抄録
本研究は聴覚障害のある姉弟をもつ筆者が,どのようにして抱えていた生きづらさを乗り越え,過去の経験を再解釈したのか,そのプロセスを記述することを目指したものである。当事者として記述することにより,これまで理解されることが難しいとされていたきょうだいの困難を明らかにすることができる。そのための方法として,本研究では小学校高学年での筆者と弟の関わりを記述したナラティブと両親と学童保育の支援員に対して行ったインタビューでの語りの分析を行った。結果,筆者は聞こえない弟をもつ兄としてあるべき姿を目指し,行動するという抑圧的な観念(ドミナント・ストーリー)を形成していたことが明らかとなった。一方,これまで行ってこなかった両親との姉弟の障害に関する対話や指導員の語りにより,過去の経験を今の自分の中に意味付ける経験の再解釈が促され,自己変容がもたらされたことがナラティブ分析によって示された。