日本消化器内視鏡学会雑誌
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メトホルミンによる大腸ポリープ切除後の非糖尿病患者における異時性大腸腺腫・ポリープに対する化学予防:多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化第3相試験
阿部 雅則
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2016 年 58 巻 11 号 p. 2342

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【背景】世界中で大腸癌の患者数や死亡率が増加しており,予防のための新しい対策が求められている.経口糖尿病薬であるメトホルミンには大腸癌を含む癌の化学予防効果の可能性があるが,メトホルミンを用いた大腸癌の化学予防についての臨床試験は報告されていない.本研究では,腺腫再発のリスクの高い患者におけるメトホルミンの安全性と大腸がん化学予防効果(腺腫・ポリープの再発で評価)について1年間の臨床試験を行った.

【方法】本研究は多施設二重盲検プラセボ対照ランダム化第3相試験として行われた.日本の5病院において大腸ポリープまたは腺腫を内視鏡下で切除された非糖尿病成人を対象とした.メトホルミン(250mg/日)投与群もしくはプラセボ投与群に無作為に割り付け,試験開始1年後に大腸内視鏡検査を施行し,腺腫・ポリープの数と発生頻度を解析した.

【結果】2011年9月1日から2014年12月30日までに大腸腺腫・ポリープに対して内視鏡下切除を行った498人のうち,151人にランダム化を行った(メトホルミン群 79例,プラセボ群 72例).メトホルミン群の71例,プラセボ群の62例が1年後の大腸内視鏡検査を施行した.全ポリープおよび腺腫の発生率はメトホルミン群でプラセボ群に比し有意に低かった.(全ポリープ:メトホルミン群 27/71[38.0%:95%CI 26.7-49.3],プラセボ群 35/62[56.5%:95%CI 44.1-68.8];p=0.034,リスク比0.67[95%CI 0.47-0.97];腺腫:メトホルミン群 22/71[30.6%:95%CI 19.9-41.2],プラセボ群 32/62[51.6%:95%CI 39.2-64.1];p=0.016,リスク比 0.60[95%CI 0.39-0.92]).ポリープ数の中央値はメトホルミン群で0(IQR 0-1),プラセボ群で1(IQR 0-1)であった(p=0.041).腺腫数の中央値はメトホルミン群で0(0-1),プラセボ群0(0-1)であった(p=0.037).有害事象は15例(11%)にみられたが,すべてgrade 1であった.1年間の試験期間中に重篤な有害事象はみられなかった.

【結論】非糖尿病患者における1年間の低用量メトホルミン投与は安全に行うことができた.低用量メトホルミンはポリペクトミー後の異時性腺腫・ポリープの発生頻度・個数を減少させたことから,メトホルミンは大腸癌の化学予防に有用である可能性が示された.しかし,最終的な結論を得るためにはさらに大規模な長期間の臨床試験が必要である.

《解説》

大規模な疫学研究や臨床研究により多数の薬物による大腸癌発生予防の可能性が示されてきた.特に,アスピリンやCOX2阻害薬などで予防効果が期待されていたが,重篤な有害事象がみられることから,新たな化学予防の標的が求められている.メトホルミンは糖尿病の治療に広く用いられている薬物であり,AMP-activated protein kinase(AMPK)活性化とmammalian target of rapamycin(mTOR)経路の抑制を介した大腸癌抑制効果を示唆する多くの研究成果が報告されている.

本研究は,ポリペクトミー施行後に腫瘍性病変がみられない日本人の非糖尿病患者を対象とした二重盲検プラセボ対照ランダム化試験である.1年後の大腸内視鏡検査において,低用量のメトホルミン(250mg/日)内服継続によりプラセボに比して腺腫の発生が40%減少,ポリープの発生が33%減少することを示した.本試験では試験期間中にメトホルミン内服に伴う重篤な有害事象はみられず,安全性も確認された.以上から,大腸腺腫切除後の患者に対しメトホルミンが大腸癌の化学予防に有用であり,このような大腸腺腫・癌の発生リスクが高い患者が化学予防薬を内服することで疾病リスクと内視鏡検査の負担の軽減に寄与できる可能性がある.

ただし,研究期間が1年間という短期間であり,実際に今回のエントリー患者で大腸癌の発生はみられていない.また,他の集団での検証も必要である.今後,長期間の経過観察と追加の検討を行うことにより,これらの点が明確になるものと思われる.

文 献
 
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