言語文化教育研究
Online ISSN : 2188-9600
ISSN-L : 2188-7802
論文
シリア出身の日本語学習者の日本語に関する意識とシティズンシップの動態
難民としてスウェーデンに渡った日本語学習者の語りから
市嶋 典子
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 17 巻 p. 71-87

詳細
抄録

本研究は,難民としてスウェーデンに渡ったシリア出身の日本語学習者アリ(仮名)の紛争前から現在までの日本語に関する意識の動態,シティズンシップの内実を,インタビューデータから考察したものである。インタビューは,シリア紛争が勃発する前の2011年3月から紛争勃発後の2017年1月までに実施したものである。インタビューからは,アリにとっての日本語は,①自身の将来の仕事につながるもの,②国境を越えた関係性の構築を実現するもの,③一人の人間として認めてもらうためのもの,④社会や環境を変えていくものであることが浮かび上がってきた。また,アリは,国民国家の枠組みを越え,新たな関係性を構築する一方で,国民国家の枠組みを利用し,自身の将来の仕事に結び付けようと戦略的に考えていた。アリは,言語や国籍,人種の境界性を柔軟に意味づけ,自らの生きる場を変革することを志向しながら,シティズンシップを生成していた。これらの結果を踏まえた上で,外国語が,個人の人生に深く関わり,シティズンシップ生成に寄与する媒体になりうることを主張した。

著者関連情報
© 2019 by Association for Language and Cultural Education
前の記事 次の記事
feedback
Top