日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
シングルバルーン小腸内視鏡による一人法挿入のコツ
細江 直樹 緒方 晴彦金井 隆典
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2016 年 58 巻 11 号 p. 2305-2313

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要旨

ダブルバルーン小腸内視鏡(Double-balloon enteroscopy:DBE)が発表された後,シングルバルーン小腸内視鏡(Single-balloon enteroscopy:SBE),スパイラル小腸内視鏡(Spiral enteroscopy)が報告され,これらの小腸内視鏡を総称し,Device-assisted enteroscopy:DAEというカテゴリーの内視鏡として現在では取り扱われている.本邦においては,DBEを導入している施設と,既存の内視鏡ビデオスコープシステムに合わせてSBEが導入されている施設が混在している.今回は,DBEとの相違を踏まえ,SBEを用いた一人法挿入に絞って解説する.バルーン内視鏡を深部挿入するには,スライディングチューブ(ST)のバルーンを一歩ずつ深部に挿入する必要がある.したがって,スコープバルーンのないSBEを用いる場合はSTを押し進める際に注意が必要である.

Ⅰ はじめに

ダブルバルーン小腸内視鏡(Double-balloon enteroscopy:DBE)は,Yamamotoら 1)によって開発,報告され,現在では,小腸疾患に対する,診断,治療に不可欠なデバイスとなっている.DBEが発表された後,シングルバルーン小腸内視鏡(Single-balloon enteroscopy:SBE) 2),スパイラル小腸内視鏡(Spiral enteroscopy) 3)が報告され,これらの小腸内視鏡を総称し,Device-assisted enteroscopy:DAEというカテゴリーの内視鏡として現在では取り扱われている 4).DBEを中心に,本邦においてDAEは発展してきたが,本邦においては,DBEを導入している施設と,既存の内視鏡ビデオスコープシステムに合わせてSBEが導入されている施設が混在している.筆者らの施設では幸運にもDBE,SBE両者の内視鏡が導入されており,術者の好みや状況に合わせて両者を使用している.過去に「手技の解説」では,大塚ら 5)がSBEの挿入法解説を行っているが,今回は,DBEとの相違を踏まえ,一人法挿入に絞って詳しく解説する.また,新規発売となった「受動湾曲」「高伝達挿入部」を搭載したショートシングルバルーン内視鏡(SIF-H290S)についても,その挿入のコツについて簡単に紹介したい.

Ⅱ SBEの特徴

SBEシステムをFigure 1に示す.システムはディスポーザブルスライディングチューブ(以下STと記載),スコープ(SIF-Q260),バルーンコントロールユニットの3つに分かれている.Figure 1には手動ボタンのバルーンコントロールユニットを提示しているが,一人法の場合は,両手を使用し,内視鏡を挿入するため,フットスイッチを使用したほうがより操作はしやすい.SBEとDBEとの違いはスコープ側にバルーンがあるかないかの違いとよくいわれているが,もう少し詳細な違いについて解説する.まず,バルーンの材質について両者は異なっており,DBEはゴム(ラテックス)でできており,伸縮性に富んだ素材である(Figure 2).一方,SBEはラテックスアレルギー患者を考慮し,シリコーン製のSTとなっており,ラテックスと比較すると伸縮性のない素材である(Figure 3).Figure 2は体外でDBE付属のバルーンコントロールユニットを使用して,圧力をコントロールしながら,数分放置した状態で撮影した写真である.腸管内では,腸管の伸展の範囲でバルーンが拡張し,ある程度の圧力で拡張が停止するが,体外でフリーの状態では10cm以上まで拡張することが分かる(Figure 2).一方,SBE付属のバルーンコントロールユニットを使用し,同様の拡張を行うと,シリコーンの伸縮性から7cm程度でバルーンの拡張が停止する(Figure 3).このことから,DBEでは10cm程度に拡張した腸管でもバルーンによる腸管把持力が期待できるが,SBEにおいては約7cm以上になると,腸管の把持が期待できないことがわかる.通常の小腸においては10cm以上に小腸が拡張することはあまりなく,両者の違いはほとんどないが,大腸においては,拡張した大腸ではバルーンによる把持ができないことがあることを頭に入れておくべきである.したがって,大腸では過送気に注意し,バルーンを拡張しSTを引き抜いて消化管を短縮する際は,なるべく脱気して行う.もちろんCO2送気を使用したほうが挿入性は向上する.大腸挿入困難例にSBEを使用する際もこのSTバルーンの特徴は理解して使用すべきである.

