2018 年 30 巻 1 号 p. 36-43
顎関節症のリスク因子には,外傷,解剖学的因子,病態生理学的因子,心理社会学的因子など多くのものがあることが知られており,そのうち単一の因子,あるいは複数の因子の複合によって発症するものと考えられる。すなわち,顎関節症の原因は患者によって異なっており,生物心理社会学的モデル(biopsychosocial model)の枠組みのなかで,病歴聴取を含む臨床的診察や検査結果を基に,目の前の患者ごとにそれらの複数のリスク因子のなかから推定されるべきである。咬合因子の顎関節症発症における役割について論じた質の高い文献は依然少ないものの,それらの文献は,咬合因子は顎関節症発症のリスク因子の一つにすぎず,咬合が発症の最重要因子となっている症例は決して多くはないというエビデンスを一致して示している。このことは,不可逆的治療である咬合治療は顎関節症の治療法の第一選択ではなく,保存療法,可逆療法を優先すべきであるというメッセージをわれわれに伝えている。