2020 年 32 巻 3 号 p. 136-143
咀嚼筋痛は慢性筋痛の一つであり,筋・筋膜痛を主病態とし,末梢筋内における侵害受容機構,中枢神経系における疼痛感受機構,疼痛情動・認知の関与が示唆されている。咀嚼筋痛は他の慢性筋痛や慢性運動器疼痛と類似の病態を含むことが推察されることから,末梢局所だけでなく末梢・中枢感作への対応が求められる。現在,運動療法は患者教育とともに慢性疼痛治療のfirst-lineに位置付けられ,さまざまな中枢作動性の鎮痛物質による抗侵害受容機構や中枢性疼痛抑制システムを介して,高い鎮痛効果をもたらすことが期待される。運動処方としては,痛みを伴わない低強度で短時間の運動を高頻度で実施することから始める。運動療法は,患者自身の内因性鎮痛能力を高める根本治療としてのポテンシャルを有することから,歯科領域においても積極的に活用・導入できる治療法の一つになりうる。