Figure 1 

シングルバルーン小腸内視鏡システムの構成(オリンパス社より提供).

Figure 2

a:バルーンコントローラーを使用しバルーンを拡張させたダブルバルーン小腸内視鏡.

b:バルーンコントローラーを使用しスコープバルーンを拡張させたダブルバルーン小腸内視鏡(定規は約10cm).

Figure 3 

バルーンコントローラーを使用しスライディングチューブバルーンを拡張させたシングルバルーン小腸内視鏡.

もうひとつのSBEとDBEの違いは,スコープとST(DBEにおいてはオーバーチューブ)とのマッチングの違いがあると筆者は考えている.DBEは全体的に柔らかめのスコープを挿入し,スコープバルーンを拡張し,オーバーチューブを深部に押し進め,拡張したスコープバルーンとオーバーチューブバルーン2つのバルーンで腸管を短縮する.一方,SBEは細径ではあるが比較的コシのあるスコープを挿入し,腸管をスコープアングルで把持し,STを深部に挿入,STバルーン一つで腸管を短縮する.DBEにおいては柔らかめのスコープであるためプッシュ気味に挿入しても腸管を伸展させながら深部にスコープ先端が進んでいき,伸展した腸管を2つのバルーンで短縮するため,腸管の伸展が問題になることは比較的少なく簡単に挿入ができる.逆に,DBEを一人法で行う場合,右手でオーバーチューブを把持し,かつスコープを押し込む必要があるため,柔らかいスコープを押し込みづらく,先端に力が伝わりにくい印象がある.また,次項で説明する左手でスコープにトルクをかけようとしても先端に力が伝わりにくい印象もある.一方SBEはコシのあるスコープであるため,腸管をかき分けるように挿入し,軸保持短縮のイメージで挿入する必要があり,プッシュ気味に挿入していくと腸管が伸展してしまい,深部挿入が困難になる場合がある.また,次項で詳しく説明するが,腸管をスコープアングルで把持し,STをすすめる際にコツが必要で,初心者の場合,STをすすめる際にスコープ先端が抜けて深部挿入できないことがある.逆に利点としては,SBEはバルーンが一つであるため,取り回しが簡便であり,前述したように一人法で行う場合は,スコープにある程度固さがあり,右手でスコープを押し込みやすく,左手でトルクをかけやすいことがあげられる.

Ⅲ 一人法の実際

● 検査施行手順およびスコープ操作

SBEを使用した一人法による検査の実際を示す.まず検査における前投薬は鎮痙剤(ブスコパンもしくはグルカゴン),塩酸ペチジン35mgを投与し,フルニトラゼパム(サイレース®)を0.2mgずつ鎮静深度を見ながら追加している.10~20歳代の経口挿入の場合は,鎮静が取れないことがあり,その場合は全身麻酔下で行うこともある.当院における検査室の配置図をFigure 4に示すが,透視下で行うことを基本とし,筆者の場合は,術者と看護師の二人で検査治療を行っていることが多い.Figure 4は経肛門挿入の配置図であるが,経口の場合は内視鏡光源システムタワーを図の右側に移動し,患者の頭の向きを図の右側にして行っている.STを深部に押し進める際に,透視台からスコープがはみ出ていると,スコープ全体が抜けてしまうのでスコープをのせておく透視台と高さが同じくらいのワゴンを用意するとよい.筆者は,ワゴンが邪魔なので,STを押し進める際にスコープが抜けそうな場合は,Figure 5のように右足で片足立ちし,左大腿でスコープが抜けないように支えている.STを押し進めた後は,Figure 6のようにスコープを透視台の上にのせて,スコープ先端に力が伝わりやすいようになるべくスコープをまっすぐに保つように心がけている.ST,スコープの持ち方は,Ohtsukaら 6)が報告した持ち方とほぼ同様であるが(Figure 6),筆者の右手が小さいので,スコープ自体は右手でほとんど握りこまず,右手の人差し指と中指でSTを把持し,右手を開き(Figure 6-a),右手を握るようにしながら右手母指球あたりでスコープを押し込んでいる(Figure 6-b).この動作を素早く行うことで,スコープ先端は深部に挿入されていくが,屈曲が強くスコープが押し戻される場合は,体ごと透視台近くに立って,腹部でスコープを押さえるようにしている(Arakiら 7)の報告したAbdominal support technique).スコープ先端の左右,上下への操作は,左手によるアングル操作が中心となるが,Figure 7に示すように,右にトルクをかけたい場合は前腕を回内,手首を掌屈し巻き込むようにする.逆に左にトルクをかけたい場合は前腕を回外し,手首を背屈するようにする.腸管癒着がある症例の場合,患者の痛みやトルクをかける際の抵抗感をみながら注意して行う必要があるが,その他の場合,強い屈曲でなければ,ディスポーザブル先端アタッチメントを装着し,左手首を掌屈,背屈することを繰り返すことにより,襞をかき分けるようにスコープを押し進められる.特に高伝達挿入部を搭載したショートシングルバルーン内視鏡(SIF-H290S)では,より先端へのトルクが伝わりやすく,シャープに操作ができるので一度試してみるとよい.

