシスを起動させる分子が存在する可能性がある.NM(R)Sal以外のパーキンソン病発症物質としては tetrahydroisoquinoline,β-カルボリン等が報告されているが,今後はこれら特定の物質に関する研究だけでなく,分子疫学的研究により孤発性パーキンソン病の原因を探究するとともに疾病を予防あるいは防御する治療法,特に経口投与可能な神経保護薬(抗アポトーシス薬)の開発が必要であろう.

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