日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
膵頭部分枝膵管に迷入した膵管ステントを内視鏡的に回収した1例
飯塚 泰弘 間野 真也小林 克誠古本 洋平淺野 徹堀内 亮郎佐﨑 なほ子忠願寺 義通藤木 和彦
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 58 巻 11 号 p. 2287-2293

詳細
要旨

症例は53歳女性.重症胆石性膵炎の加療後に膵仮性嚢胞を認め,主膵管の狭窄も認めたため7Fr 7cmストレート型プラスティックステント(以下PS)を留置したが経過中にPSの迷入を認めた.PS乳頭側端は膵頭部分枝膵管に迷入したと考えられ,バスケットカテーテルやバルーンカテーテルでは回収することができなかった.膵尾側のフラップからガイドワイヤー(以下GW)を挿入し,GWを介してPS用プッシャーで尾側へ押しこむことで乳頭側端を主膵管に戻し,ステントリトリーバーを用いて回収することができた.膵頭部分枝膵管への迷入のため外科的手術に回収が必要であった報告もあり,同様の症例に対して本症例が参考になると考えここに報告する.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的膵管ステント留置術の偶発症として膵管ステントの迷入が報告されている 1)~3).放置することにより膵炎や膿瘍形成を引き起こす可能性があり 1),2)回収が必要であるが,膵管内腔は狭いため処置具の使用は制限され難渋することが多い.今回,膵頭部分枝膵管に迷入したと考えられた膵管ステントを膵尾側のフラップからガイドワイヤーを挿入しステントを膵尾側へ押しこむことで回収できた1例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:53歳,女性.

主訴:特になし.

既往歴:高血圧,脂質異常症,脳梗塞,胆嚢結石.

嗜好歴:飲酒なし,喫煙なし.

内服薬:アスピリン,アトルバスタチン,アムロジピン,エソメプラゾール,カモスタットメシル酸塩,バルサルタン,パンクレリパーゼ.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:2012年11月脳梗塞で入院中に重症胆石性膵炎を発症し内科的加療を施行された.膵炎改善後のCTで膵鈎部・体部に膵仮性嚢胞(以下嚢胞)を認め,増大傾向であった.2013年2月にERPを施行したところ,膵頭部主膵管に1.0mmの狭窄を認め,膵体部主膵管は2.7mmと軽度拡張し,嚢胞と主膵管とは交通していた.十二指腸乳頭から嚢胞までは5cmであり5Fr 7cm膵管プラスティックステント(以下PS)(ストレート型・両側フラップ型,Geenen®:Cook)を留置した.その後,PS閉塞による嚢胞感染のためENPDチューブ(Nasal Pancreatic Drainage Set:Cook)に変更したところ感染は改善し,嚢胞は縮小したため4月に7Fr 10cm PS(ストレート型・両側フラップ型,Geenen®:Cook)を留置した.十二指腸乳頭から嚢胞までは8cmであった.その後,PS閉塞を認めたが嚢胞は消失していたため10月に抜去した.

2014年5月のCTで膵体部に嚢胞が再燃し9月には増大したため(Figure 1),10月にERPを施行したところ(Figure 2),膵頭部主膵管に1mmの狭窄を認め,膵体部主膵管は5mmと拡張,主膵管と嚢胞とは交通しており,5Fr 12cm PS(ストレート型・両側フラップ型,Geenen®:Cook)を留置した.十二指腸乳頭から嚢胞までは6cmであったが嚢胞が大きく十分な長さを嚢胞内に留置するため12cmを選択した.11月に心窩部痛を認め精査の結果,嚢胞縮小に伴いPSが十二指腸へ抜けてきたことにより十二指腸壁に接触し疼痛が出現したと考えられたため,7Fr 7cm PS(ストレート型・両側フラップ型,Geenen®:Cook)に入れ替えた.嚢胞は10月と比較し縮小していた.また,十二指腸乳頭から嚢胞までは5cmであった(Figure 3).12月の上部消化管内視鏡検査時に十二指腸乳頭部にPSを認めず,腹部レントゲン・CTで膵内にPSを認めたためPSの迷入と診断し2015年1月に回収のため入院となった.

Figure 1 

膵仮性嚢胞再燃時の画像所見.

a:CTでは膵と連続する単房性で整な壁を有し内部が均一な液体で満たされる嚢胞を認め,膵仮性嚢胞と考えられた.主膵管と交通を認め,膵尾部主膵管は拡張していた.

b:MRCPでもCTと同様の所見を認めた.