Figure 4 

一人法検査室配置図.

Figure 5 

左大腿部によるスコープの支持.

Figure 6

a:一人法によるスライディングチューブの把持.

b:一人法によるスコープの押し込み.

Figure 7

a:左前腕の回内,左手首の掌屈によるスコープ先端の操作.

b:左前腕の回外,左手首の背屈によるスコープ先端の操作.

● STの押し進め方

バルーン内視鏡の原理は,バルーン付きオーバーチューブ(もしくはST)を用いることで腸管の伸展を抑制し,短縮操作で腸管を折りたたみ,腸管の形状を整え,バルーンを拡張させ,腸管を把持した部分に力の支点を移動させ,スコープ先端を深部に挿入していくことである 8).したがって,深部挿入に必要なことは,バルーン付きオーバーチューブ(もしくはST)のバルーンの付いた先端部を一歩ずつ深部に挿入していくことである.したがって,スコープバルーンのないSBEにとってスコープを挿入した後に,スコープにより腸管を把持し,STを押し進め,より深部にその先端を持っていくことが重要になる.スコープを押し進めた後,左手を高くし,STが進みやすいようにスコープをなるべく直線にし,右手でSTを押し進めていく(Figure 8).Arakiら 9)の報告した“Slide and hold technique”とほぼ同様だが,先端部分が腸管に引っかかって,手前の腸管を押し込んでしまい,ST先端がより深部に進められないことがあるため右手でSTを左右にひねりながら(図矢印のごとく)進める.その際に左手はスコープが抜けない程度に軽く引くと先端が進みやすい.

Figure 8 

一人法によるスライディングチューブの押し進め方.

STを進める際のもう一つのコツについて画像を提示ながら詳しく説明する.Figure 9-aは経肛門挿入し,スコープ先端が回腸あたりまで挿入され,STの根元までスコープが挿入された状態の背臥位でのX線画像である.スコープ先端は直前の状態から深部に挿入されているが,STはスコープの挿入の力によって上行結腸まで先端バルーンが押し戻されている(▽印).DBE,SBEともに安全性のためバルーンの圧力は低めに設定され,腸管の把持力はそれほどなく,オーバーチューブ,もしくはSTがかなり押し戻される.この状態から,より深部にST先端を挿入していき,少しずつ深部にSBEを挿入していく.ST先端を「2歩下がって3歩進む」という感じで進めていくイメージである.Figure 10に150cmメモリ,155cmメモリまで挿入した際のST先端部の画像を示すが,すこしでもST先端を深部に挿入するため,STを155cmメモリでまでではなく150cmまで挿入し,ST先端部の距離を稼ぐ方法もある.この際,腸管の巻き込みに注意し,ST挿入時に引っかかりがあったら少し引き戻してから行う.また,ST挿入時は,内視鏡画像を見ながら,スコープ先端が抜けていないか確認しながら行うが,Figure 9-aのようにアップアングルをかけた状態でスコープ先端が抜ける場合は,Figure 9-bのようにアップアングルと左右アングルをかけてより強く腸管を把持する方法や,Figure 9-aのようにスコープ先端が,スコープが形成する円周の中心部に向かっている方向(Figure 9-a矢印方向)ではなく,Figure 9-cのようにスコープをひねって円周の外側(Figure 9-c矢印方向)に向け,さらに上下アングルと左右アングルを使用し強く腸管を把持するとスコープが抜けにくく,ST先端を着実に深部に進めることができる.

