本稿は,言語文化教育研究学会第1回年次大会シンポジウム「教室・学習者・教師を問い直す」での議論を踏まえ,教育実践を共有する意義を考察した。90年代の社会文化的アプローチの台頭は,それまでの日本語教育のあり方を問い直す転機となった。しかし,実際の教育現場における教育アプローチは多様であり,従来の考え方と何がどう変わったのか,教育実践者のあいだで必ずしも認識が共有されているわけではない。「問い直す」ためには,その前提として問い直すべき対象を明確にする必要がある。本稿では,このような問題意識に基づき行われたシンポジウムでの議論を整理し,従来の学習観・能力観からの移行によって協働的学習環境をつくる教師の役割を考察した。現状を変革しようとする教師にとって,他の教師との協働は不可欠である。課題を共有し,望ましい実践の方向性を議論するために,自らの実践を批判的に省察する実践研究が必要であることを主張した。