日本顎関節学会雑誌
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7 巻, 2 号
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  • 更家 誠, 鎌田 仁, 小林 晋一郎, 大橋 伸一, 高木 忍, 林 優亘, 小川 祐司
    1995 年 7 巻 2 号 p. 289-298
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    顎関節症患者200症例について, 顎関節研究会の症型分類案に基づいて分類し, 臨床統計的観察を行った。
    (1) 症型別頻度は, I型12例 (6%), II型20例(10%), III型52例 (26%), IV型116例 (58%), とIV型が最も多かった。IV型の診断基準となる骨変形の評価については断層X線撮影法が望ましいと思われた。
    (2) 男女比では, 男性51例, 女性147例と女性に多かった。年齢別分布では, 10代-20代と40代にピークがみられ, これは男女別にみても, 症型別にみても同様の傾向であった。
    (3) 左右差では, 左側: 右側: 両側=88:81:31で特に差はみられなかった。
    (4) 歯の所見との関連では, 叢生をはじめとして前歯部にdiscrepancyを示す所見が, 特にIII型, IV型症例に数多く認められた。
    (5) 症型分類と治療期間との関係では, III型症例が最も治療期間が長く, ついでIV型であった。また, 異なる症例に同一の治療法を行った症例の比較では, IV型, III型, II型, I型の順に治療期間が長くなる傾向がみられた。復位を伴う関節円板前方転位例では骨変化の少ないほうが, また復位を伴わない関節円板前方転位例では徒手的円板整位術が奏効する症例において治療成績が良好であり, 併用療法の症例では治療期間の遅延がみられた。
  • 芳賀 満理, 近藤 寿郎, 小早川 元博, 亀井 和利, 伊藤 香里, 今村 栄作, 瀬戸 皖一
    1995 年 7 巻 2 号 p. 299-303
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    われわれは高位関節突起骨折4症例に対し上関節腔パンピングを施行した。本療法は, 顎機能すなわち開口運動の回復に効果的であるとともに受傷関節の除痛に効果を認めた。
  • その問題点と対策
    覚道 健治, 小谷 順一郎, 鈴木 伸二郎, 金 建三, 川端 利明, 白数 力也
    1995 年 7 巻 2 号 p. 304-308
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    顎関節鏡視下剥離授動術を施行し, 術後咽頭浮腫の生じた1例を経験した。患者は43歳の男性で, 右側顎関節開口時痛および開口障害を主訴に来院した。初診時開口距離は26mmで, 多層同時断層X線検査およびMRI検査から右側顎関節症IV型 (非復位性関節円板前方転位) と診断した。パンピングマニピュレーションを含む保存療法を行うも奏効しなかったため全麻下で顎関節の鏡視下剥離授動術を施行した。術直後に軟口蓋から咽頭側壁にかけて, びまん性の浮腫が認められたため, デキサメサゾンを投与するとともに気管内チューブの抜管を延期した。3時間後に浮腫は消退した。
  • 巣山 達, 永井 格, 仲屋 正樹, 小田島 哲世
    1995 年 7 巻 2 号 p. 309-316
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    今回, われわれは, 強い筋症状を呈したI型の顎関節症患者10名に中枢性筋弛緩剤の一つであるAfloqualone (Arofuto®) 単独投与を行い, 臨床的ならびに筋電図学的な変化を経時的に観察した。効果判定基準は, Afloqualone (Arofuto®) 投与1週間以内に症状の完全消失をみたものを著効, 2週間以内に症状の改善をみたものを有効, 2週間経過しても症状に変化がないか増悪したものを無効とした。臨床的観察項目は, 顎関節部, 咀嚼筋および頸部周囲筋の運動時痛, 圧痛の有無, 副作用の有無などについて行い, 投与1週目, 2週目効果判定を行った。筋電図学的観察では, 筋電図の誘導を咬筋, 側頭筋前腹より表面電極を用いて左右それぞれにつき行い, 緊張性頸反射時の振幅に関し, 投与1週目, 2週目の比較検討を行った。
