2021 年 33 巻 2 号 p. 37-44
本研究は,顎関節円板転位の状態,咀嚼筋痛の存在,変形性顎関節症(OA)の存在が患者の主観的疼痛強度および日常生活支障度に与える相対的な影響度を検討することを目的とした。被験者は顎関節症症状を有する患者393名を対象とした。関節円板動態異常およびOAはMRI検査により診断した。また,触診により咀嚼筋の圧痛を記録した。安静時の痛みおよび咀嚼時の痛みはvisual analog scaleを使用して記録し,日常生活支障度は日常生活動作尺度(ADL)を用いて評価した。統計解析は,従属変数を安静時の痛み,咀嚼時の痛み,ADLとし,それぞれの重回帰分析を実施した。説明変数は年齢,性別,咀嚼筋痛の有無,関節円板の動態異常の分類,OAの有無とし,強制投入法を用いた。安静時の痛みを従属変数とした重回帰分析の結果,年齢(p=0.008)および咀嚼筋痛の存在(p<0.001)が統計学的に有意な説明変数であった。咀嚼時の痛みを従属変数とした重回帰分析の結果,年齢(p=0.034)および咀嚼筋痛の存在(p<0.001)が統計学的に有意な説明変数であった。ADLを従属変数とした重回帰分析の結果,咀嚼筋痛の存在が統計学的に有意な説明変数であった(p<0.001)。以上の結果から,関節円板の状態異常やOAの存在より,咀嚼筋痛の存在が顎関節症患者の臨床症状に与える影響が大きいことが明らかとなり,咀嚼筋痛の改善が優先的な治療目標となる可能性が示唆された。