2016 年 58 巻 10 号 p. 2191-2198
【目的】Cold snare polypectomy(CSP)の有用性と安全性,問題点について検討を行った.【方法】CSPにて切除した陥凹型を除く10mm以下の大腸ポリープ645病変を対象とし,後出血,クリップの有無,断端陰性率,一括切除率,病変回収率について高周波凝固によるポリペクトミー(HSP)と比較検討した.【結果】CSPにおいて後出血は認めず,クリップ使用も少なかった.また,断端陰性率66.7%,ポリープ一括切除術97.5%,病変回収率99.5%で,対象群であるHSPとの差はなかった.CSPの導入初期:後期の断端陰性率は56.3:80.3%であった.【結論】CSPは手技的なlearning curveが存在するが安全性,有用性が高く,適応病変の見極め,切除後の内視鏡的評価を十分に行うことで,非常に有効な治療法となりうる.
大腸腺腫性ポリープをすべて摘除することにより,clean colonを達成すれば大腸癌発生を76-90%抑制し,死亡率を53%低下させるというNational Polyp Studyの報告により 1),2),本邦でも小型ポリープの安全で簡便な治療法であるCold snare polypectomy(CSP)の有用性が報告されている 3).これまで本邦で一般的に行われてきた,高周波凝固装置での通電によるポリープ摘除は出血や穿孔といった偶発症が常に懸念されるが,通電を用いないCSPは熱凝固の影響で遅発性に粘膜下層の血管が傷害されて生じる後出血を来すことが少ないと予想される.その一方で,熱凝固による組織挫滅の効果が期待できないため,CSPでは通電によるポリープ摘除に比べ,腫瘍の遺残が懸念される.今回われわれは大腸ポリープに対するCSPの有用性と安全性とともに問題点ついて検討を行った.
2015年4月から12月までに,通電を行わないCSPにて大腸ポリープを切除した331症例(645病変)をretrospectiveに検討した.CSPをCold群とし,対象群として高周波凝固によるこれまでの通常のpolypectomy(Hot snare polypectomy;HSP)にて大腸ポリープを切除した症例をHot群とした.Hot群は2015年4月から2015年5月までの298症例(546病変)を対象とした.Cold群は筆者が施行した症例で,Hot群は修練を十分に積んだ内視鏡学会専門医8名が施行した症例である.さらに,Cold群については前期(2015年4月-8月)184症例と後期(2015年9月-12月)147症例にわけ,経時的な検討も行った.使用したスネアはCSP(前期)およびHSPはBoston Scientific社製のRotatable Snare 20mmを使用し,CSP(後期)についてはBoston Scientific社製のProfile 13mmを使用した.切除対象とするポリープの肉眼型は,無茎型(Ⅰs),亜有茎型(Ⅰsp)および陥凹型(Ⅱc)を除く表面隆起型(Ⅱa),表面平坦型ポリープ(Ⅱb)で,茎部に流入血管を伴う場合が多い有茎型(Ⅰp)および微小ポリープでも担癌率が高いとされる陥凹型(Ⅱc) 4)および混在型(Ⅱa+Ⅱc,Ⅰs+Ⅱc)は除外した.ポリープの大きさは腫瘍径10mm以下とし,切除後に内視鏡観察で遺残がないことを確認した.また,亜有茎型(Ⅰsp)はスネアにより十分な絞扼を行っても,切除しきれず,通電を行わずには,切除困難な症例があるため腫瘍径を8mm以下とした.「後出血」は内視鏡的止血術を必要とするもので,治療の前後でHb 2g/dl以上の低下あるいは顕性の出血を認めたものと定義した5).また,内視鏡的切除後に下血を認め,切除後出血を疑うも,貧血を呈さず内視鏡的止血を必要とせず,経過観察を行ったものを「切除後血便」と定義した.評価項目として,一括切除率,病変回収率,病理診断,後出血の有無,肉眼形態・大きさによるクリップ使用の有無,腺腫性ポリープにおける水平断端陰性率について検討した.また,CSPについて,導入時期における肉眼型,大きさ別の腺腫性ポリープの水平断端陰性率を検討した.
