日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
サイトメガロウイルス再活性化を生じたステロイド投与歴のない潰瘍性大腸炎の2例
上田 渉 大川 清孝宮野 正人藤井 英樹大庭 宏子山口 誓子青木 哲哉倉井 修小野寺 正征
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2016 年 58 巻 10 号 p. 2161-2168

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要旨

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)患者に合併するサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症の大部分は,ステロイドや免疫抑制薬の治療歴がある.今回ステロイド投与歴がないにも関わらずCMV再活性化を生じ,治療経過でCMV感染症を発症したため抗ウイルス治療を要したUC患者2例を経験した.1例目は66歳で,再燃時大腸内視鏡検査では発赤,浮腫,びらんのみだが,既にCMVの再活性化を呈していた.ステロイド治療で一旦軽快したが,その後CMV感染症を合併し抗ウイルス治療を要した.2例目は75歳で,再燃時大腸内視鏡検査で浮腫,びらん,小潰瘍のみであったが既にCMV再活性化を生じていた.ステロイドとタクロリムスで一旦軽快したが,CMV感染症を合併し抗ウイルス療法を要した.ステロイド投与歴にとらわれず,高齢者UC患者の再燃時には典型的な内視鏡画像を欠いてもCMVの再活性化を疑いステロイド以外の治療を考慮すべきである.

Ⅰ 緒  言

本邦ではステロイド抵抗性UCの59%にCMV感染症の合併が関与しているとされている 1).ステロイド投与により宿主の免疫能が低下することにより体内に潜伏したCMVが再活性化し,CMV感染症を引き起こし,難治化すると考えられている.しかし,今回ステロイドや免疫抑制薬の投与歴がないにも関わらずCMV再活性化を生じ,ステロイドや免疫抑制薬に抵抗し,ガンシクロビルにて寛解に導くことができたまれなUCの2症例を経験したので報告する.そして,このような症例の臨床像,治療方法,診断方法などについて考察する.

Ⅱ 症  例

症例1:66歳男性.

主訴:下痢,血便.

既往歴:高血圧.

現病歴:61歳時にUC(左側結腸炎型)を発症し,5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤の経口投与のみで寛解を維持していた.66歳時に排便回数20行/日の下痢と血便が出現した.大腸内視鏡検査でUCの増悪と診断され当院に転院となった.

現症:身長158cm,体重54kg,体温36.1℃,血圧130/80mmHg,脈拍72/分.心音,呼吸音に異常なし.腹部は平坦,軟も左下腹部に圧痛を認める.

入院時血液検査成績:WBC 11,010/mm3,CRP 6.8mg/dl,Hb 11.1g/dl,Ht 34.6%,総蛋白6.8g/dl,アルブミン2.8g/dl,CMV-IgG 128倍,CMV-IgM陰性であったが,血中CMV antigenemia2個/slide(C10/C11法),血中CMV-DNA 8.5×102 copy/mlと陽性であった.

大腸内視鏡検査(Figure 1):直腸から上行結腸にかけて連続性に発赤,浮腫,びらんが認められたが,類円形潰瘍,打ち抜き潰瘍などは認めなかった.

Figure 1 

直腸から上行結腸まで,連続性,びまん性に粘膜の粗造,膿性付着物,黄色白点を認めたが,打ち抜き潰瘍や縦走潰瘍は認めなかった.

入院後経過(Table 1):腹痛,排便回数から潰瘍性大腸炎中等症であり,プレドニゾロン40mg/日の投与を開始した.第4病日にプレドニゾロン投与前の血液検査から,血中CMV antigenemiaと血中CMV-DNAが陽性と判明したが,便回数の減少と血便の消失,CRPの低下がみられたため抗ウイルス薬は投与せず,UCの治療を継続した.しかしCRPは陰性化せず,第30病日には血便と発熱がみられたため,大腸内視鏡検査を施行した(Figure 2-a,b).下行結腸からS状結腸には打ち抜き潰瘍と広範な地図状潰瘍が認められ,CMV感染症の合併が疑われた.生検結果では核内封入体やCMV免疫染色は陰性であったが,CMV antigenemiaは6個/slide(C10/C11法),血中CMV-DNAは2.6×104copy/mlと増加しCMV感染症合併のUCと診断した.ガンシクロビル(2.5mg/Kg)を投与したところ速やかに臨床症状は改善し,CMV antigenemia,血中CMV-DNAは治療後正常化,3カ月後には潰瘍も瘢痕化した.

Table 1 

入院後経過.

Figure 2

a,b:下行結腸からS状結腸には打ち抜き潰瘍と広範な地図状潰瘍が認められた.

症例2:75歳男性.

主訴:腹痛,下痢,血便.

既往歴:HBVキャリア.

現病歴:74歳時にUC(左側結腸炎型)を発症した.5-ASA製剤のみで寛解導入されたが,約1年後に腹痛,下痢(10行/日),血便と38度の発熱を認めた.貧血が進行(Hb13.3g/dlから9.0g/dl)したため当院に入院となった.

