抄録
本邦においては高齢化がますます進み,高齢者の顎関節脱臼,特に再発性および習慣性顎関節脱臼は増加している。こうした脱臼例には,最初に弾性包帯やチンキャップなどを用いた非観血的療法が試みられるが,みずから取り外したり,装着部に潰瘍を形成し長期装着が困難になることが多い。こうした習慣性顎関節脱臼には通常は観血的療法が適応となるが,高齢者の全身状態を考慮すると侵襲度の大きな手術は躊躇するのが現実である。すなわち,高齢者特有の諸条件を考慮した本疾患の有効な観血的および非観血的療法が確立していない。本論文では,現在のところ一般的に用いられている観血的および非観血的療法を高齢者に適応した場合の問題点について検討した。観血的療法では侵襲度の低い,安全,確実であり,長期予後も安定した結果が望まれる。手術が行えない場合にも安全,確実な治療方法が望まれる。こうした観点より,われわれは観血的療法としては顎関節脱臼防止用プレートを,非観血的療法としては顎関節脱臼防止帽の開発に取り組んでいる。