    その結果, 臨床的症状の改善とともに筋電図学的にも筋活動量の有意な改善が認められ, 臨床的な改善傾向を客観的に示す結果となった。また, 10例中8例では2週間の投与期間中に症状の改善が得られ (有効率80%), 本剤は咀嚼筋異常を主病変とする顎関節症の治療薬として, その高い安全性とあいまって, 有用な薬剤と思われた。
  • 林 孝文, 伊藤 寿介, 松下 健, 小林 富貴子, 野村 修一
    1995 年 7 巻 2 号 p. 317-327
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    1994年7月から12月までの間に, 顎関節症状を有する60症例に対し, 10MHz高分解能探触子による超音波断層撮影を施行した。
    超音波断層画像上, 60症例120関節すべてに, 下顎頭外側極を覆う低エコー域を認めた。
    低エコー域の厚みは, 0.2cm未満が33関節, 0.2cmが35関節, 0.3cm以上が52関節であった。
    顎関節部のMRIをこのうち32症例64関節に施行し, その所見を比較した。
    低エコー域の厚みが0.3cm以上であった30関節中全関節に, 0.2cmであった25関節中14関節に, 0.2cm未満であった9関節中4関節に, それぞれMRI上で関節円板位置異常を認めた。
    また, 低エコー域の厚みが0.3cm以上であった27関節中20関節に, 0.2cmであった22関節中6関節に, 0.2cm未満であった9関節中2関節に, それぞれT2強調画像上で高信号域を認めた。
    左右とも無症状でMRI上関節円板位置異常を認めないボランティア3名6関節では, 低エコー域の厚みはすべて0.2cm以下であった。
    同一関節の超音波断層画像とMRIとの比較の結果, 低エコー域は関節包および外側靱帯に相当し, その厚みが0.3cmを越える場合には, 転位した関節円板と関節腔が含まれている可能性があるものと思われた。
    今回の結果より, 10MHz高分解能探触子による超音波断層撮影は, 関節円板位置異常の検出精度はMRIに及ばないことが明らかとなった。しかし, 低エコー域の厚みが0.3cm以上の場合には, MRI上で認められる関節円板転位を示唆している可能性があるものと思われた。
  • 極細径関節鏡による上関節腔後部所見と予後の関連について
    高木 律男, 松下 健, 中山 勝憲, 小林 龍彰, 柴田 寿信, 大橋 靖, 近藤 寿郎
    1995 年 7 巻 2 号 p. 328-338
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    顎関節部に疼痛を伴う顎関節症患者17名 (男性1名, 女性16名, 年齢は17歳から69歳, 平均33歳) に対し, 顎関節腔内洗浄療法を試み, 同時に洗浄用の18ゲージ針から挿入可能な関節鏡を用い腔内の状態を観察したので, その治療成績ならびに診断的意義について報告した。
    方法は, 局麻後下外側穿刺にて上関節腔に21ゲージ針および18ゲージ針を刺入。18ゲージ針から関節鏡を挿入して, 腔内の状態を観察した後, 乳酸化リンゲル液250mlで洗浄した。ステロイド剤を注入し, 抜針後マニピュレーションまたは強制開口を行った。
    評価は, 洗浄前, 処置後2週, 1か月, 3か月において, 疼痛, 開口量の変化および, 鏡視所見との関連について比較した。
    その結果, 疼痛では2週後11例 (64.7%), 1か月後12例 (70.6%), 3か月後14例 (82.4%) で有効であった。開口量ではロック解除例の平均が2週後42.3mm, 1か月後42.0mm, 3か月後45.0mmであるのに対し, 非ロック解除例での平均は2週後で30.2mm, 1か月後で30.8mm, 3か月後で34.5mmであったが, 全体でも平均12mmの増加を認めた。
    また, 上関節腔後部の鏡視所見では, 関節軟骨または関節円板の粗造面 (81.3%), 滑膜炎 (75.0%), 浮遊物 (75.0%), 癒着 (50.0%), 出血 (43.8%) が観察された。これらの所見と予後の関係では, 癒着や浮遊物について, 術後の開口量との関連が示唆された。
  • 川上 哲司, 都築 正史, 匠原 悦雄, 高山 賢一, 森本 佳成, 杉村 正仁
    1995 年 7 巻 2 号 p. 339-344
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    全身状態が重篤であり, 義歯未装着のため顎関節脱臼の発見が遅れ陳旧性となり, 観血的処置を要した無歯顎の陳旧性両側顎関節前方脱臼の1症例を経験したので報告する。