Figure 9

a:経肛門挿入によるスライディングチューブとスコープの形状.

b:経肛門挿入によるスライディングチューブとスコープの形状(上下アングルと左右アングル使用).

c:経肛門挿入によるスライディングチューブとスコープの形状(スコープ先端部をひねった状態).

Figure 10

a:155cmのメモリまでスライディングチューブを進めたときの先端部.

b:150cmのメモリまでスライディングチューブを進めたときの先端部.

● 経口挿入のコツ

前述したいくつかのテクニックを駆使しながら挿入を行っていく.経肛門挿入と比較し,比較的挿入は簡単な場合が多い.なるべく送気をひかえ,ディスポーザブル先端アタッチメントを装着し,襞をかき分けるように挿入していくことが挿入のコツである.経口挿入の場合は,急性膵炎や,高アミラーゼ血症の合併症があり,60分以内を目標に短時間で検査を終了させている.筆者の施設では全小腸観察率や深部挿入にはこだわらず,なるべく事前にカプセル内視鏡を行い,目的とする病変,目的とする部位を確定したのちに,SBEを行い,検査時間をなるべく短縮するようにしている.

● ショートシングルバルーン内視鏡挿入のコツ

ショートシングルバルーン(ショートSBE)(SIF-H290S)は,全長1,830mm,「受動湾曲」「高伝達挿入部」を搭載した内視鏡である.当院では同形状のプロトタイプ内視鏡を以前から使用し,術後腸管に対するERCPや十二指腸水平脚など,それほど深部挿入を必要としない部位における内視鏡的粘膜切除術(EMR)に使用してきた.SBEに比較し全長が短いので取り回しやすく,受動湾曲,高伝達挿入部により一人法挿入がしやすい.しかしながら,術後腸管では癒着や強い屈曲が存在し,スコープが押し戻されることがある.また,SBE挿入をあまり行っていない胆道内視鏡医が検査を行うことも考えられる.したがって,術後腸管に対するERCPを行う場合は,一人法にこだわらず,挿入が困難な場合は二人法に切り替えたほうがよい.筆者は,胆道内視鏡医に,前述したSTの進め方と,スコープが進まなくなった時の対処法をアドバイスしている.腸管の把持,STの進め方は前項に記載したため本項では省略するが,スコープが進まなくなったときの対処法について記載する.スコープが進まない場合は,強い屈曲や癒着によるスコープ先端の「ステッキ現象」が原因である.ショートSBEは受動湾曲を搭載しているため強い屈曲部であっても,受動湾曲部が屈曲し,腸管を鈍角化し,スコープ先端が滑り込むように挿入されていく.屈曲部をこえる際のコツとして,①アングルを軽めに,②スコープを前後に出し入れ(jiggling)しながら挿入することがあげられる.アップアングルを目いっぱいかけた状態でプッシュするのではなく少しダウン方向にアングルをまわしてプッシュすることにより受動湾曲機能が働いてスコープ先端が滑り込むように進む.またスコープを出し入れし挿入することによって,①スコープが早い短い距離でプッシュされたときに受動湾曲機能が働き,スコープ先端が滑り込むように進み,②スコープを引き戻すことにより,滑り込むように挿入された先端部分がそれほど抜けず,スコープ手前部分のたわみがとれる.このようにしてjigglingを繰り返すことによりスコープのたわみを最小限に抑え,少しずつスコープが挿入されていく.一人法では,ある程度スコープを右手で挿入した後,Figure 11のように右手の人差し指と中指でSTを把持し,左手でスコープごとST方向に軽く「トントン」とノックするように動かすことで少しずつ先端が挿入されていく(Knocking technique).

Figure 11 

左手によるjiggling(Knocking technique).