現症:身長162m,体重65kg,体温38.4度,血圧120/84mmHg,脈拍90/分.眼瞼結膜に貧血あり.

心音,呼吸音に異常なし.腹部は平坦・軟も下腹部に圧痛を認める.

入院時血液検査成績:WBC 6,700/mm3,CRP 6.0mg/dl,Hb 8.2g/dl,Ht 26.1%,総蛋白7.3g/dl,アルブミン2.4g/dl,CMV-IgG 128倍,CMV-IgM陰性であったが,血中CMV antigenemia3個/slide(C10/C11法),血中CMV-DNA 5.5×103 copy/mlと陽性であった.

入院時大腸内視鏡検査(Figure 3):直腸から上行結腸まで,連続性に粘膜の浮腫,びらん,潰瘍を認めたが,打ち抜き潰瘍,縦走潰瘍などは認めなかった.

Figure 3 

直腸から上行結腸まで,粘膜の浮腫,びらん,潰瘍を認めたが,打ち抜き潰瘍,縦走潰瘍などは認めなかった.

入院後経過(Table 2):絶食,持続点滴としプレドニゾロン40mgを開始した.第4病日にはプレドニゾロン投与前の血中CMV antigenemia,血中CMV-DNA,粘膜中CMV-DNAがいずれも陽性と判明したが内視鏡所見からは明らかなCMV感染症の合併は考えにくかった.第5病日にプレドニゾロンに抵抗性と考え,タクロリムスの投与を開始したところ,CRPは遷延するものの臨床症状は軽快した.だが第12病日から再び血便,排便回数増加がみられ,第2回目の大腸内視鏡検査を施行した(Figure 4-a,b).下行結腸からS状結腸に白苔の乏しい類円形潰瘍や地図状潰瘍が多発し直腸にも打ち抜き様潰瘍が散在していた.血中CMV antigenemiaは8個/slide(C10/C11法),血中CMV-DAN 6.8×103copy/ml,粘膜中CMV6.0×105 copy/μg/DNAと入院時より増加していた.CMV感染症の合併と診断し,ガンシクロビル(1.25mg/Kg)投与した.ガンシクロビル投与後臨床症状は軽快し,CMV antigenemia,血中CMV-DNAは陰性化した.タクロリムスからチオプリン製剤に移行し6カ月後には潰瘍は瘢痕化した.

Table 2 

入院後経過.

Figure 4

a,b:下行結腸からS状結腸に白苔の乏しい類円形潰瘍が多発し,直腸にもやや深い潰瘍が散在していた.

Ⅲ 考  察

CMVは,βヘルペスウイルス亜科に属するDNAウイルスで本邦では約50-80%のヒト成人に不顕性感染する 2).一旦感染したCMVは骨髄ではCD34+/33+前駆細胞に潜伏感染し,末梢血では分化したCD14+monocyte系細胞に潜伏感染している 3).これらの細胞が,炎症の存在する組織でTNF-αやIFN-γ等の炎症性サイトカインでマクロファージや樹状細胞に分化すると,CMVの再活性化が誘導される.通常再活性化が生じても,局所ではCD8陽性T細胞やCMV特異的抗体により感染制御がなされる 4).しかしUCでは活動期の治療としてステロイドや免疫抑制薬が用いられるため,粘膜局所のCMV再活性化がコントロールできず,CMV感染症を合併すると考えられる.このことは1961年Powellら 5)がUCにCMV感染症が合併した症例を報告して以来稀ではなく 1),6),7),CMV感染症合併がUCの難治化や重症化に関与することが知られている.実際欧米で重症例の21-34%,ステロイド抵抗例の33-36%にCMV感染症合併がみられ 8),本邦でも中等症以上のUC患者では32.8%,ステロイド抵抗性症例では57.4%にCMV感染症合併がみられる 1).一方,UCの炎症によるサイトカインの産生が粘膜局所でCMVの再活性化を惹起し,局所の炎症コントロールが不十分,かつ免疫抑制療法が加わるとCMV感染症を引き起こし,難治化する.本2症例のCMV感染症合併の機序はそれにあたると考えられる.両症例ともステロイド治療前にCMV antigenemiaと血中CMV-DNAが明らかに陽性を示し,これらの値はステロイド投与後に臨床症状が増悪した際には,さらに増加を示していた.つまり高齢者という潜在的に免疫力低下状態にあるUC患者で,再燃時に局所の炎症性サイトカインの関与からCMVの再活性化が生じた.その後ステロイド投与により,一旦炎症の改善が得られたものの,CMV感染症を合併し,抗ウイルス療法を要したものと考えられた.症例2に関してはステロイドに加えてタクロリムスも併用した.高津らは 9),高容量のステロイドとタクロリムスの併用により,過度の免疫抑制状態となり,その結果CMV再活性化からUCの増悪につながった症例を報告しており,症例2も同様の機序が考えられた.医学中央雑誌および関連文献でステロイド投与歴のないUC患者にCMV感染症を合併した症例を検索した(Table 3).以前にわれわれが報告したものを含めて,初感染や詳細不明例を除くと今回の2例を含めて4例であった 10),11).年齢はすべて65歳以上の高齢者であり平均年齢は71.3歳であった.性別はすべて男性であった.病型は1例が初回発作型で3例は再燃寛解型であった.診断根拠はCMV核内封入体が1例,CMV antigenemia陽性が1例,CMV antigenemiaと血中CMV-DNA陽性が1例,CMV antigenemia,血中CMV-DNAと粘膜中CMV-DNA陽性が1例であった.いずれの症例もガンシクロビルの投与で臨床症状,内視鏡像とも軽快していた.内視鏡像に関しては他の2例はCMV感染症合併UCに多いと言われている打ち抜き様潰瘍や縦走潰瘍を呈していた.一方,今回の2例では治療前では打ち抜き様潰瘍や縦走潰瘍はまったくみられず,通常の中等症~軽症のUCと同様の内視鏡像を示していた.しかし,ステロイド治療後に増悪した際にはこれらの内視鏡像を呈するようになった.このことからステロイド投与のないUC症例で,内視鏡所見からCMV再活性化があるかどうかの判断は困難と考えられた.ステロイド投与歴がなくても,高齢者のUC初発あるいは再燃においては,治療前にCMV再活性化の有無を調べる必要性を今回の2例は示している.そしてCMV再活性化が生じていると確定した場合は,CMV感染症を生じにくい治療を選択することで良好な治療効果が得られ,無駄な抗ウイルス治療を避け得る可能性があると考えられる.

