2016 年 58 巻 12 号 p. 2418-2423
症例1は61歳,女性.右下腹部痛が出現し,CF上,上行結腸に浮腫状に肥厚した粘膜を区域性に認め,送気によっても拡張不良であった.生検にてMALTリンパ腫と診断し,R-CHOP療法を施行し完全奏効となった.
症例2は66歳,女性.腹痛,下痢が出現し,上行結腸とS状結腸の2カ所に症例1と同様の内視鏡所見,病理結果を示し,R-CHOP療法を施行し部分奏効となった.
びまん浸潤様大腸原発悪性リンパ腫の内視鏡像は①区域性拡張不良と②びらんを伴う浮腫状粘膜であり,十分な送気と鎮痙剤の使用が病変の拾い上げに有用と考える.
大腸原発悪性リンパ腫は,消化管原発悪性リンパ腫の中で,胃,小腸に続いて多く,多彩な内視鏡像を取ると言われている.今回,びまん浸潤様の内視鏡像を示したmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫の2症例を経験したので報告する.
症例1:61歳,女性.
主訴:右下腹部痛.
生活歴:飲酒なし,喫煙なし.
既往歴:本態性高血圧症,高脂血症,2型糖尿病,脂肪肝,うつ病,25歳時に虫垂炎手術歴あり.
現病歴:2011年7月以降,時折右下腹部痛が出現し,9月中旬に近医を受診.腹部単純CTで回盲部腫瘍を疑われ,9月末に当院紹介受診となった.初診時,食欲不振や便通異常,発熱,体重減少,盗汗は認めなかった.
来院時現症:身長155.6cm,体重77.0kg,BMI 31.6,右下腹部に圧痛を伴う鶏卵大の硬い腫瘤を触知し,軽度の下腿浮腫を認めた.表在リンパ節は触知しなかった.
来院時検査所見:血糖値133mg/dl,HbA1c 6.5%,中性脂肪294mg/dl,総コレステロール値260mg/dlと軽度上昇を認めた.可溶性IL-2レセプターやCEA,CA19-9は正常範囲内であった(Table 1).
症例1 臨床検査成績.
大腸内視鏡検査(colon fiber;CF)所見:バウヒン弁から肛門側約10cmにわたり,上行結腸の粘膜は浮腫状に肥厚し,送気で拡張不良であった.1cm大の浅い潰瘍が数カ所に散在し,潰瘍底は均一な白苔に覆われていた(Figure 1).
症例1 CF所見.
上行結腸の粘膜は浮腫状に肥厚し,送気で拡張不良な領域を区域性に認めた.
注腸検査所見:二重造影にて,上行結腸に全周性の狭窄像を認めた.腸管壁は硬く伸展不良だが,潰瘍を示す陥凹性変化を認めず,病変の口側と肛門側の正常粘膜との境界は比較的明瞭だった(Figure 2).
症例1 注腸検査所見.
上行結腸に全周性の狭窄像を区域性に認めた.
腹部単純CT,PET-CT所見:CTで回盲部から上行結腸にかけて全周性の壁肥厚と腸間膜リンパ節腫脹を認めた.PET-CTで回盲部から上行結腸,腹部リンパ節に異常集積を認めた(SUVmax:9.08)(Figure 3).
症例1 腹部単純CT所見.
上行結腸の全周性の壁肥厚と周囲の腸管リンパ節腫脹を認めた.
病理組織所見:H-E染色では,粘膜固有層に核にくびれのある胞体の淡明な小~中型異型リンパ球がびまん性に増殖し,そのリンパ球が粘膜上皮腺管を破壊性に浸潤するlymphoepithelial lesion(LEL)を形成していた(Figure 4).免疫染色では,CD20陽性,CD5陰性,CD10陰性の異型リンパ球の増生を認めており,MALTリンパ腫と診断した.
症例1 病理組織像(H-E染色×100).
LELの形成を認めた.