Figure 2 

2014年10月施行のERP所見.

a:膵頭体部の主膵管造影では,膵頭部に1mmの狭窄(矢印),膵体部主膵管は5mmと拡張を認めた.

b:主膵管造影で嚢胞が造影され主膵管と交通していた.嚢胞は長径93mmであった.

Figure 3 

2014年11月のERPでは嚢胞は長径38mmと縮小していた.

入院時現症:体温36.1度,血圧120/82mmHg,脈拍82回/分・整,眼球結膜に黄染なし,胸部に異常所見なし,腹部は左上腹部に軽度圧痛を認めるも平坦・軟であり反跳痛は認めなかった.

入院時臨床検査成績(Table 1):白血球の左方移動を認めるも白血球増加なし.CRPの軽度上昇,血糖値上昇,総蛋白・アルブミン値の低下を認めた.血清アミラーゼ(AMY)値は基準内値であった.

Table 1 

臨床検査成績.

ERP所見(Figure 4):留置中のPS乳頭側端は十二指腸内腔に認めなかった.透視で確認するとPS乳頭側端は膵頭部の主膵管外に位置しており膵頭部分枝膵管に迷入していると考えられた(Figure 4-a).膵管に造影カテーテル(MTW ERCP-catheter®:MTW)でカニュレーションしPSに沿うようにガイドワイヤー(以下GW)(VisiGlide®:0.025inch angle:Olympus Medical Systems)を留置した.PSを膵尾側へ押し込み迷入している乳頭側端を主膵管に戻すことが回収には必要と考え,バスケットカテーテル(Reforma®:PIOLAX)でPS膵尾側を把持しようとしたが主膵管が細く展開できずに断念した.次にバルーンカテーテル(4mm:Hurricane®:Boston Scientific)をPSに沿わせて拡張することにより膵尾側へ押し込むことができたが完全に主膵管には戻らず断念した.しかし,膵尾側のフラップからPS内にGWを挿入することができ(Figure 4-b),GWを介してPS用のプッシャーで膵尾側に押し込みPS乳頭側端を主膵管に戻すことができた.主膵管内は細くバスケットカテーテルが展開できなかったため生検鉗子やスネアの展開は困難と考え,また処置具の展開による膵管損傷を防ぐことができることから回収にはステントリトリーバーを使用することとした.造影カテーテルで膵管にカニュレーションしGWをPS乳頭側端より挿入し(Figure 4-c),GWを介してステントリトリーバー(Soehendra®:Cook)を使用して迷入したPSの回収に成功した(Figure 4-d).主膵管造影では膵頭部の狭窄部は2mm,膵体部が3mmと2014年10月と比較し膵頭部の狭窄と膵体部主膵管の拡張はともに改善傾向となっていた(Figure 4-e).その後,PS迷入防止のために8.5Fr 8cm S字型PS(Pancreatic Stent®:Olympus Medical Systems)を留置して終了とした.

Figure 4 

2015年1月迷入ステント回収時のERP所見.

a:膵管ステントの乳頭側端は膵頭部の主膵管外に迷入していた(矢印).

b:膵管ステント膵尾側のフラップからガイドワイヤーを挿入することができた(矢印).

c:膵管ステント乳頭側端が主膵管に戻り,乳頭側端よりガイドワイヤーを挿入することができた(矢印).

d:ステントリトリーバーにてステントを回収している(動画記録より).

e:抜去後の主膵管造影では膵頭部の狭窄部は2mm,膵体部主膵管は3mmと狭窄・拡張は改善傾向となっていた(矢印).また,虚脱した嚢胞も造影された(矢頭).

経過:ERP施行前より感染予防のためCPZ/SBT:1g×2回/日の点滴投与を開始し,ERP施行後にはERP後膵炎予防のためジクロフェナク座薬:50mgを投与した.施行日夕方に腹痛と白血球・血清AMY値の上昇(白血球:10,800/μl・AMY:203U/l)を認めたためガベキサートメシル酸塩:600mg/日,ウリナスタチン:5万単位×3回/日の投与を開始,CPZ/SBT:1g×2回/日の投与を継続した.ERP翌日は炎症反応・血清AMY値の上昇は軽度(WBC:6,400μl・CRP:1.15mg/dl・AMY:273U/l)であり腹痛も改善傾向であったため同日でガベキサートメシル酸塩は中止し,炎症反応・血清AMY値も改善傾向となりERP後4日目にウリナスタチン・CPZ/SBTを中止とした.食事開始後も,腹痛・炎症反応・血清AMY値の増悪は見られずERP後6日目に退院となった.ERP後11日目に膵炎を発症し,膵管ステントを抜去しENPDチューブ(Nasal Pancreatic Drainage Set:Cook)を留置した.膵炎は改善しERP後14日目のERPでは膵頭部主膵管の狭窄は1.3mm,膵体部主膵管は4.3mmと狭窄・拡張は増悪を認めたため8.5Fr 8cm S字型PS(Pancreatic Stent®:Olympus Medical Systems)を留置した.5月にPSを交換する予定であったが,ERPにて膵体部主膵管は3.8mmと軽度拡張が残存していたが,主膵管の狭窄は改善し嚢胞も消失していたためPSを抜去し,その後は嚢胞の再燃は見られず経過観察中である.

