日本薬理学雑誌
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Lithium chlorideの行動薬理学的研究
植木 昭和小笠原 孝小川 暢也
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1974 年 70 巻 2 号 p. 285-304

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抄録

マウス,ラットを用いてLiC1の行動薬理学的作用について検討し,chlorpromazineの行用と比較した.1)Open-fieldにおけるラットのambulationならびにrearingはLiClによって抑制され,そのED50はそれぞれ103(52~206)mg/kg,i.p.,48(20-115)mg/kg,i.p.であった.2)中隔野破壊ラットならびに嗅球摘出ラットの情動過多はLiClにより,著明な筋弛緩,運動失調をおこして動けなくなるような400mg/kg,i.p.以上の大量を投与してはじめて抑制された.3)Footshockによって誘発されるマウスのfightingはLiCl,chlorpromazineによって抑制され,そのED50はそれぞれ63(33~120)mg/kg,i.p.および4.5(3.0~6.8)mg/kg,i.p.であった.長期単独隔離マウスのfightingに対するLiclの抑制作用は強く,そのED50は32(22~45)mg/kg,i.p。であった.この作用はLiClを慢性投与しても耐性を発現せず,薬物投与を中止するとふたたびfightingが現われるようになった。4)LiClはshuttle boxにおけるラットの条件回避反応を抑制し,その作用のED50は265(175~410)mg/kg,i.p,.であったが,逃避反応は500mg/kg,i.p.以上ではじめて抑制きれた.LiClおよびchlorpromazineの慢性投与を続けながら,ラットの条件づけを行なった場合,12日後の学習獲得の程度はLiCl 100mg/kg/day,i.p.ならびに200mg/kg/day,i.p.では対照群の約60%,chlorpromazine 1mg/kg/day,i.p,では約50%であった.5)Mescalineによって誘発されるマウスの異常行動はLiClおよびchlorpromazineによって抑制され,そのED50はscratchingに対しては,それぞれ118(69~201)mg/kg,i.p.および1.4(1.0~2.0)mg/kg,i.p.であり,head-twitchに対しては,それぞれ190(98~369)mg/kg,i.p.および2.1(1.5~3.3)mg/kg,i.p.であった.6)Apomorphineによって誘発されるマウスの異常行動はLiclによって抑制され,そのED50はlickingに対しては185(96~355)mg/kg,i.p.であり,bitingに対しては285(151~536)mg/kg,i.p.であった,7)マウスにおけるmethamphetamineの運動量増加作用はLiCl,chlorpromazineによって抑制されそのED50はそれぞれ250(89~1000)mg/kg,i.p.,3.9(1.3~12.1)mg/kg,i.p.であった.8)マウスのthiopenta1睡眠に対して,LiC1はかなり著明な増強作用を示したが,ethanol麻酔増強作用はきわめて弱かった.Chlorpromazineはethano1麻酔増強作用の方がthiopental睡眠増強作用よりも強かった.9)LiClは500mg/kg,i.p.以上をマウスに投与すると,2時間後からcatalepsyを惹起した.10)マウスのrotarod法におけるLiClの協調運動抑制作用はきわめて弱いものであった.11)マウスのinclined screen testにおけるLiClおよびchlorpromazineの筋弛緩作用のED50はそれぞれ,384(295~499)mg/kg,i.p.,4.3(3.2~5.8)mg/kg,i.p.であった.12)LiClはマウスの最大電撃けいれんの後のcomaを延長させた.pentetrazolけいれん閾値はLiClによって低下したが,発現したけいれんは程度が軽かった.13)以上,LiClの行動薬理学的作用は全般的にはchlorpromazineのそれに類似するが,細かな点では,かなり異なった特徴も認められた.

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