日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
びまん浸潤型を呈した低分化型十二指腸癌の1例
島田 友香里 吉田 裕幸安達 神奈井谷 智尚三村 純橋本 公夫
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2016 年 58 巻 12 号 p. 2412-2417

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要旨

症例は40歳男性.1カ月前から,食後の嘔吐が出現し改善しないため当科を紹介受診.上部消化管内視鏡で,十二指腸の上十二指腸角に全周性の狭窄を認めたが同部の生検では悪性細胞は証明されず,原因不明のまま他院にて腹腔鏡下胃空腸バイパス術を受けて経過観察としていた.術後3カ月目の内視鏡時に施行した生検で印環細胞癌を認めたため,びまん浸潤型の原発性十二指腸癌と診断した.原因不明の十二指腸狭窄の診療にあたっては,びまん浸潤型を呈する原発性十二指腸癌の存在を念頭におき頻回に生検を試みることやボーリング生検を行うなどして,より多くの組織を採取することが早期診断に繋げるために必要だと思われた.

Ⅰ 緒  言

原発性十二指腸癌は稀な疾患であるが,その多くは限局性の隆起性病変や潰瘍性病変の形態を呈しており上部消化管内視鏡下の生検で比較的容易に診断が可能である.今回われわれは診断に苦慮したびまん浸潤型を呈した原発性十二指腸癌を経験し,貴重な症例と思われるため報告する.

Ⅱ 症  例

症例:40歳,男性.

主訴:食後の嘔吐,体重減少.

既往歴:胃十二指腸潰瘍や膵炎の既往なし.

生活歴:機会飲酒.喫煙20本/日.

家族歴:父 前立腺癌,兄 直腸癌.

現症:身長176.3cm,体重64.4kg.眼球結膜黄染なし.腹部は平坦・軟.圧痛・自発痛なし.腹部に腫瘤を触知せず.

初診時血液検査所見:末梢血,生化学検査所見に異常はなく,Helicobacter pylori抗体も陰性であった.腫瘍マーカーはCEA 1.8ng/ml,CA19-9 16.9U/mlと基準値範囲内であった.

現病歴:当院を紹介受診する約1カ月前より,食後に嘔吐を繰り返すようになった.近医を受診し内服加療を受けるも症状は改善せず,当科を紹介受診した.上部消化管内視鏡を施行したところ,十二指腸に全周性の狭窄を認め,1カ月で2kgの体重減少をきたしていたため精査加療目的で入院となった.

上部消化管内視鏡(Figure 1):十二指腸の上十二指腸角に発赤の強い粘膜と全周性の狭窄が認められ,同部位より深部へのスコープ挿入は不可能であった.この部の通過障害のため胃内には多量の食物残渣があり,食道にはロサンゼルス分類grade Aの逆流性食道炎の所見を認めた.全周性狭窄部の発赤部から2カ所生検(当院第1回目の生検)を施行したが,いずれもchronic duodenitisであり悪性所見を認めなかった.

Figure 1 

初診時の上部消化管内視鏡像.十二指腸の粘膜は発赤しており,全周性の狭窄をきたしている.スコープの通過は不可であった.

腹部超音波検査(Figure 2):十二指腸下行部に限局して層構造の保たれた粘膜下層主体のびまん性壁肥厚を認めた.総胆管は十二指腸主乳頭部まで観察可能であり,拡張や壁肥厚などは観察されなかった.主膵管は軽度拡張を認めたが,こちらも主乳頭部まで途絶なく観察可能であった.膵実質に腫瘤性病変も指摘できなかった.

Figure 2 

腹部超音波検査.十二指腸下行部に限局して粘膜下層主体のびまん性壁肥厚像を認める(黄色矢印).球部の十二指腸内腔は保たれている(白矢印).

腹部造影CT検査(Figure 3):十二指腸下行部に浮腫様のびまん性壁肥厚を認めた.肝内胆管と主膵管は軽度拡張していたが,閉塞機転となるような腫瘤性病変は指摘しえなかった.膵臓の石灰化やgroove領域の異常,腹水も認めなかった.PET-CT検査では病変部にフルオロデオキシグルコースの有意な取り込み所見は認めなかった.

Figure 3 

腹部造影CT検査.十二指腸下行部に浮腫様のびまん性壁肥厚を認める.

腹部造影MRI検査:腹部造影CT検査と同様に,十二指腸下行部にびまん性の壁肥厚を認めた.膵頭部は,肥厚した十二指腸壁に圧排されたような形態を呈していた.Groove領域には液貯留や信号変化は同定できなかった.

上部消化管造影検査(Figure 4):十二指腸下行部に一致して約5cmの狭窄を認めた.胃蠕動が十分に確認でき,かつ体位変換でバリウムが流れやすくなる状態にしても,極少量のバリウムが十二指腸下行部へ流出するだけであった.

