抄録
ラット摘出精管の収縮を示標として,経壁刺激 (TS) によるcatecholamine (CA) の遊離機序を,特にacetylcholine (ACh) との関連において検討し,またbretyliumの交感神経遮断機序についても検討した. 1. 諸種薬物による影響に関して, TS, 外因性ACh, 外因性noradrenaline (NA) の各収縮を比較し,第1表の成績を得た. 2. 以上の成績を総合して,次の結論を得た. 1) TS収縮は, adrenergic fiber (AF) とcholinergic fiber (CF) が混在する下腹神経(交感神経)の末端刺激によるAFからのCA遊離とCFからのAChの遊離とによっておこる. TS収縮におけるCAとAChの関与の割合は約9:1である. 2) TSによるAFからのCA遊離に対して, ACh介在の必須性(Burnらの仮説)は否定される. 3) TSによってCFから遊離される内因性AChには, eserine (ES) 非存在下ではCA遊離作用はないが, ES存在下ではCA遊離作用が認められる. 4) 外因性AChの収縮は,低濃度ではACh受容体の直接刺激のみによるが,高濃度ではACh受容体の直接刺激とAFからのCA遊離とによって起る. 5) 内因性および外因性AChによるCA遊離は,いずれも,神経節遮断薬によって抑制されず, atropineによって抑制される,したがって, AF末端にはAChのCA遊離作用に関与するムスカリン様受容体の存在が示唆される. 3. Bretyliumは, TSによるCFからのACh遊離よリもAFからのCA遊離に対して優先的な非可逆的抑制を示し,一方,外因性AChによるCA遊離に対しては,弱い可逆的抑制しか示さない. 4. Bretylium適用(後水洗)により非可逆的に消央されたTS収縮に対し,高濃度NAのincubation (後水洗)は,軽度の持続性回復効果を示し,高濃度のmethamphetamine (MAP) またはCaのincubation (後水洗)は,永続的な強い回復効果を示す.また,これらのTS収縮回復に際して, NAおよびMAPのincubationは, CA遊離のみを回復させ, Ca incubationは, CAおよびAChの両者の遊離を回復させる. AFおよびCFに対するbretyliumの遮断機序は, Caの刺激伝達物質遊離作用に対する競合型拮抗によることが示唆される.