日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
Print ISSN : 0915-3004
ISSN-L : 0915-3004
片側咀嚼時咬合相のバイオメカニクス
窪木 拓男木尾 正人矢谷 博文山下 敦Yoshizo MATSUKAYoichi AMANO
著者情報
ジャーナル フリー

1991 年 3 巻 2 号 p. 288-300

詳細
抄録

変形性顎関節症ならびに顎関節内障の発症には顎関節に加わる負荷が密接に関連していると考えられる。本研究は, 顎関節部負荷の中でも特に, 片側咀嚼時の左右顎関節部負荷について, 咀嚼筋筋電図と顎口腔系構成要素の3次元的な位置関係より構築した生物力学的顎関節負荷モデルを用いて解析を加えた。この際, 主要閉口筋6筋 (左右咬筋, 側頭筋, 内側翼突筋) の咀嚼筋合力を仮想し, これと咬合点ならびに左右下顎頭点を結んだ平面との交点を求め, “咀嚼筋合力の位置”と定義した。下顎骨に加わる咀嚼筋合力の位置ならびに方向から咀嚼時の顎関節部負荷の特徴について検討したところ, 咀嚼開始直後の咀嚼筋合力の位置は食品によらずほぼ正中にあるため顎関節部負荷は非咀嚼側顎関節により大きい負荷が加わるのに対し, リズミカルな片側咀嚼時には咀嚼筋合力の位置が著明に咀嚼側ヘシフトした結果, 顎関節部負荷は, 左右均等に分散される傾向があることが推察された。また, この際の筋合力の傾きは, 前頭面ならびに矢状面でみると咀嚼開始直後から咀嚼側臼歯群の長軸に一致するようシフトしていた。
すなわち, 咀嚼時の顎口腔系は巧妙に中枢によって制御され, 咀嚼筋力の効率的な咬合力への伝達 (transmission) と片側の顎関節に負荷が集中しないよう左右顎関節部への負荷の分散 (distribution) が図られていること, また, その際の咬合力の方向は咀嚼側臼歯群の耐負荷能力の高い方向に一致するよう調節されていることが推察された。

著者関連情報
© 一般社団法人日本顎関節学会
前の記事 次の記事
feedback
Top