Figure 4 

上部消化管造影検査.十二指腸下行部に約5cmの狭窄を認めた.

臨床経過:全周性十二指腸狭窄の鑑別疾患として,groove pancreatitisや,原発性十二指腸腫瘍,転移性十二指腸腫瘍,膵頭部癌などを念頭に精査を行ったにも関わらず十二指腸狭窄の原因は不明であった.当科に入院し精査した直後は,一時的に普通食の経口摂取が可能となる時期もあったが,理由は全く不明であった.初診から約1カ月間,十分量の普通食摂取が困難で,経口経腸栄養剤の継続的な内服が必要あったため患者と相談の上で他院へセカンドオピニオン目的で紹介した.他院でも約3週間に渡って生検や各種画像検査による精査が行われたが確定診断には至らず,当院初診から2カ月半後に腹腔鏡下胃空腸バイパス術が施行された.その際の術中所見では,十二指腸下行部は触診で漿膜面が非常に硬い印象であったが,炎症性変化なのか腫瘍性変化なのか判定困難であった.漿膜面や腹膜に腫瘍の露出はなく腹水貯留も認めなかった.バイパス術後には普通食の経口摂取が可能となった.バイパス術後3カ月目に当院で上部消化管内視鏡を再検すると,十二指腸下行部の狭窄部はほとんど変化なく,前回とほぼ同じ部位から生検を2箇所施行した(当院での第2回目の生検).その結果,印環細胞癌が粘膜固有層内に確認された(Figure 5).腹部造影CT検査も同時期に再検したが,十二指腸下行部に明らかな変化はなく腹水や転移性病変の出現も認めなかった.この時の腫瘍マーカーはCEA 2.3ng/ml,CA19-9 11.2U/mlと基準値範囲内であった.以上より,他臓器に原発巣になりうる病変がなかったため十二指腸狭窄の原因は原発性十二指腸癌と診断し初診時から6カ月後に当院外科・消化器外科にて膵頭十二指腸切除術を行った.

Figure 5 

当院で施行した第2回目の生検組織.十二指腸の粘膜固有層内に少数の印環細胞(黒矢頭)や未分化な異型細胞(青矢頭)の浸潤を認める(H.E染色).

手術所見:膵頭十二指腸切除術+横行結腸部分切除術+右肝動脈血行再建術を施行した.開腹所見にて腫瘍は十二指腸下行部に存在し,球部から水平部にかけて5cm長の全周性壁肥厚と硬化を認めた.明らかな肝転移や腹膜播種は認めなかった.腫瘍に中結腸動脈の右枝が巻き込まれており,右枝を含む横行結腸を一部切除した.

病理組織学的所見(Figure 6-a,b7-a,b):十二指腸下行部を中心に約60mmの長さで壁肥厚(6~7mm)を伴う狭窄が見られた.主乳頭は15×6×4mmで粘膜面は平滑であった.肉眼的に主乳頭対側遠位側に22×15×6mmの隆起が見られており,表面に軽度びらんを伴っていた.十二指腸狭窄部を含む十二指腸の横軸断面では,球部から下行部にかけて壁の肥厚が強く白色を呈していたが漿膜下脂肪組織の硬化は見られなかった.ミクロ所見では,腫瘍細胞は核胞体比が大きく,好酸性の泡沫状の胞体を持つ細胞であり結合性の見られないバラバラの浸潤様式をとっていた.隆起部として見られた部位では粘膜固有層内に印環細胞が多数認められたが,その他の部位では粘膜固有層内への拡がりはほとんど認めなかった.隆起部から粘膜下層に浸潤した腫瘍細胞が狭窄部のほぼ全域で粘膜下層,固有筋層,漿膜下層に及び,広範に漿膜面へ露出していた.また横行結腸間膜から横行結腸筋層内,膵頭部実質内,膵内総胆管~膵外総胆管にも腫瘍細胞の浸潤が認められた.リンパ管浸潤は確認できなかったが,十二指腸周囲のリンパ節に直接浸潤の形で浸潤が認められた.以上の所見から,十二指腸病変はびまん浸潤型の低分化型原発性十二指腸癌と診断した.

Figure 6

a:切除標本.十二指腸下行部がびまん性に壁肥厚している.十二指腸主乳頭(黄色線で取り囲む)の対側に隆起性病変(赤色線で取り囲む)が認められる.水色線は切り出し線.

b:隆起性病変部の割面像(aの切り出し線☆印).割面での病変の広がりを示す.隆起性病変部の粘膜固有層内には腫瘍細胞が確認されたが,周囲の粘膜面には腫瘍細胞は浸潤しておらず,粘膜下層~漿膜面にまで腫瘍細胞の浸潤が見られた(オレンジ色が粘膜固有層病変部,緑色が粘膜下層~漿膜までの病変を示す).