患者背景はTable 1であり,症例あたりの平均切除数,一括切除率,病変回収率について両群で差は認めなかった.切除病変について,病変の部位,肉眼型,大きさ別で,Cold群とHot群ではほぼ同等であった.切除ポリープの平均腫瘍径はそれぞれ5.0(±1.8)mm,4.9(±1.7)mmで,切除病変の病理組織診断の内訳はTable 2の通りであった.内視鏡的切除を行うべきと考えられる腺腫性ポリープはそれぞれ82.9%(535/645),84.8%(463/546)であった.切除後に出血を来した症例は,Cold群で1例(0.4%),Hot群で11例(2.0%)であり,後出血についてはCold群では認めなかったのに対し,Hot群では6例(1.1%)に認めた.切除後血便は,Cold群で1例のみ認めたが,切除後2病日目に排便時にわずかな出血を認め,経過観察した症例であった.Hot群では5例(0.9%)に切除後血便を認めた.後出血についてはいずれも7日以内に起こっており,穿孔はいずれの群にも認めなかった(Table 3).クリッピングは,Cold群では7.4%にのみであったが,Hot群では半数以上の56.8%に施行していた.クリップ施行例におけるポリープの肉眼形態,大きさの内訳をみると,Cold群の平坦型ポリープに対するクリッピングはほとんど行われていなかった.6-8mmの亜有茎型ポリープでは,Hot群と同様にクリッピングが行われていた.一方,Hot群では肉眼形態にかかわらず施行される傾向にあり,5mm以下の小ポリープについても多くの症例でクリッピングが行われていた(Table 4).腺腫性ポリープの水平断端陰性率はCold群で断端陰性が66.7%,断端不明(判定困難)32.9%で,断端陽性を2例に認めた.一方,Hot群では断端陰性が70.3%,断端不明(判定困難)29.5%で,断端陽性を1例に認めた.両群間で明らかな差は認めなかった(Table 5).CSPの切除断端について,腺腫性ポリープの水平断端陰性率を導入初期からの推移でみると,前期では56.3%であるのに対し,後期では80.3%であり,後期において明らかに,水平断端陰性率が高かった.また,これらを肉眼型別,大きさ別にみると,小さな平坦型ポリープの切除断端陰性率が増加していた(Table 6).
患者背景.
臨床的特徴の比較.
後出血と穿孔.
ポリープ切除時におけるクリップ施行率.
腺腫性ポリープにおける水平断端陰性率.
Cold snare polypectomyにおける腺腫性ポリープの水平断端陰性の割合.
近年,小型ポリープの安全で簡便な治療法であるcold polypectomyの有用性が報告されている.小林ら 6)は病変発生のリスクが上昇する要素を検討した結果,微小ポリープを切除せずに経過観察をすれば徐々に個数が増加する可能性を考慮すれば,原則切除をする方が望ましいと報告している.一方で,5mm以下の腺腫性ポリープの担癌率が0.2%程度にすぎない 7)ことを考えると,積極的に切除を行うためには,後出血といった治療の合併症が少ないことが前提となり,CSPは安全で簡便なポリープ切除方法 3),8)ということから有効な手段になると考える.これまで本邦で一般的に行われてきたHSPにおいて,最も懸念される偶発症が後出血である.消化管は組織学的に粘膜固有層に細い動静脈と毛細血管網が存在するが,粘膜下層には大小の血管が発達している 9).後出血は高周波凝固により粘膜筋板に熱傷を生じ,この熱傷の影響で遅発性に粘膜下層の血管を傷害することから発生する.このため,HSPにおける予防的クリッピングに後出血を防ぐ効果がないとの報告もすでになされている 10),11).Okaらによると内視鏡切除時に関する偶発症として,HSPには後出血が1.3%に認められ,遅発性穿孔が0.17%に認められた報告している 12).CSPでは,熱傷により粘膜下層の血管を傷害することがなく,そのため後出血を来すことも少ないと考えられる.また,堀内らによると,ワーファリン内服治療患者におけるCSP群とHSP群の臨床的特徴の比較 13)した結果,CSPでは後出血を認めなかったとし,抗血栓薬継続下でも安全にpolypectomyが施行できる可能性が示唆されている.CSPを行う際に生じる出血については,通常の生検などで発生する毛細血管からのoozing程度であれば,十分に注水を行うことで速やかに止血が確認できるためクリッピングは行わない(Figure 1-a,b).注水を行った結果,切除断端からはっきりとした動脈性出血や洗浄を十分に行った後も流れ出る静脈性出血を認めた場合は,注水によっても止血には至りにくいためクリッピングを行う(Figure 1-c,d).CSPの場合,熱凝固による潰瘍形成はないため,この時点で止血がなされていれば,後出血することはないと考えられる.