    患者は, 64歳無歯顎の女性で, 他疾患として1991年6月某病院にて頭蓋内動静脈血管奇形の摘出術を受けた。その頃より両側性顎関節脱臼を繰り返し, その都度徒手整復を受けていた。同年12月退院したが翌年1月自宅にて転倒し下肢骨節のため再度入院, その後より義歯は未装着であり, 顎関節脱臼に気づかず放置されていた。同年6月義歯装着したところ不適合であったため近医歯科受診, 顎関節脱臼の精査のため当科紹介来院した。X線所見では, 両側下顎頭が関節結節の前上方へ逸脱しており, 初診時局所麻酔下で徒手整復を施行したが整復困難であった。全身麻酔下でも徒手整復は困難であり, 両側顎関節脱臼観血的整復術 (関節円板および結合組織の除去と外側翼突筋の一部切除) を行い整復可能となった。さらに習慣性脱臼の既往もあり, Dautrey法変法による関節結節形成術を施行した。術後総義歯新製と開口訓練を施行し, 術後16か月で開口度37mm, 体重も術前と比較し10kg増加し, 再脱臼・咀嚼障害および顎関節強直症をきたすことなく, ほぽ良好な顎機能が得られた。
  • 松下 健, 高木 律男, 成 辰煕, 小林 龍彰, 武田 明義, 大橋 靖
    1995 年 7 巻 2 号 p. 345-354
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    各種保存療法にても臨床症状の改善が得られず, 開口練習を主体に治療を行ったロック解除のないクローズド・ロック症例20例について, 開口練習前後および再調査時の臨床所見を比較検討し, 以下の結果を得た。
    (1) 最大開口量は練習前平均26.5mmであったが, 治療終了時, 再調査時にはそれぞれ平均40.2mm, 40.8mmと増加していた。
    (2) 疼痛は練習前は全例に認め重度が6例であったが, 治療終了時は重度は1例のみで, 再調査時にはさらに改善していた。
    (3) 練習前7関節で認められたクレピタスは, 治療終了時には2関節で消失していたが, 7関節であらたにクレピタスが出現していた。それらは再調査時にも変化がなかった。
    (4) 初診時に下顎頭骨変化がなかった13関節のうち8関節は再調査時に新たな骨変化の出現を認めた。また, 初診時に下顎頭骨変化を認めた関節も再調査時に骨形態が変化したものが多かった。
    (5) 米国口腔外科学会顎関節内障手術の効果判定基準を準用した治療効果判定では, 奏効率は85%であった。
    このように臨床症状が著明に改善された症例が多く, 開口練習は各種保存療法にてもロック解除のない難治性のクローズド・ロック症例に対して試みるべき治療法の一つであると思われた。
  • 武藤 寿孝, 川上 譲治, 道谷 弘之, 金澤 正昭
    1995 年 7 巻 2 号 p. 355-364
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    ラット下顎頭に人為的に過剰運動を連続的に与え, 顎関節滑膜組織に及ぼす影響を光顕的に検索した。その結果, 主として上関節腔前方滑膜組織に病理組織学的変化を認めた。その組織像の変化と推移は以下のようであった。
    (1) Hypermobilityという外傷性の刺激に対する滑膜組織の初期の変化は, 滑膜細胞の多層化と滑膜固有層における拡張した血管の増加であった。
    (2) 滑膜炎を呈した部分はフィブリン沈着を滑膜表層に認め, また同部で, 部分的に上下滑膜細胞が近接しているところではフィブリン性滑膜癒着を思わせる像を認めた。
    (3) フィブリン性滑膜癒着は経時的に線維性滑膜癒着に移行していくことが示唆された。
  • 岡部 良博, 藍 稔
    1995 年 7 巻 2 号 p. 365-376
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    咬合支持部位の相違が咬筋, 側頭筋の筋活動に与える影響を詳細に調べるために, 皮下針電極を多数用いて等尺性筋収縮活動を記録し検討した結果, 以下の結論を得た。
    (1) 咬筋, 側頭筋共に同程度の咬合力発揮に必要な筋活動量は個人差が著しかった。
    (2) 各咬合支持部位についての筋活動量は導出部位により異なった。咬筋では前後的には中央あるいは前方部, 上下的には下部の方が高くなる傾向を示した。側頭筋では前部が中部あるいは後部よりも大きくなった。
    (3) 各導出部位について咬合支持部位を変化させると筋活動量も変化した。その変化パターンは各被験者で一定であった。このパターンは咬筋では個人差が著しかった。しかし, 側頭筋では個人差は少なく, 咬合部位が第二大臼歯から第一小臼歯へ移動するにつれて大きくなった。
