日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
十二指腸乳頭部への露出を伴う広範な主膵管内進展を呈した膵神経内分泌腫瘍の1切除例
宮島 真治 吉川 貴章岡部 誠南 竜城丸岡 隆太郎上尾 太郎岡野 明浩沖永 聡久須美 房子大花 正也
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2016 年 58 巻 10 号 p. 2154-2160

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要旨

症例は40歳男性.2014年2月左側腹部優位の強い痛みを主訴に救急外来を受診した.炎症反応上昇あり,腹部超音波・CT・MRIで造影効果が弱い4cm大の膵体部腫瘍を認めた.脾静脈への浸潤を認め,尾部に貯留嚢胞を伴っていた.ERCPでは頭部主膵管内に不整な陰影欠損の充満があり,体部で主膵管は途絶し,乳頭開口部から易出血性の腫瘤露出を認めた.腫瘤生検にて膵神経内分泌腫瘍(PNET)が強く疑われた.肝左葉に転移巣を認めたが,症状改善目的もあり胃・横行結腸部分切除を含む膵全摘,肝S2部分切除を施行し,PNET(WHO分類grade 2)との診断を得た.PNETが十二指腸乳頭部への腫瘍露出を伴う主膵管内進展を呈することは非常に稀であり,文献的考察を加え報告する.

Ⅰ 緒  言

膵神経内分泌腫瘍は一般に充実性に発育することが多く,主膵管内進展は低頻度,特に十二指腸乳頭部への露出を伴うことは極めて稀である.今回十二指腸乳頭部への腫瘍露出を伴う広範な主膵管内進展を呈した膵神経内分泌腫瘍の1切除例を報告する.

Ⅱ 症  例

患者:40歳,男性.

主訴:心窩部から左側腹部の痛み.

既往歴:特になし.

家族歴:膵癌の家族歴なし.

飲酒歴:機会飲酒.喫煙歴:なし.

現病歴:2014年2月心窩部から左側腹部にかけての痛みを認めた.3日後の夕方同部に冷汗を伴う強い痛みを認め,当院の救急外来を受診し入院となった.

入院時現症:身長170cm,体重50kg,血圧107/70mmHg,脈拍104/分・整,体温37.5℃.

意識清明.眼球・眼瞼結膜に貧血・黄疸を認めず.心音・呼吸音正常.腹部平坦・軟,心窩部から左側腹部にかけ圧痛あり,同部に反跳痛あり.肝触知せず,明らかな腫瘤を触知せず.下肢浮腫なし.

血液検査所見:WBC 12,400/μl(好中球82%),CRP 13.6mg/dlと炎症反応高値を認めた.アミラーゼ222IU/l(膵アミラーゼ92%),リパーゼ293IU/lと膵酵素は軽度高値を呈した.肝・腎機能障害,電解質異常や耐糖能障害を認めず.腫瘍マーカーはCEA 1.4ng/ml,CA19-9 4.6ng/ml,DUPAN-Ⅱ 26U/ml,Span-1 3.4U/ml,proGRP 26.7pg/mlといずれも基準値内であった.

腹部造影CT検査(第1病日):膵は全体に軽度腫大し,膵体部に4cm大の造影効果の低い腫瘤様構造を認め,尾側膵管の軽度拡張と,膵尾部に9cm大の多房性嚢胞性病変を伴っていた(Figure 1-a,b).多量の腹水を認めた.また頭部主膵管は拡張し,内部に淡い高吸収域を認めた.膵周囲脂肪織の濃度上昇は認めなかった.

Figure 1 

腹部造影CT:(a,単純相)膵は軽度腫大し,膵尾部に嚢胞性病変を認めた(白矢印).腹水貯留を認めた.体部に明らかな腫瘍は指摘できない.(b,造影早期相)膵体部に脾静脈途絶や尾側主膵管拡張を伴う,造影効果の低い腫瘤様構造(黒矢印)を認めた.SPV:脾静脈

腹部超音波検査(第3病日):膵体部に尾側主膵管拡張を伴う4cm大の低エコー腫瘤を認め,脾静脈への浸潤が疑われた(Figure 2-a).膵尾部に多房性嚢胞性病変,また多量腹水を認めた.膵頭部から体部の主膵管は著明に拡張し,内部に低エコー腫瘤と連続する5cm長の棒状高エコーを認めた(Figure 2-b).

Figure 2 

腹部超音波検査:(a)膵体部に脾静脈への浸潤を呈し,尾側主膵管拡張(点線矢印)を伴う4cm大の低エコー腫瘤(矢印)を認める.(b)膵頭部から体部の主膵管内に低エコー腫瘤(矢印)に連続する5cm長の棒状高エコー(三角矢印)を認める.SPV:脾静脈

腹部造影MRI検査(第3病日):膵体部にT1強調でほぼ等信号,T2強調で低信号を呈し,軽度の造影効果を有する腫瘤様構造を認めた.加えて膵頭部から体部にかけての主膵管内にT2強調で高信号,T1強調で等信号を呈す5cm長の棒状構造を認めた(Figure 3).

