1991 年 3 巻 2 号 p. 317-326
顎関節内障において, 復位を伴わない関節円板前方転位症例の治療にあたって, マニピュレーションの奏功しない症例や円板の復位が得られても再発する症例が少なくないことが臨床的に認められている。この原因の一つとして, 関節腔内線維性癒着が考えられる。しかし, 顎関節内障における線維性癒着の発現頻度については明らかではない。そこで, 顎関節腔二重造影検査を施行した181関節について, 上顎関節腔内線維性癒着を示唆する造影像の発現頻度について検索した。
181関節中, 復位を伴う関節円板前方転位は38関節, 復位を伴わない関節円板前方転位は116関節で, 復位を伴わない円板前方転位のうち40関節の円板および後部結合組織に穿孔 (以下, 穿孔) を認めた。
復位を伴う関節円板前方転位では21%に, 復位を伴わない関節円板前方転位では70%に, 穿孔では33%に上関節腔内線維性癒着を認めた。9関節では, 関節円板前方転位を認めず, 線維性癒着のみが存在していた。
顎関節内障における関節腔内線維癒着の発現頻度はかなり高率であり, 顎関節内障の治療にあたっては十分考慮すべき病態の一つであることが示唆された。