抄録
家兎肝mitochondria MAOに対するsodium cholateの影響を酵素化学的に検討した.Tyramine,benzylamineを基質とした場合,1mM sodium cholateは家兎肝MAO活性にほとんど影響を与えなかったが,その濃度が高くなるにつれ著明な阻害が認められ,50mMでMAO活性は完全に阻害された.しかし,家兎血清MAOに対しsodium cholateはなんらの影響も示さなかった.Tyramineを基質とした場合,sodium cholateはpH曲線,pS曲線になんらの影響も与えなかったが,benzylamineを基質とした場合,対照の場合には認められなかった高濃度基質による阻害が認められた.50mM sodium cholate添加により完全に失活したMAO活性は透析後tyramine基質の場合は約55%の,benzylamine基質の場合は約25%の回復が認められた.種々濃度のsodium cholateで処理した上清,沈殿の各分画のMAO活性は,sodium cholateの濃度が増加するにつれ,上清分画の活性は増加し,これに反し沈殿分画のそれは低下した.Tyramineを基質とした場合,50mM sodium cholate添加で上清分画,沈殿分画のMAO活性はそれぞれ全体の50%であったが,benzylamineを基質とした場合のそれらは約35%,65%であった.Mitochondria分画とsodium cholate処理による上清分画と沈殿分画に於けるMAOの基質特異性を比較検討した.家兎肝mitochondria MAOはtyramineを基質とした場合高活性を示し,serotoninを基質とした場合は低活性を示した.50mM sodium cholateで処理した場合,上清分画および沈殿分画に於てはmitochondria分画とほとんど同様の基質特異性を示した.しかしながら,2.5mM sodium cholateで処理した沈殿分画ではserotonin,tryptamineでmitochondria分画に比較して活性の増加が認められた.これらの結果は,mitochondria内に複数のMAOが存在し,またその局在性も相違していることを示唆している.