日本薬理学雑誌
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電気生理学的手法を用いた実験的糖尿病ラットにおける網膜症の早期検出法
佐藤 秀蔵杉本 真次安藤 孝夫宮嶌 宏彰千葉 祐広
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1984 年 84 巻 6 号 p. 509-517

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抄録

電気生理学的手法を用いた糖尿病性網膜症の早期検出法を確立する目的で,streptozotocin(STZ)35および40mg/kgを単回静注したラットの網膜電図(electroretinogram,ERG)および視覚誘発脳波(visual evoked potential,VEP)を無麻酔・無拘束下に経時的に記録した.STZ投与ラットでは全例に血糖,血中sorbitolおよび尿糖の上昇,尿量および飲水量の増加ならびに血中insulinの低下などの糖尿病特有の症状が発現した.これらラットのERG各波は振幅の減少および潜時の延長を示した.とくにb波上律動様小波各波の潜時延長は明確で,STZ投与後3~6週目より各々投与前値に比較して有意に延長した.一方,VEPではSTZ投与後3週目よりERGの抑制に基ずくと考えられるN1潜時の軽度な延長がみられた.STZ投与後9週目に眼球の病理組織学的検索を行った結果,水晶体上皮の腫大および増生ならびに水晶体線維の腫大および空胞化がみられ,一部のラットでは片側性ではあるが網膜全層の菲薄化が観察された.また,STZ投与後4週目からinsulin 10単位/ラットを連日皮下投与した結果,ERGおよびVEPにみられた変化はいずれも投与前値にまで回復した.以上の成績より,本実験で用いたERGおよびVEPの無麻酔・無拘束下での記録法はラットの糖尿病性網膜症の早期診断法として有用であり,さらに糖尿病ラットのERGではヒトと同様,律動様小波に有意な変化が現れることが確認された.

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