日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
Print ISSN : 0915-3004
ISSN-L : 0915-3004
変形性顎関節症を伴う若年患者の歯科矯正治療の1治験例
下顎骨の長期変化
沖村 昭信小澤 奏末井 良和和田 卓郎丹根 一夫
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 7 巻 2 号 p. 395-403

詳細
抄録

変形性関節症 (OA) は, 関節軟骨層の破壊を特徴とする進行性の変性疾患であるが, 15歳以下の若年者における顎関節OAの症例報告は極めて少ない。今回我々は, 顎関節OAを伴った患者の歯科矯正治療を行う機会に遭遇したため, 治療中並びに治療後の症状, 顎関節病態, 顎顔面骨格および咬合の経年的変化について報告する。
患者は当科受診時13歳6か月の女子で, 7歳頃より顎関節雑音を自覚していた。叢生を伴う上顎前突のため12歳時より歯科矯正治療を受けていたが, 転居のため当科へ転医した。当科受診時の最大開口量は36mmで, 顎関節部の圧痛や運動痛は認められなかったが, 両側にクレピタスを認めた。側貌ではオトガイ部の後退を認め, 骨格的には下顎骨の劣成長と下顎下縁平面の開大を示した。同時多層断層X線写真と磁気共鳴映像法 (MRI) 検査から, 両側顎関節円板の非復位性前方転位を伴うOA (Wilkes分類のstage IV) と診断された。
顎関節円板の整位は極めて困難と考えられたため, 開口訓練を行ったところ開口域は40mmに改善した。そこで, 通法に従いマルチブラケット装置による上下顎歯の排列を行った結果, 叢生ならびに上顎前突の改善は達成された。しかし, 治療中も両側のクレピタスは持続し, 保定開始後の2年2か月でオトガイ部の後退, 下顎骨の後下方への回転, 下顎下縁平面の開大が顕著となった。一方, 疼痛や開口障害などは全く認められなかった。
以上より, 本症例のような顎関節OAを伴う患者の歯科矯正治療に際しては, 下顎頭の進行性の吸収が下顎骨の位置変化や咬合の不安定性と何らかの関連性を有することが認められるため, 顎関節病態を十分に考慮した治療の必要性が強く示唆された。

著者関連情報
© 一般社団法人日本顎関節学会
前の記事 次の記事
feedback
Top