Figure 3 

腹部MRI(T2強調,HASTE):膵頭部から体部の主膵管内にT2強調で高信号を呈す5cm長の棒状構造(矢印)を認める.

また肝S2に1cm大,Gd-EOB-DTPA造影肝細胞相で低信号域を示す腫瘤を認め,転移が疑われた.

FDG-PET検査(第7病日):膵体部腫瘤に有意な集積を認めた(SUVmax 4.2).

上部消化管内視鏡(第9病日):乳頭部に表面に拡張した血管構造を伴う易出血性腫瘤の露出を認めた(Figure 4).生検ではシナプトフィジン陽性で好酸性胞体を有する多角形細胞の索状増殖を呈し,neuroendocrine featureを伴う腫瘍成分が認められた.

Figure 4 

上部消化管内視鏡検査:乳頭部に表面に拡張した血管構造を伴う易出血性腫瘤の露出を認める.

超音波内視鏡(第9病日):膵体部腫瘍の脾静脈浸潤や腫瘍による主膵管途絶,尾側主膵管の拡張が認められた.

ERP(第14病日):乳頭部から約5cmの体部で途絶を認めた.それより頭側の主膵管は拡張し,内腔を充満する様な不整な透亮像を認めた.分枝膵管も拡張を認めた(Figure 5).膵液擦過細胞診では悪性を疑う所見(Papanicoloau染色class4)を認めた.

Figure 5 

ERCP(膵管像):乳頭部から約5cmの体部で主膵管の急峻な途絶を認めた.それより頭側の主膵管は拡張し内部に内腔を充満する不整な透亮像を認めた.同部の分枝膵管も拡張を認めた.

入院後経過:絶食,補液管理の上,上記検査を施行した.また腹水細胞診では腫瘍細胞は検出されなかった(Papanicoloau染色class2).肝S2腫瘍生検では転移の疑いが高い組織を得た.以上から乳頭部まで至る広範な主膵管内進展,脾静脈浸潤を伴うstage4B膵体部腫瘍と診断した.乳頭部腫瘤生検の結果からは組織型は通常型膵癌より神経内分泌腫瘍の可能性が高いと考えられた.また膵尾部の嚢胞形成や多量腹水貯留の機序は,腫瘍による主膵管の閉塞による貯留嚢胞の形成と,その嚢胞の破綻によると考えられた.

食事再開後に膵管閉塞による腹痛を反復しており手術による症状緩和が期待できること,明らかな腹膜播種を認めないこと,入院後1カ月の経過で画像上腫瘍の増大傾向に乏しいこと,PNETであれば肝転移を含めた切除適応となり得ること,基礎疾患のない若年患者で手術の低リスクと考えられること,以上を踏まえ同年4月に手術を施行した.

手術所見:尾側膵は脾,胃,横行結腸,横隔膜と強固に癒着するも,膵体部で後腹膜との癒着なし.#16LNb1は迅速検査で腫瘍陰性.以上を踏まえ膵全摘(D2郭清),肝S2部分切除,胃・横行結腸部分切除術を施行した.

切除標本肉眼所見:膵体部に腫瘍を認め,頭部から体部の主膵管内に腫瘍栓,体部で脾静脈浸潤を認めた(Figure 6).

Figure 6 

手術標本:膵体部に腫瘍を認め,頭部から体部の主膵管内に腫瘍栓,体部で脾静脈浸潤を認めた.尾側に嚢胞を認めた.

病理組織学的所見:膵頭部から体部の主膵管内に5cm長にわたる腫瘤の充満があり,体部腫瘍に連続していた(Figure 7).内部には後述の神経内分泌腫瘍成分が多数含まれた.膵体部では膵実質の大部分は腫瘍に置換されており,主膵管浸潤や脾静脈を含む静脈侵襲が目立った.尾部に貯留嚢胞を認めた.主腫瘍は好酸性胞体を有する多角形細胞の索状増殖を呈し異型は軽度(Figure 8),シナプトフィジン染色で強陽性,グルカゴン,ソマトスタチン,インスリン,ガストリン,セロトニン染色はいずれも陰性,Ki-67 indexは約5%であった.肝S2腫瘍も神経内分泌腫瘍の診断であり,PNET(grade 2),T4N0M1,stage4Bとの最終診断を得た.

Figure 7 

切除標本割面像の病理組織所見:頭部から体部の主膵管内は腫瘍で充満している.

Figure 8 

病理組織学的所見:(HE染色,×400倍)主腫瘍は好酸性胞体を有する多角形細胞の索状増殖を呈する.