● 経肛門挿入のコツ

前述したようなSBEのバルーンの特性もあり,大腸挿入に難渋することがある.初心者にとって①S状結腸,②横行結腸,③回盲弁が難所となる.また,④回腸が骨盤内に落ち込んでいる場合も挿入困難となりうる.それぞれについてコツを記載する.

① S状結腸

S状結腸通過困難はそれほど多くはない.脾湾曲までSTを挿入せずにストレートで挿入できる場合は脾湾曲までスコープを挿入した後,STを挿入する.S状結腸にループができてしまう場合は,早目にSTを挿入し,STを引き戻し短縮しながら挿入する.通常の大腸内視鏡と比較すると,SBEは柔らかいスコープであるため,スコープだけで短縮しようとすると時間がかかる.SBEはスコープとSTがセットになったものと考え,STにより短縮していく.患者の疼痛が強くなければプッシュしてS状結腸にαループを作りながら脾湾曲まで挿入し,STを下行結腸まで進めてループを解除したほうがよい場合もある.いずれの場合も過送気に注意する.

② 横行結腸

初心者にとって横行結腸は回盲弁とならんで経肛門挿入の難所である.一見簡単そうに思えるが,横行結腸が長く足側に垂れ下がっている症例では,プッシュして挿入するとループ(γループ)が容易に形成される.このループは解除することが困難かつ,患者の痛みを伴うことがあるため,その後の挿入がかなり困難となる.まず脾湾曲からステッキ現象を回避するためアップアングルを軽めにしながら横行結腸まで挿入する.横行結腸が長く足側に垂れ下がっていると判断した場合は横行結腸中部にスコープを挿入するまでにこまめにSTを進めて,バルーンを拡張させ引き戻す動作を行い,横行結腸の下方(足側)への伸展をなるべく抑制する.横行結腸中部をスコープがこえたら,左トルクを加えながらスコープを引き戻し,なるべく横行結腸を頭側に持ち上げるようにする.スコープをプッシュすると横行結腸が伸展され挿入されない場合は,さらにSTをこまめに進めて,戻すことを繰り返しながらST先端をすこしずつ横行結腸右側に進めていく.肝湾曲部は右下方向のアングル操作でこえられると横行結腸をほとんど伸展させずに挿入できる.横行結腸通過のコツは送気を控え,腸管を進展させないように少しずつこまめにSTを進めもどしていくことである.

③ 回盲弁

まず上行結腸に進めたSTバルーンを十分引き戻すことにより回盲弁への挿入角度を鈍角にする.次にアップアングルで回盲弁に挿入した後,ステッキ現象を回避するため,なるべくアップアングルを戻し,空気を十分吸引し,スコープを押し込まないようにアングル操作でひだをかき分けるようにスコープを挿入する.それでも挿入されない場合は右下腹部を右鼠径部から左にむけて用手圧迫する.それでもダメな場合は,患者の痛みに気を付けながら盲腸でスコープを押し込み反転するようにしながら回盲弁にスコープの先端を挿入し,ダウンアングルをかけながらスコープを引き戻し挿入していく方法がある.

④ 回腸が骨盤内に落ち込んでいる場合

挿入困難の原因となりやすい要因のひとつである.Figure 12のように骨盤内で通常とは逆方向のループができてしまい患者の疼痛も強く,スコープがほとんど進まなくなる.この場合はいったんスコープを引き戻し,右下腹部~右鼠径部から左上方にむけて用手圧迫し,送気量をなるべく少なくしてなるべくスコープをプッシュしないように襞をかき分けるようにスコープを進めていく.この場合も少し進んだらSTを進め,STバルーンが回盲弁を充分にこえているようであれば,抜けない程度に引き戻して少しずつ挿入していく,骨盤内回腸をスコープが通過するとFigure 9のような円周状のスコープ形態となるので,そうなったら通常通りの挿入を行っていく.

Figure 12 

回腸が骨盤内に落ち込んだ状態.

Ⅳ おわりに

SBE,DBEのどちらが優れているかという論争が一時期取り上げられたが,両者を使用しているわれわれにとっては,どちらも優れたスコープであると考えている.これらスコープの特性を理解し,患者にとってより良い診断,治療が行われることを期待したい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:緒方晴彦(オリンパス(株)(平成27年度受託研究費))

文 献
 
© 2016 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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