日本薬理学雑誌
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塩化レボカルニチン(LC-80)の心臓血管系に対する作用
桐本 吏森川 裕子山田 博明藤澤 茂樹弘中 豊
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1989 年 93 巻 3 号 p. 155-169

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抄録

虚血心筋保護作用を有する塩化レボカルニチン(LC-80)の心臓血管系に対する作用を in vitro および in vivo の実験において検討し,次の結果を得た.(1)摘出ウサギ心筋条片標本において,LC-80は 10-2M の高濃度で右心房標本の拍動数に対して明らかな影響をおよぼさなかったが,右心房および電気駆動乳頭筋標本の収縮張力に対しては投与10分後でほぼ最大に達し20~30分後まで持続する増大作用を示した.しかし,この作用は 10-2M(10mM)という高濃度でのみ認められることから,基礎実験あるいは臨床適用時における通常の薬効量においては発現しない作用であることが考えられた.また,電気駆動乳頭筋標本の isoproterenol(10-10~3×10-7M)による収縮張力増大作用に対しても,LC-80 は 10-2M の高濃度で全く影響をおよぼさなかった.(2)摘出イヌ血管標本において,LC-80 は 10-3~10-2M の高濃度で冠状動脈(左冠状動脈廻旋枝)および伏在静脈の高 K+ 液による拘縮に対して全く影響をおよぼさなかった.(3)麻酔イヌの血管灌流実験において,LC-80 は 10mg までの高用量を動脈内に投与しても冠,大腿,腎,上腸間膜および椎骨動脈の血流量に対して何ら影響をおよぼさず,また, adenosine 10μg の動脈内投与による冠血流量増加作用に対しても全く影響をおよぼさなかった.(4)麻酔イヌの血圧反応において,LC-80 は 100~300mg/kgの静脈内投与によっても norepinephrine 2μg/kgの静脈内投与あるいは両側総頸動脈閉塞による血圧上昇反応ならびに acetylcholine 2μg/kg の静脈内投与あるいは頸部迷走神経電気刺激による血圧下降反応のいずれに対しても何ら影響をおよぼさなかった.以上の実験結果から,LC-80の心臓血管系に対する作用はほとんど無視できるものであることが明らかとなった.特に,LC-80の虚血心筋保護効果において冠血管拡張作用や心機能抑制作用などの関与が否定されたことは,従来の虚血性心疾患治療薬とは全く異なった新しい作用メカニズムを有する薬物である可能性が示唆された.

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