日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
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33 巻, 2 号
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連載解説
  • 鱒見 進一
    2021 年 33 巻 2 号 p. 31-36
    発行日: 2021/08/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    現代は,標準化された治療を適時に行うことが強く要求される時代である。したがって,日常臨床において顎関節症患者が来院した際に,どのような診察を行って適切な診断を下すかについては,豊富な知識と十分なスキルが必要である。

    顎関節症の初期治療にアプライアンスが用いられること,なかでもスタビリゼーションアプライアンスが広く応用されている現状は,一般によく知られていることと思われる。しかしながら,アプライアンスの製作法や調整法の実際に関しては,専門のトレーニングを受けた者以外には,あまり知られていないのが現状と思われる。

    スタビリゼーションアプライアンスには長い歴史があり,外形や調整法などでさまざまなバリエーションが生み出されてきた。いずれも,その根底にある概念は近接しているが,それぞれに微妙に差異があるのも事実である。

    また,日常臨床では,アプライアンスの装着や調整に長いチェアタイムが必要となることが少なくない。チェアタイムを短縮するためには,正確な印象採得と咬合採得が必要であることはもちろんであるが,アプライアンスの適切な調整も重要である。

    そこで今回,アプライアンス療法の初学者がスタビリゼーションアプライアンス療法を日常臨床に活用していただくことを主眼に,その製作法,使用法,調整法から技工の要点といった基本事項について,ポイントを押さえながら解説する。

原著
  • 髙岡 亮太, 石垣 尚一, 久山 晃太郎, 森口 大輔, 内山 百夏, 中谷 温紀, 島本 博彰, 矢谷 博文
    2021 年 33 巻 2 号 p. 37-44
    発行日: 2021/08/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,顎関節円板転位の状態,咀嚼筋痛の存在,変形性顎関節症(OA)の存在が患者の主観的疼痛強度および日常生活支障度に与える相対的な影響度を検討することを目的とした。被験者は顎関節症症状を有する患者393名を対象とした。関節円板動態異常およびOAはMRI検査により診断した。また,触診により咀嚼筋の圧痛を記録した。安静時の痛みおよび咀嚼時の痛みはvisual analog scaleを使用して記録し,日常生活支障度は日常生活動作尺度(ADL)を用いて評価した。統計解析は,従属変数を安静時の痛み,咀嚼時の痛み,ADLとし,それぞれの重回帰分析を実施した。説明変数は年齢,性別,咀嚼筋痛の有無,関節円板の動態異常の分類,OAの有無とし,強制投入法を用いた。安静時の痛みを従属変数とした重回帰分析の結果,年齢(p=0.008)および咀嚼筋痛の存在(p<0.001)が統計学的に有意な説明変数であった。咀嚼時の痛みを従属変数とした重回帰分析の結果,年齢(p=0.034)および咀嚼筋痛の存在(p<0.001)が統計学的に有意な説明変数であった。ADLを従属変数とした重回帰分析の結果,咀嚼筋痛の存在が統計学的に有意な説明変数であった(p<0.001)。以上の結果から,関節円板の状態異常やOAの存在より,咀嚼筋痛の存在が顎関節症患者の臨床症状に与える影響が大きいことが明らかとなり,咀嚼筋痛の改善が優先的な治療目標となる可能性が示唆された。

症例報告
  • 島田 淳
    2021 年 33 巻 2 号 p. 45-50
    発行日: 2021/08/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    顎関節症は,顎関節,咀嚼筋など運動器の機能障害であり,機能回復には運動療法が有用であるとされている。しかし顎関節症の病態に即した運動療法の手技および指導法について明確にされておらず,手技および指導法を確立していくためには症例数を増やし,それぞれの病態を詳しく評価する必要がある。そこで今回,食事のときに口が閉じなくなることを主訴に来院し,左側非復位性顎関節円板障害と診断された症例と,食事のときに口が大きく開かなくなることを主訴に来院し,左側復位性顎関節円板障害(間欠ロック),右側復位性顎関節円板障害と診断された症例に対して,開閉口運動検査時に,閉口および開口が障害された状態を再現させ,円板障害が生じる位置を確認し,その状態から関節可動域を増やすことを目的とした運動療法として関節可動域訓練を指導した。さらに術者による顎関節腔および関節可動域の拡大を目的とした運動療法として顎関節徒手的授動術を行ったところ,両者とも,閉口障害,開口障害が消失した。これらのことから,顎関節円板障害において,開口運動の量だけでなく,開閉口運動の質の評価を行い,画一的な運動療法ではなく,問題点を明確にして運動療法に反映させることが重要ではないかと思われた。

  • 栗田 武, 小出 馨, 水橋 史, 渡會 侑子, 浅沼 直樹
    2021 年 33 巻 2 号 p. 51-57
    発行日: 2021/08/20
    公開日: 2022/02/20
    ジャーナル フリー

    若年者の変形性顎関節症にアプライアンス療法を施行し,長期的な経過観察を行ったところ,臨床的・画像診断学的に良好な結果が得られたので,その概要を報告する。患者は14歳女性で,開口時における左側顎関節部の痛みを主訴として来院した。初診時の臨床所見では,側頭筋・咬筋の圧痛に加え,機能時痛と開口制限に繋がるクレピタス音を伴う左側顎関節痛を認めた。CT検査では,両側下顎頭に皮質骨の菲薄化と粗造化を認め,加えて左側下顎頭には,矮小変形と平坦化も認められた。顎関節MRI検査では,左側下顎頭に皮質骨の一部に断裂像と,復位を伴わない関節円板前方転位を認め,右側顎関節には復位を伴う顎関節円板前方転位を認めた。以上よりDC/TMDの診断決定樹に従い,顎関節症Ⅰ,Ⅱ,Ⅲa,ⅢbならびにⅣ型と診断した。治療としては,上顎型スタビリゼーションアプライアンスを用いて咀嚼筋群と顎関節への過度な負担の軽減を図るとともに,理学療法と悪習癖に対する指導を行った。これらの治療により,咀嚼筋群と顎関節の安静と咬合の安定化が得られた。加療後4か月で術前に認められた顎関節症の症状は消退し,開口量も正常レベルまで改善した。その後6か月ごとの経過観察を行ってきたが,その間は夜間睡眠時のブラキシズムへの対応として,必要に応じたアプライアンスの装用を指示した。その結果,治療開始から4年経過した時点まで,顎関節症症状の再燃はなかった。また,同時点でのCTとMRI検査により再評価を行った結果,下顎頭部のリモデリングが認められ,変形性顎関節症を示唆する所見は消退しており,経過良好と考えられた。

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