日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
内視鏡的に整復し得た大腸亜全摘術後小腸捻転症の1例
中尾 栄祐 淺井 哲加納 由貴竹下 宏太郎一ノ名 巧赤峰 瑛介藤本 直己小川 淳宏
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 58 巻 11 号 p. 2273-2278

詳細
要旨

症例は84歳の女性.潰瘍性大腸炎に対して大腸亜全摘術を施行されている.腹部膨満感を主訴に近医を受診され,腸閉塞疑いで当院へ紹介搬送となった.来院時の腹部CT所見より小腸捻転症と診断し,UPD(Endoscope Position Detecting Unit:内視鏡挿入形状観察装置)補助下に内視鏡的整復術を施行した.約6週間後に再発するも,同様に内視鏡的整復術に成功し,以後,再発を来たしていない.今回,大腸亜全摘術後と特殊な症例ではあったが,UPDを用いることで安全に内視鏡的整復が可能であった小腸捻転症の1例を報告する.

Ⅰ 緒  言

成人発症の小腸捻転症は比較的稀な疾患であり,そのほとんどが手術加療を要する病態である 1).近年,S状結腸捻転症に対する内視鏡的整復術は一般的に行われているが,小腸捻転症に対して内視鏡を用いて整復し得たという報告はほとんどない.今回われわれは,大腸亜全摘術後と特殊な状況下ではあったが,成人発症の小腸捻転症に対してUPD補助下で内視鏡的に整復し得た1例を報告する.

Ⅱ 症  例

患者:84歳,女性.

主訴:腹部膨満感.

既往歴:潰瘍性大腸炎(2000年に大腸亜全摘術施行),腸閉塞,高血圧症,慢性心不全,慢性腎臓病,気管支喘息.

現病歴:2015年6月某日に腹部膨満感を主訴に近医を受診され,画像所見などから腸閉塞疑いで当院へ紹介搬送となった.

入院時現症:身長142cm,体重42kg,意識清明,体温36.8℃,血圧120/66mmHg,脈拍78回/分・整,SpO2 99%(室内気).胸部に理学的異常所見なし.腹部はやや膨隆しているが軟で,臍周囲に軽度の圧痛を認めたが,腹膜刺激徴候は認めなかった.腸蠕動音は聴取可能であった.

検査所見:血液検査ではCRP 2.40mg/dlと炎症マーカーは軽度高値を示し,Hb 10.5g/dl,Ht 32.4%と貧血を認めた.また,Cre 1.11mg/dlと腎機能障害を認め,K 5.5mEq/Lと軽度高値を認めた.しかし,AST・LDH・CPKなどの逸脱酵素は基準値内であった(Table 1).腹部単純CTでは腹水や遊離ガスは認めなかったが,術後吻合部から口側の小腸は著明に拡張し,鏡面像を認めた(Figure 1-a).また,吻合部近傍の小腸で,腸管が渦巻き状に腫瘤を形成する,いわゆるwhirl signを認め(Figure 1-b),同部位での小腸捻転が示唆された.

Table 1 

臨床検査成績.

Figure 1 

初発時の腹部CT.

a:小腸は著明に拡張しており,鏡面像を認める.

b:whirl signを認める.