今回のわれわれの検討でもCSPにおける後出血は認めなかった(Table 3).Table 4はポリープ切除時におけるクリップ施行率を示しているが,CSPのクリップ施行率は極めて低い.亜有茎型ポリープは茎部に栄養血管を含むことがあり,CSP,HSPともに比較的多くの症例でクリップが施行されているが,平坦型ポリープについてはCSPではほとんどクリップを使用しておらず,費用対効果および内視鏡施行時間の短縮の点からも優れている.このようにCSPは安全性・簡便性・費用対効果の点で有用な手技であるが,一方で,高周波凝固による組織挫滅の効果が期待できないため,腫瘍の切除断端における遺残が懸念される.腺腫性ポリープにおける水平断端陰性率をみると,CSPが66.7%,HSPが70.3%と両群で明らかな差は認めなかった(Table 5).HSPは熱凝固による周辺組織の焼灼効果もあるため,ポリープ径とほぼ同径でスネアリングを行うことが多い.一方で,熱凝固の効果がないCSPでは切除断端が陰性になるように十分なmarginを確保する必要がある.Cold群について前期および後期に分けて検討を行ったところCSPの前期は水平断端不明な症例が多く認められたが,後期は水平断端陰性率が80.3%であり,Hot群と比較しても遜色ない摘除が可能と考えられた(Table 6).CSPを行う際は,病理組織検査に耐えうる検体を提出するためにも十分なmarginを確保することが大切であり,切除におけるCSPの特性を理解し,手技的なlearning curveが存在することも念頭に行っていく必要がある.
CSPにおける出血およびクリッピング.
a:上行結腸,7mm,0-Ⅰs,腺腫.切除直後にoozingを認める.
b:十分に洗浄を行い止血状態であることを確認し,クリッピングは施行せず.
c:上行結腸,5mm,0-Ⅰs,腺腫.切除後,十分に洗浄を行い,流れ出る静脈性の出血を認める.
d:出血部に対し,クリッピングを行い,止血.
CSPの適応病変は,腺腫性ポリープが大きさとともに担癌率も増えることを考慮に入れると無茎型(Ⅰs),陥凹型(Ⅱc)を除く表面隆起型(Ⅱa),表面平坦型ポリープ(Ⅱb)で10mmまでについて行うことが望ましい.亜有茎型ポリープ(Ⅰsp)については大きくなるとスネアにて絞扼した部分が内視鏡的に視認しにくくなること,また,絞扼しても切除しきれない症例を認めることを念頭に切除することが望ましい.実際,大きなポリープをCSPで切除した際に完全に絞扼しても切除しきれない症例や切除した際に切除中央に白色調の索状物を認める症例が存在する.これは粘膜筋板および粘膜下層が絞扼され索状物として残存したものある.Tutticciら 14)によると,垂直断端について,これらの索状物を追加で切除し,病理組織学的検討を行ったところ,追加切除標本にポリープ成分の遺残は認めなかったと報告している.
CSPにおける切除断端についての長期フォローは,まだ明確な結論が出ていない.悪性を疑う病変はもとより,陥凹型病変についても,微小病変でもSM浸潤を来す症例もある点から,現時点ではCSPを積極的には行わないことが望ましい.遺残,再発については,Ichiseら 15)によるとHSPとCSPを受けた患者のうち,3年以内にフォローアップ内視鏡検査を実施した患者では有意な差は認めなかったとの報告し,Horiuchiら 16)は8mm以下のポリープ切除についてCSPとHSPのどちらにおいても切除後3年後の遺残再発は認めなかったと報告している.一方で,切除後再発例が少なくないという報告もある 17).
CSPは安全性,簡便性から大腸ポリープ切除における有用性は高い.特に平坦型の5mm以下のポリープについては良い適応であり,十分なmarginを確保して切除することで完全摘除でき,病理学的評価に耐えうる切除標本の回収も可能と考えられる.一方で,手技的なlearning curveが存在し,病変の遺残・再発の有無については臨床試験などを含めた長期的フォローも必要である.CSPを行う際には,適応病変を見極め,十分な切除marginを確保したうえで,切除後は色素染色やNBIなどを用いて,内視鏡観察で遺残がないことを確認することが肝要である.生検と手技的な安全性がほぼ同等と考えられるCSPは,今後は近年増加の一途をたどる抗血栓薬服用中の後出血のリスクが高い患者に対しても可能と考えられ,さらなる安全性の検討が必要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし