1982 年 80 巻 4 号 p. 317-323
脳循環代謝改善薬vinpocetine(TCV-3B)はこれまでに,家兎摘出血管条片標本において,KCl拘縮を弛緩させ,脳底動脈標本のhistamine,serotonin,noradrenaline,prostaglandinF2α,angiotensin II等の種々agonistによる反応を非選択的に抑制することが明らかになっている.そこで,このように非選択的抑制作用を示すTCV-3Bの作用部位の一つとして,血管の収縮・弛緩に関与が考えられている細胞内情報伝達系を想定し,TCV-3Bの血管弛緩作用と血管壁のcyclic AMPおよびcyclic GMPとの関連性について検討した.TCV-3B投与により,血管壁cyclic AMPレベルに変化は認められなかったが,cyclic GMP量はTCV-3Bにより有意に増加し,血管壁cyclic GMP量の増加とTCV-3Bの投与量の間には相関が認められた.さらにTCV-3Bは環状ヌクレオチド合成酵素adenylate cyclase,guanylate cyclaseに影響を与えなかったが,分解酵素Ca2+-calmodulin dependent phosphodiesterase(Ca2+-PDE)を選択的に阻害した.このCa2+-PDEに対する阻害作用はCa2+-calmodulinの存在に影響されず,また基質であるcyclic GMPとも競合しなかったため,TCV-3BはCa2+-PDEに直接作用することで,この酵素の活性を選択的に阻害し,血管壁中のcyclic GMPレベルを上昇させると考えられる.