入院後経過:以上より,大腸亜全摘術後の小腸捻転症と診断し,腸管血流評価のために造影CTが必要であったが,慢性腎臓病および気管支喘息の既往があることから,造影CTは積極的には勧められないと判断し,施行しなかった.来院時のバイタルサインに異常はなく,腹膜刺激徴候も認めないこと,血液検査所見などを総合的に判断して,腸管壊死には至っていないと判断した.外科と相談し,手術の選択肢も考慮したが,高齢で腎機能も悪く,大腸亜全摘後でさらに腸閉塞の既往もあり,周術期合併症のリスクが高いことから,まずは内視鏡的に観察を行い,壊死所見がなければ愛護的に内視鏡的整復を試みる方針とした.また,消化管穿孔や整復困難となる可能性,緊急手術へ移行する可能性を患者およびその家族に十分に説明を行った.狭窄部は肛門から約15cmのところに存在し,その狭窄部を慎重に通過したところ(Figure 2-a),粘膜面はやや暗紫色で血流障害を疑う所見であったが,腸管壊死を強く疑うほどではなかった(Figure 2-b).さらに深部へ挿入し,最終的にUPD画面で解除可能と判断できるところまで挿入した(Figure 3).仰臥位で腸管形状と前後関係を三次元で把握した上で,愛護的にスコープを右へ捻り,UPD画面で直線化方向へスコープが変位することを確認しつつ整復可能であった(使用スコープはOlympus社製 CF-H260DL).UPD画面で腸管が直線化されていることを確認し(Figure 3-b),さらに排ガスを認めたことからも整復されたことが確認された.絶食管理として治療を開始し,第3病日に排便がみられたため,同日より食事を開始した.その後の経過は問題なく,第7病日に退院となった.退院後は外来通院で再発予防目的に酸化マグネシウム内服で排便コントロールを行っていたが,退院後42日目に,再度腹部膨満感を主訴に救急外来を受診された.来院時の腹部単純CTでは前回同様,吻合部より口側の小腸は拡張し,鏡面像を呈しており,前回とほぼ同じ場所にwhirl signを認めたことから,小腸捻転症の再発と診断した(Figure 4-a).さらに,腹水は認めないものの,肝周囲に微小な遊離ガスを認めたことから(Figure 4-b),腸管壊死に伴う穿孔が疑われたが,腹部所見や血液検査所見からその可能性は低く,同時に小腸壁内ガスを認めたことから(Figure 4-c),腸管気腫症に伴う漿膜面のみの穿破と判断した.以上より,外科のバックアップのもと,再度十分なインフォームドコンセントを行い,内視鏡的な観察とそれに引き続く捻転整復を試みる方針とした.内視鏡所見も前回同様,肛門から15cmの部位に狭窄を認め,狭窄部通過後も明らかな壊死所見を認めず(Figure 5),UPD画面を参照して合併症なく整復可能であった.整復直後にフォローアップの腹部CTを施行し,遊離ガスが増加していないことを確認した.その後は排便コントロールを継続し,2016年1月現在,再発なく経過している.

Figure 2 

初発時の大腸内視鏡所見.

a:捻転部位と思われる狭窄を認める.

b:狭窄部通過後の粘膜面はやや暗紫色だが,腸管壊死を強く疑うほどではなかった.

Figure 3 

UPD所見.

a:腸管形状と前後関係を三次元で把握することが可能であった.

b:直線化されたことが確認できた.

Figure 4 

再発時の腹部CT.

a:初発時とほぼ同様の部位にwhirl signを認める.

b:肝表面に微小な遊離ガスを認める.

c:小腸壁内に微小なガスを認め,腸管気腫と考えられる.

Figure 5 

再発時の大腸内視鏡所見.

初発時と同様,腸管壊死を強く疑う所見は認めなかった.

Ⅲ 考  察

腸捻転症はそのほとんどがS状結腸に発生し,次いで盲腸に多く,小腸に発症することは稀である.小腸捻転症はその成因から,腸回転異常や腸間膜固定不全などが原因となる先天的要因によるもの,基礎疾患や解剖学的異常を認めない原発性,術後癒着や憩室・腫瘍などが原因となる続発性に分類される 2).本症例では潰瘍性大腸炎に対して大腸亜全摘術が施行されており,術後癒着の存在が疑われ,続発性に分類されると考える.医学中央雑誌で「小腸軸捻転」「続発性」をキーワードに検索した結果(2016年1月時点),9例の報告があり,原因として術後癒着,小腸GIST,腸間膜嚢胞,外傷,虫垂炎が挙げられている.

本症の診断には,特徴的な身体所見は存在せず,腹痛・嘔吐・腹部膨満感などの腸閉塞症状を呈する.腹部CTでは上腸間膜動静脈を中心とした渦巻き状の小腸の巻き込み像である「whirl sign」が有用であると報告されている 3),4).本症例においても,初回・再発時ともに腹部単純CTで指摘可能であり,診断の一助となった.