    (4) 咬合力が5kgfから15kgfへ増加すると筋活動変化率は咬筋および側頭筋で増加した。咬筋と側頭筋を共に測定した被験者では両筋の活動変化率には拮抗関係が認められた。
  • 分類法および同方式による臨床統計学的観察
    栗田 浩, 倉科 憲治, 大塚 明子, 岩原 謙三, 小木曾 暁, 小谷 朗
    1995 年 7 巻 2 号 p. 377-384
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    顎関節症患者のMDO方式による分類法を考案した。分類方法は以下のごとくである。
    MDO方式
    M分類: 筋, 筋膜症状
    M0; 筋, 筋膜症状なし。M1; 筋, 筋膜症状あり。
    D分類: 関節円板動態の異常
    D1; 関節円板の動態異常なし。D1; 復位を伴う転位あり。D2; 復位を伴わない転位あり。 (注) 各種画像診断にて確認した場合には転位方向を付記する。 (ex. a; 前 (内) 方, p; 後方, s; sideway, など)
    O分類: 変形性の骨変化 (単純X線検査)
    O0; 変形性の骨変化なし。O1; 変形性の骨変化あり。
    (例) 筋症状を伴ったクローズド・ロック症例で, 骨の変形は認めない症例→M1D2aO0
    本文類法による臨床統計的観察, 機能障害度との関連を検討した結果, MDOの組み合わせで病態の特徴や, 機能障害度が異なることが示された。MDOすべての診断を表記して分類する本方式は各患者個々の病態を把握するに有用なだけではなく, 病態の重症度を推測するのに有用であると考えられた。
  • 平澤 純子, 石井 昌子, 黒田 敬之, 藤崎 臣弘, 坂本 光徳, 加藤 嘉之
    1995 年 7 巻 2 号 p. 385-394
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    一般集団における顎関節症の発現頻度に関する報告は必ずしも多くない。本研究は青年期女子の間で顎関節症が既往を含め, どの程度の頻度でみられ, それらの頻度が咬合状態とどのような関連があるかを明らかにする目的で着手した。調査は, 18歳から23歳までの女子大学生301人 (平均年齢18.8歳) を対象に行った。アンケートにより, 関節症状を含む19項目について調査した。次に問診および触診により, 顎関節部における主要症状の有無を診査した。すなわち, 顎関節痛, 開口障害および関節雑音の3症状のいずれかの症状が認められるものを有症者, 既往のあるものを潜在的有症者, これら二つをあわせたものを全有症者として取り扱った。さらに口腔内診査により咬合状態の分類を行いこれらの結果を顎関節症状の有無との関係から比較検討した。結果は以下のとおりであった。
    1) 正常者は55.4%, 全有症者は44.5%であった。2) 症状の内訳では雑音が90.2%と最も多く疹痛30.6%, 開閉口障害21.6%であった。3) Angle分類における全有症者率に有意差は認められなかった。4) 不正咬合の分類における全有症者率に5%の危険率で有意差を認めた項目は叢生であった。5) 習慣, 習癖等に対する質問に関しては有症者群と正常者群の問に5%の危険率で有意差の認められた項目は, 「噛みにくい側がある」および「頬づえをつく癖がある」であった。
  • 下顎骨の長期変化
    沖村 昭信, 小澤 奏, 末井 良和, 和田 卓郎, 丹根 一夫
    1995 年 7 巻 2 号 p. 395-403
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    変形性関節症 (OA) は, 関節軟骨層の破壊を特徴とする進行性の変性疾患であるが, 15歳以下の若年者における顎関節OAの症例報告は極めて少ない。今回我々は, 顎関節OAを伴った患者の歯科矯正治療を行う機会に遭遇したため, 治療中並びに治療後の症状, 顎関節病態, 顎顔面骨格および咬合の経年的変化について報告する。
    患者は当科受診時13歳6か月の女子で, 7歳頃より顎関節雑音を自覚していた。叢生を伴う上顎前突のため12歳時より歯科矯正治療を受けていたが, 転居のため当科へ転医した。当科受診時の最大開口量は36mmで, 顎関節部の圧痛や運動痛は認められなかったが, 両側にクレピタスを認めた。側貌ではオトガイ部の後退を認め, 骨格的には下顎骨の劣成長と下顎下縁平面の開大を示した。同時多層断層X線写真と磁気共鳴映像法 (MRI) 検査から, 両側顎関節円板の非復位性前方転位を伴うOA (Wilkes分類のstage IV) と診断された。
