2019 年 31 巻 1 号 p. 8-15
目的:細胞外基質の分解産物が慢性炎症の病態形成に関与することが報告されてきている。フィブロネクチンは代表的な細胞外基質であり,細胞外基質分解酵素によって分解されたフィブロネクチンフラグメント(FN-Fs)が,関節炎の増悪に関与することが報告されている。本研究では,顎関節炎症病態へのFN-Fsの影響を調べることを目的として,培養ヒト顎関節滑膜細胞(滑膜細胞)に30 kDa FN-Fを作用させ,Monocyte chemotactic protein(MCP)の遺伝子発現およびタンパク質産生について検討した。
顎関節内障(顎関節円板転位障害)患者滑膜から得た滑膜細胞にFN-Fを作用させたところ,MCP-1およびMCP-3遺伝子発現は刺激後6時間で,MCP-2は刺激後24時間で有意に発現上昇した。滑膜細胞培養液のMCP-1のタンパク質量は,FN-F作用後24および48時間で有意に上昇した。シグナル伝達経路の検討を目的に,各阻害剤を作用させたところ,MCP-1産生はNF-κB阻害剤によって有意に減少した。
30 kDa FN-Fは,滑膜細胞のNF-κBを活性化して,モノサイト/マクロファージの遊走および活性化を誘導するMCP-1産生を上昇させることが明らかになった。よって,30 kDa FN-Fは顎関節の炎症病態を亢進させる可能性が示唆された。