Table 3 

ステロイド・免疫抑制剤投与のない潰瘍性大腸炎とCMV腸炎合併例.

抗ウイルス治療の必要性とタイミングについて,MatuokaらはUC治療中に一過性にCMV再活性化を生じたが,ステロイドなどの減量のみで血中CMV antigenemiaは陽性から陰性となり,抗ウイルス療法を必要としなかったと報告している 12).これは血中CMV antigenemia法は,CMV再活性化のモニタリングには有用であるが,必ずしも抗ウイルス療法の投与決定にはならないことを示している.European Crohn’s and Colitis Organizationのガイドラインでは組織でCMV免疫染色陽性もしくは血中,組織中のCMV-PCRが陽性の場合に抗ウイルス療法を投与するよう推奨している 13).しかし,CMV免疫染色法の感度は低く,粘膜CMV-PCRは感度は高いが,炎症に関与していない細胞のCMVも拾い上げる可能性があるRoblinらは,粘膜CMV-PCRが250copies/mg以上を抗ウイルス療法の適応と述べている 14).今後粘膜CMV-PCRでカットオフ値が決まることで,大腸粘膜においてCMV再活性化のみか,CMV感染症を生じているかの鑑別が可能となるかもしれない.

なお抗ウイルス療法以外の治療に関して,Fukuchiらは,粘膜中CMV-DNA陽性の活動性UC患者のうち73.3%が白血球除去療法(週2回)で寛解導入され,粘膜中CMV-DNAも陰性になったと述べ,白血球除去療法がCMV再活性を生じたUCに有効であると報告している 15)

今回の2例はいずれも5-ASAで治療中に再燃した症例であるが,症例1のような中等症の症例には白血球除去療法が有効であった可能性がある.またTNF-αがCMV再活性化に関与していることから,CMV再活性化を生じたUCに対して抗TNF-α製剤の有効性が期待される 16).つまり症例2のような重症の症例には抗TNF-α製剤をステロイドを投与せず用いることが理論的に好ましいと考えられる.そしてこれらの治療で効果がない場合にはガンシクロビルの投与を考慮すべきと考えられる.石川らの症例は初発でCMV感染症を合併したUC症例であり,まず5-ASAを投与し,5日後のCMV感染症合併と診断した時点でガンシクロビルを投与することで寛解していた.

今回集計した4例中核内封入体が検出されたのは1例のみである.もう1例はCMV antigenemiaのみで診断されていた.われわれの2例はCMV antigenemiaと血中CMV-DNAの両方が明らかに陽性のためCMV感染症と診断し,実際にガンシクロビル治療で軽快したためCMV感染症の診断は間違いなかったと思われる.UCに合併したCMV感染症の最も最適な検査法の組み合わせに関しては今後の課題である.

Ⅳ 結  語

ステロイド,免疫抑制薬の投与歴がない高齢者UC患者の再燃時には,既にCMV再活性化が生じていることがあり,各種CMVの検査が必要である.もしCMV再活性化を生じた活動性UCと診断した場合はステロイド以外の治療を考慮すべきである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2016 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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