抄録
簡便に,しかも一定した脳機能障害モデル動物を作製することと,その脳機能改善薬の効果検定への応用を目的に実験を行った.脳虚血性健忘モデルの作製には,ddY および ICR 系雄性マウスを用い,両側総頸動脈にそれぞれ糸をかけ,ポリエチレンチューブ中に引き込むことによって血流を遮断する方法を応用した.この方法の利点は thiopental-Na 麻酔下に両側の総頸動脈を剥離して糸をかけ,チューブを装着する短時間の簡単な手術を要するだけで,動物に対する障害がなく,また,無麻酔で簡単に一定時間の脳虚血が得られることである.血流遮断に際して,一側の遮断後30ないし60秒の間隔を置いて他側の遮断を行うことによって,24時間内での死亡例数は著明に減少する.一試行性 step-down 型受動的回避学習実験において,ddY 系マウスでは獲得試行直後の5から30分間の血流遮断によって,24時間後のテスト試行で同程度の一定強度の脳障害健忘モデルを作製することができた.一方,ICR 系のマウスは,脳虚血処置に対する感受性が高く,2分間の虚血で15%,5分間では53%の死亡例がみられ,この処置ですでに脳機能障害が生じた.10分間の脳虚血を施した ddY 系脳機能障害マウスで,学習獲得試行30分前のZ-thiopro-thiazolidine の経口投与によって,24時間後のテスト試行において用量依存的な脳機能改善効果が得られた.また,2種の新規合成 pyrrolidone 誘導体のうち p-chlorobenzyl-2-pyrrolidone-5-carboxylate には 100mg/kgまで用量依存的に,N-(2-pyridylmethyl)-2-pyrrolidone-5-carboxamideでは 30mg/kgをピークとする脳機能改善効果が得られた.以上,簡便な脳虚血操作によって,脳機能障害モデルマウスを作製し,これを脳機能改善薬の検定に応用することができた.