抄録
本研究の目的は,顎関節症状を訴える初診患者の身体的・心理社会的スクリーニング検査として,Research Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(RDC/TMD)Axis ⅠおよびAxis Ⅱを用いることにより,本院におけるTMD患者の現状を把握することである。2012年6月から2014年5月までの24か月間に,新潟大学医歯学総合病院顎関節治療部を受診した初診のTMD患者287人(男性65人,女性222人)を対象とした。身体的スクリーニングはRDC/TMD Axis Ⅰに基づいて行い,また心理社会的スクリーニングとしてRDC/TMD Axis ⅡのGraded Chronic Pain Scale,depressionおよびsomatizationを分析し,Axis Ⅰとの関連を評価した。身体的スクリーニングの結果,Group Ⅰ(筋障害)は対象患者の49.1%と最も多く認められ,Group ⅠaとGroup Ⅰbの割合はほぼ同等であった。Axis Ⅱ診断に関して,depressionでは全体の34.0%がmoderateからsevereであり,somatizationでは43.3%がmoderateからsevereであった。Graded Chronic Pain Scaleでは,9.6%に疼痛による心理社会的問題を認めた。depressionとsomatizationをRDC/TMD Axis ⅠのGroup別に比較すると,depressionとsomatizationともにGroup Ⅰ患者がGroup Ⅱ・Ⅲ患者と比較して有意に高い値を示した(p<0.01)。このことから,Group Ⅰ患者においては心理社会的因子へのアプローチの重要性が示されるとともに,Axis Ⅱ診断の有用性が示唆された。