転帰:術後は痛みも消失し,経過は順調であった.術後4カ月目に肝両葉に多発転移巣が確認され,術後8カ月,11カ月,14カ月にそれぞれエピルビシン40mg,36mg,40mgを用いた経肝動脈化学塞栓治療を施行し,術後1年5カ月生存中である.

Ⅲ 考  察

膵神経内分泌腫瘍(PNET)は全膵腫瘍の1~2%を占める比較的稀な腫瘍である.ホルモン過剰産生による特有な症状の有無によって機能性腫瘍と非機能性腫瘍に分類される.本症例はホルモン過剰症状を呈さず,免疫組織化学的にもホルモン産生は証明されないため非機能性腫瘍と考えられる.

一般に被膜を形成して膨張性に発育する形態をとることが多いが,本症例では広範な主膵管内腔への進展を認めた.膵管像に変化をきたす機序として,西原らは①膵管の圧排,②腫瘍の膵管内への進展,③線維性間質をもつ腫瘍による膵管の締め付け,の三つを挙げており 1),31-62%で主膵管の狭窄や閉塞をきたし,腫瘍径が大きく組織学的に悪性の症例に高頻度と報告されている 1)~3)本症例は上記②の膵管内進展に相当する.

主膵管内の進展に限ると,PNETにおける頻度は8.7%と報告されており,膵管癌の21.2%に比し低頻度であるがそれほど稀ではない 4).しかし主膵管内進展から十二指腸乳頭部への腫瘍露出や突出を認めた症例は医学中央雑誌(「膵NET/神経内分泌腫瘍/内分泌腫瘍」(症例報告)をkeywordとして内容を検索,1980年~2015年,会議録除く),Pubmed(「pancreatic neuroendocrine/ endocrine tumor」(case reports)をkeywordとして内容を検索,1990年~2015年,会議録除く)での検索にて6例のみであった(Table 1 5)~10).膵管上皮また膵管近傍の内分泌細胞由来が推定されている症例もあるが 7),本例では主膵管外に主座を持つ腫瘍があり,膵実質由来の腫瘍の主膵管内腔への進展と考えられる.本例は膵体部に腫瘍の主座があり,乳頭部までの主膵管内進展長は約5cmであった.他の6例はいずれも膵頭部に腫瘍の主座があり,2例で尾部まで連続する主膵管内進展を認めているが 5),6),頭側への進展長は本例に比し短かった.

Table 1 

十二指腸乳頭部への露出・突出を認めた膵神経内分泌腫瘍の報告例.TP:膵全摘術,PPPD:全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術,PD:膵頭十二指腸切除術,LN:リンパ節,SPV:脾静脈

本例では生検で腫瘍組織が検出されているが確定診断には至っていない.本例を含む7例中4例(57%)で生検にて腫瘍組織が検出されるもGrade評価を含む詳細な診断が可能であったのは1例 8)のみであった.検体の小さな生検標本での確定診断は困難なことが多いと考えられた.

本例を含む7例とも非機能性,また悪性度はWHO分類Grade1-2または高分化でありneuroendocrine carcinomaの症例は認めなかった.全例手術されており5例(71%)で腫瘍径4cm以上と比較的大きいが,7例中3例(43%)では脈管侵襲,リンパ節・遠隔転移とも認めていない.また術後経過では本例を含む2例(29%)で肝転移を認める以外は遠隔転移は報告されていない.伊藤らは 11)PNETの平均腫瘍サイズは1.34cm,また全体の35.0%が悪性,非機能性膵内分泌腫瘍の約半数が悪性,また肱岡らは 12)主膵管内進展を来したPNETは高悪性度と報告しているが,乳頭部への腫瘍露出で報告されたこれら7例は一般的なPNETに比し腫瘍径が大きい傾向はあるものの,予後は必ずしも不良とはいえない結果であった.

PNETの診療ガイドラインでは,肝転移例でも切除可能であれば肝切除を含めた手術適応と成り得る 13).一方通常型膵癌であれば肝転移があれば手術適応外である 14).本症例では乳頭部腫瘤生検や膵液細胞診にてPNETが強く疑われるものの確定診断には至らなかった.膵管閉塞による疼痛の緩和目的もあり手術適応はあったと考えるが,このような症例では膵体部腫瘍に対する経乳頭的な生検やEUS-FNAを適宜行いPNETの確定診断を得ることにより,特に手術適応症例を見逃さないことが重要と考える.

Ⅳ 結  語

十二指腸乳頭部に露出する広範な主膵管内進展を呈した膵神経内分泌腫瘍の1例を報告した.

本症例は日本消化器病学会近畿支部第101回例会にて報告した.

尚,セロトニン染色を施行頂きました京都大学医学部附属病院病理診断科・病理部羽賀博典教授,本論文を御指導頂きました当院病理部本庄原先生,消化器外科待本貴文先生,放射線部野口峻二郎先生,生理検査室スタッフに深謝致します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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