    顎関節円板の整位は極めて困難と考えられたため, 開口訓練を行ったところ開口域は40mmに改善した。そこで, 通法に従いマルチブラケット装置による上下顎歯の排列を行った結果, 叢生ならびに上顎前突の改善は達成された。しかし, 治療中も両側のクレピタスは持続し, 保定開始後の2年2か月でオトガイ部の後退, 下顎骨の後下方への回転, 下顎下縁平面の開大が顕著となった。一方, 疼痛や開口障害などは全く認められなかった。
    以上より, 本症例のような顎関節OAを伴う患者の歯科矯正治療に際しては, 下顎頭の進行性の吸収が下顎骨の位置変化や咬合の不安定性と何らかの関連性を有することが認められるため, 顎関節病態を十分に考慮した治療の必要性が強く示唆された。
  • 覚道 健治, 杉村 忠敬, 諏訪 文彦, 方 一如, 白数 力也, 太田 義邦
    1995 年 7 巻 2 号 p. 404-412
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    下顎運動に伴って現れる顎関節下顎窩の力学的反応の特性を解明する目的で, 新鮮ヒト遺体を対象に下顎運動を人為的に行わせて, 下顎窩上壁を構成する側頭骨鱗部大脳面部に生ずるひずみを3軸ストレインゲージ法で測定した。その結果, 内頭蓋底面から顎関節の力学的挙動を観察すると, 下顎運動の経路および下顎位が変わるにつれて, ヒト顎関節部の下顎窩上壁の骨は, 複雑に変形して力学的に対応していた。特に, 開口運動では下顎窩は外頭蓋底方向に沈み込み, 逆に, 閉口運動では, 下顎窩は内頭蓋底方向に膨隆していた。したがって, 関節円板のみならず顎関節を構成している骨にも同部に加わる力を緩衝する働きのあることが明らかになった。
  • 西川 敏文, 川野 晃, 呉本 晃一, 江藤 隆徳, 井上 宏
    1995 年 7 巻 2 号 p. 413-422
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    スタビリゼーションバイトプレートの作用機序には下顎頭の顎関節部への圧迫の緩和, つまりリリーフ効果がその一つとして挙げられている。しかし, プレート装着時の下顎頭の変位についての報告はあまりみられない。特に, 日常臨床での使用頻度の高いスタビリゼーションバイトプレート装着時の詳細な報告はみられず, リリーフ効果の有無についての報告もみあたらない。そこでわれわれは, スタビリゼーションバイトプレート装着時の咬合位での下顎頭の変位量を計測するために, 切歯点で2mmおよび4mm挙上したスタビリゼーションバイトプレート2種類を各被検者ごとに作製し, (1) バイトプレート非装着時, (2) 2mm挙上プレート装着時, (3) 4mm挙上プレート装着時, の三通りについてコンピューターアキシオグラフを用いて下顎頭の変位を測定し, リリーフ効果について検討した。
    結果は, プレート非装着時, 2mm挙上プレート装着時, 4mm挙上プレート装着時, と挙上量を増すにつれ下顎頭は有意に前下方へ変位していた。また, 2mm, 4mm挙上プレート装着時の下顎頭変位は習慣性開閉口運動路上にほぼ一致していた。これらの事より, 咬合を挙上したスタビリゼーションバイトプレート装着により, 積極的な下顎頭の下方牽引は認められなかったものの, 下顎頭の前下方変位により咬合位での顎関節後上方部の圧迫の防護であるリリーフ効果を認めた。
  • 各種治療法による関節雑音の推移について
    水谷 英樹, 服部 宇, 安江 一紀, 千賀 勝広, 上田 実
    1995 年 7 巻 2 号 p. 423-431
    発行日: 1995/09/20
    公開日: 2010/08/06
    ジャーナル フリー
    顎関節症患者を対象に保存的治療を行い, 治療による関節雑音の変化を調査した。対象は97名で, 主訴別では疼痛が最も多く, 開口距離は雑音群以外は減少していた。また, 97症例中69例に平均4.9年の雑音既往を有していた。初診時, 雑音を現症として有していたのは54症例であった。雑音を臨床的に4段階に分類し, 治療により低値化したものを改善とした。初期治療での雑音改善は28%で, 消失は, 54症例中3例のみであった。また, 初診時開口が30mm以下の36症例で, 症状改善に伴い16症例に雑音を後遺した。初期治療後, 障害を有する雑音に対し, 高分子ピアルロン酸製剤の関節腔内投与, 補綴歯科処置, 歯列矯正を行った。雑音改善に対する効果では, 補綴処置が70%, 歯科矯正33%, ヒアルロン酸製剤の投与18%であった。顎関節雑音は, 顎機能の異常の初期や顎関節機能回復の過程で出現し, 心理的要因を含め障害を有する雑音に対してなんらかの処置が必要と思われた。
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