これまでに潰瘍性大腸炎に対する大腸亜全摘術後に吻合部で腸捻転を来たした1例は報告されているが 5),本症例は病態・治療内容ともに稀な1例である.既報では捻転が自然に解除されたと推定されているものもあるが 6),本症のほとんどは手術加療が必要である.医学中央雑誌で「小腸捻転」「内視鏡」をキーワードに検索した結果(2016年1月時点),会議録ではあるが小腸内視鏡を用いて整復可能であったとする1例のみの報告 7)である.本症例は腹部CT所見から捻転部が肛門から比較的近いところに存在すると考えられ,大腸内視鏡で到達可能であると判断した.また,腎機能障害を認めたために腹部造影CTは施行できていないが,腹部所見・血液検査所見から総合的に判断して腸管壊死には陥っていないと判断し,整復困難や消化管穿孔などの合併症のリスクは伴うものの,侵襲の程度を考慮して,まずは内視鏡的整復を試みる方針とした.実際,捻転部までは肛門から約15cmと到達可能なところに存在しており,腸管壊死を強く疑う所見もなく,内視鏡的捻転整復に成功し,低侵襲な治療が可能となった.

再発時の腹部CTで指摘された遊離ガスに関しては,肝表面にごくわずかに認める程度であること,腹痛は軽度で腹膜刺激徴候は認めなかったこと,血液検査所見で炎症マーカーや逸脱酵素の上昇を認めなかったことに加えて,拡張した小腸の一部に壁内気腫を認めたことから,腸管の全層性のいわゆる「消化管穿孔」ではなく,漿膜の一部が破綻し,壁内気腫のガスが一部漏出したことによる少量の遊離ガスであったと考えられる.腹腔内遊離ガスを伴う腸管気腫症の報告は過去にいくつかあり,栂野らの報告 8)によると,消化管穿孔を伴わない腸管気腫症による腹腔内遊離ガスの報告は65例存在し,それらのうち43例はやはり消化管穿孔を否定しきれずに手術が行われていた.本症例は実際に腹腔鏡などで消化管穿孔の有無を確認したわけではないため断定できないが,捻転整復後の経過からも,やはり消化管穿孔は否定的であり,腹腔内遊離ガスを伴う腸管気腫症に属すると考えられた.再発時の整復後に施行したフォローアップの腹部CTにおいて,腹腔内遊離ガスが増加していなかったことからも裏付けられる.

本症例において安全に捻転整復可能であった要因の一つに,UPDの使用が挙げられる.UPDは一般的に大腸内視鏡挿入時の補助として用いられているが,当院では腸捻転整復時にもX線透視ではなくUPDを用いている.そのメリットは,X線透視を必要としないため被爆の問題がないこと,スコープの前後関係から三次元で内視鏡形状を把握できるため,体位変換なしでも捻転方向が容易に確認できる点であると考えている.当院ではUPD補助下でのS状結腸軸捻転症に対する内視鏡的整復術の有用性を報告してきた 9),10).当院での成功率は95.6~97.4%と高く,既報 11)の77.1%と比較して良好な成績であった.合併症に関しても,翌日に消化管穿孔を認めた1例のみであり,合併症発生率においても良好な成績であった.これらの結果をもとに,本症例においてもUPD補助下での内視鏡的捻転整復術を試み,合併症なく整復可能であった.実際にはUPDを保有している施設は限られており,本症例ではX線透視下でも整復は可能であったと考えられるが,どちらも使用可能な状況においては,場所を選ばず,被爆の問題がないUPDが勧められると考える.また,X線透視下であれば,整復後に腸管ガスが移動する様子を可視化できることがメリットであると考えるが,その点に関しては整復成功後まもなく排便・排ガスがあることで十分に代用できるものと考える.

今後,稀ではあると思われるが,同様の症例に遭遇した際には,侵襲の少ない内視鏡治療,特にUPD補助下での内視鏡的整復術も考慮すべき治療の1つと考える.しかし,腸管壊死や消化管穿孔の有無などに注意し,適応は慎重に判断する必要があると考える.

Ⅳ 結  語

成人発症の小腸捻転症という比較的稀な疾患を経験し,さらにUPD補助下に大腸内視鏡を用いて安全に整復可能であったため,若干の文献的考察を加え報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2016 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top