Ⅲ 考  察

膵管狭窄,仮性膵嚢胞に対する治療やERCP後膵炎予防のための内視鏡的膵管ステント留置術の有用性が報告されており 1),4),本邦では2012年に保険収載された.偶発症としては,膵炎,十二指腸穿孔,ステント迷入,ステント逸脱,ステント閉塞,門脈穿孔などが報告されている 1)~3),5)

ステント迷入は海外では5.2-7.2% 6),本邦では0.5% 7)で生じているとの報告がある.自然排出した報告 8)や回収不能のため膵管内に残存しているが無症状で経過している報告 2)などもあるものの,放置することにより膵炎や膿瘍形成を引き起こす可能性があり基本的には回収が必要である 1),2).膵管内腔は狭く処置具の操作に制限があるため難渋することも多く内視鏡的な回収には様々な工夫が報告されている.しかし,内視鏡的に回収が不可能である場合には手術が必要になることもあり 2),膵頭部分枝膵管に迷入し内視鏡的に回収が不可能であったため手術で回収した報告もある 9),10).迷入ステントの内視鏡的な回収には生検鉗子,バスケットカテーテル,バルーンカテーテル,スネア,ステントリトリーバー,細径のステント,長先細り型カテーテル,血管内処置具などを使用する報告 2),7),11)~16)がある.また,Matsumotoらは膵管の形態や狭窄の位置,迷入したステントの状態によりステント迷入を4つの型に分類し,それぞれの対処法を解説しており 2),迷入ステントの回収の際には参考になる.

本症例では膵頭部分枝膵管に迷入していると考えられたため,ステント全体を膵尾側へ押し込み分枝膵管に迷入したと考えられた乳頭側端を主膵管に戻してから回収しなければならず難易度の高いものであった.バスケットカテーテルやバルーンカテーテルを用いても迷入した乳頭側端を主膵管内に戻すことができなかったが,膵尾側のフラップよりガイドワイヤーを挿入することで乳頭側端を主膵管内に戻すことができ,ステント全体を内視鏡的に回収することに成功した.

ステント迷入予防にはS字型膵管ステント 17)や片側pigtail型ステント 7)を使用することが有用とされている.本症例では5Fr 12cmストレート型のPSを留置していたが,接触による疼痛の改善と更なるブジー効果を期待しより太く短い7Fr 7cmに変更したところ迷入を生じた.内視鏡的乳頭括約筋切開術や内視鏡的膵管口切開術は行っていなかったが,主膵管の狭窄部がPSの留置によるブジー効果で改善傾向となったことやPSを短くしたこと,十二指腸乳頭が後壁側を向いており乳頭対側壁に接触しやすかったことにより主膵管内に迷入し,さらに嚢胞が縮小し乳頭側への力が加わったことにより乳頭側端が膵頭部分枝膵管に迷入してしまったと考えられた.ストレート型膵管ステントによるステント迷入であったため,迷入予防のためS字型膵管ステントを留置しその後はステント迷入は生じていない.

前述のように膵頭部分枝膵管に迷入した場合は回収に難渋し手術による回収が必要になることもあるため,手術による回収の回避のため同様の迷入が生じた際には本症例の方法は有用な可能性があると考えられた.

Ⅳ 結  語

膵頭部分枝膵管に迷入したと考えられたPSを,膵尾側のフラップからガイドワイヤーを挿入しPS用プッシャーで膵尾側へ押しこみ,ステントリトリーバーを用いて内視鏡的に回収できた症例を経験した.同様の迷入症例でバスケットカテーテルやバルーンカテーテルで膵尾側への押しこみが困難である場合には,本症例の方法は有用な可能性があると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2016 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top