抄録
生産年齢人口において自殺は主要な死因となっており,リスクの高い個人を発見して自殺を未然に防ぐ
ことは倫理的な側面からも,経済的な側面からも,これからの経営において強く求められることである.
自殺したいという思考や自殺の具体的な計画を含む希死念慮は,自殺に最も密接に結びつくリスク要因の
一つである.その一方,日常的なネガティブ体験から「死にたい」という思考が連想される場合もある.
先行研究では死が連想されやすい傾向には個人差があることが示唆されており,さらにその個人差は決定
論的信念によって左右される可能性があるが,これを実証した研究は行われていない.そこで,本研究で
は,ネガティブな思考や体験から死に関する思考が連想されてしまう傾向を計測する質問紙尺度である死
連想傾向尺度を開発した.さらに,縦断調査により,決定論的信念が3カ月後の死連想傾向の増加を予測
することが示された.本研究により,決定論的信念が死に関わる思考を増加させるリスク要因である可能
性が新たに示された.このような個人差の計測を行うことで早期に自殺リスクを発見し,ケアしていく方
法は企業や官公庁におけるメンタルヘルスの問題にも応用可能であると考えられる.