Figure 7

a:切り出し線☆印の隆起性病変部の弱拡大像.黄色矢印で示す異型のない十二指腸粘膜上皮から,短い茎(赤矢頭)を介して隆起性病変(輪郭を青線で示す)が出現している.(H.E染色)

b:aの隆起性病変部の強拡大像.印環細胞が充満している.(H.E染色)

本症例は,術後1年間S-1投与を行い無再発で経過していたが,その後癌性腹膜炎を発症した.S-1+CDDP療法にレジメンを変更して化学療法を継続したが徐々に全身状態が悪化し初診から2年9カ月後に永眠された.

Ⅲ 考  察

十二指腸悪性腫瘍については,横山らによって1993年の「胃と腸」で報告されている 1).その中では原発性十二指腸癌は,全消化管悪性腫瘍の0.3%.小腸悪性腫瘍の25~45%に相当すると報告されており 2),3),比較的稀な疾患である.上部消化管内視鏡での原発性十二指腸癌の発見率は0.01%に過ぎないとする報告もある 4).好発年齢は60~70歳代に多く,性差はみられないとされている 3),5).受診のきっかけとなる症状は十二指腸閉塞症状(上腹部不快感,食後の嘔吐・痛み)が大多数である.原発性十二指腸癌の肉眼型としては限局性隆起性病変や潰瘍性病変として認識されるものが大半を占めており,病変存在部位は,報告によって若干の差はあるが,半数前後が乳頭より口側とする報告が多い 3),5).また,組織型も大多数が高分化型腺癌であり,低分化型腺癌の報告は稀である.2000年から2015年の間で医学中央雑誌にて「原発性十二指腸癌」「びまん浸潤型」「低分化型腺癌」をキーワードに検索したが,自験例のような上十二指腸角~下十二指腸角までびまん性に腫瘍が進展している印環細胞癌成分を含む低分化型腺癌の報告は認めなかった.

基本的に,原発性十二指腸癌の診断は上部消化管内視鏡下で病変が確認できれば生検を行うことが可能であるため比較的容易に診断可能であると考えられる.Rotmanらの報告でも65/66例で上部消化管内視鏡が施行され,61例で病変が確認でき,58/61例が生検で診断可能であった 6).治療と予後についてAndersらは十二指腸癌は診断時にすでに転移を有している症例も少なくなく,外科的切除を行ったとしても根治的手術は43%にとどまり,緩和的手術が43%,診断目的のみが14%であったと報告している 3).また猪瀬らの報告によると外科的切除例における5年生存率は50%,膵浸潤陽性かつリンパ節転移陽性例では20.8%と特に予後不良 7)であった.小川らも高度リンパ節転移を伴った膵実質浸潤陽性症例は予後不良と報告している 8).原発性十二指腸癌の予後改善のためには早期の診断・加療が必須であると言える.

自験例では症状発現から確定診断に至るまで6カ月を要した.この理由としては以下の2点が考えられる.まず1点目は腫瘍の肉眼型が非常に特殊であり文献検索してもこのような浸潤形態を呈する原発性十二指腸癌の存在を認識することが困難であったということである.2点目は,病理組織学的所見の項目でも記載したが,腫瘍細胞が乳頭対側隆起部以外で粘膜固有層に存在していた部位がほとんどなかったことである.全周性狭窄を呈していた自験例では乳頭対側の隆起部分へのスコープの到達および生検が不可能であった.すなわち上部消化管内視鏡で視認可能であった範囲では粘膜固有層内に腫瘍細胞が存在していた範囲は極わずかであり,数カ所の生検で腫瘍細胞を確実に捉えることが困難であったということである.粘膜下層成分をより多く採取するためにボーリング生検を短期間に繰り返し実施していたり,より多くの組織を採取できるCold polypectomy用鉗子を用いて生検を行うなどの工夫をしていればもう少し早期に診断可能であった可能性もあり,今後の検討課題である.

Ⅳ 結  論

今回,われわれはびまん浸潤型を呈する低分化型原発性十二指腸癌を経験し診断に苦慮した.腫瘍細胞の大部分が粘膜下層以深に存在していたため通常の生検を行うだけでは早期診断に結びつけることが困難であった.このような症例では,ボーリング生検やCold polypectomy用鉗子を用いてさらに深部の組織を採取する工夫を行う必要があると思われる.

本症例は,日本消化器内視鏡学会近畿支部第97回例会で発表した.

謝 辞

今回の論文校正でご尽力いただいた当科の林幹人先生に深く感謝致します。

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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