治療後経過:大腸原発悪性リンパ腫,MALTリンパ腫,病期はAnn Arbor分類 Stage ⅡAと診断した.Rituximab-cyclophosphamide,doxorubicin,vincristine,prednisolone(R-CHOP)療法を計5コース施行し,約4年の経過で完全奏効を維持している.
症例2:66歳,女性.
主訴:腹痛,下痢.
生活歴:飲酒なし,喫煙(1日10本,30年間).
既往歴:なし.
現病歴:2015年1月に腹痛と下痢が出現し近医を受診.腹部CTで右後腹膜腫瘍を疑われ,2月に当院紹介受診となった.初診時までの半年間で7kgの体重減少を認めたが,食欲不振や便通異常,発熱,盗汗は認めなかった.
来院時現症:身長156.4cm,体重48.3kg,BMI 19.7,腹部は平坦軟で明らかな腫瘤性病変や表在リンパ節は触知しなかった.
来院時検査所見:可溶性IL-2レセプター1,220U/mlと上昇を認めた(Table 2).
症例2 臨床検査成績.
CF所見:上行結腸とS状結腸に,区域性に全周性の拡張不良を認め,上行結腸の一部に浅い潰瘍を認めた(Figure 5).
症例2 CF所見.
上行結腸に区域性拡張不良を認め,一部に浅いびらん・潰瘍を伴っていた.
腹部造影CT,PET-CT所見:腹部大動脈から右腎周囲,結腸周囲にかけて,均一な造影増強効果を示す軟部濃度域を認めた.それに接する上行結腸から横行結腸にかけての内腔狭小化を認めたが,口側腸管の拡張は認めなかった(Figure 6).
症例2 腹部造影CT所見.
上行結腸の壁は著しく肥厚し,内腔狭小化を認めた.また周囲脂肪織の濃度上昇を伴っていた.
病理組織所見:H-E染色では,粘膜固有層にLELの形成,CD5陰性,CD10陰性,CD20陽性の異型リンパ球の増生を認め,MALTリンパ腫と診断した.また,骨髄生検,右後腹膜の占拠病変からの生検でもLEL形成の所見を得た.
治療後経過:大腸原発悪性リンパ腫,MALTリンパ腫,Ann Arbor分類 Stage ⅣBと診断した.R-CHOP療法を開始し,4コース終了時点,6カ月の経過で部分奏効であった.
消化管原発悪性リンパ腫は,消化管原発悪性腫瘍の中では1-8%と比較的まれではあるが,節外性リンパ腫のおよそ30%を占める 1).その頻度は,胃,小腸,大腸の順に多く,いずれも多彩な内視鏡像を示すことから,癌との鑑別を含め,診断が難しい場合が多く,総合的な画像診断が必要となることも多い.
大腸原発悪性リンパ腫については,回盲部と直腸が好発部位 2)であり,その内視鏡肉眼型は,中村ら 3)の報告によれば,八尾ら 4)の分類に基づき,潰瘍型37%,隆起型28%,multiple lymphomatous polyposis(MLP)型10%,びまん型10%,混合型14%に分類される.
われわれが経験したびまん浸潤様悪性リンパ腫は,皺壁の腫大,粘膜浮腫,管腔狭小化を認めるが,明瞭な腫瘤や潰瘍は形成しないために,病変として認識しづらい.また,腫瘍細胞が粘膜下を主体にびまん浸潤性に発育し,粘膜面への露出部分が小さく,生検正診率が不良であること 5)が問題とされる.自覚症状の出現が遅く,進行した形で発見される症例も多く,早期診断が重要である.
CF施行中,健常者でも送気不十分だとあたかも腸管が拡張不良のように見えることがあるが,十分な送気を行うことにより腸管の拡張が得られる(Figure 7-a,b).一方,本症例では,十分な送気を行っても腸管は拡張せず,しかも拡張不良部位は区域性であった.さらに,その領域の粘膜は浮腫状で,所々びらんや潰瘍を伴っていた.よってCFによる病変検出のポイントは,十分な送気と,可能であれば鎮痙剤の使用により,区域性の拡張不良領域を拾い上げした後,浮腫やびらんの有無につき粘膜所見を詳細に観察することだと考える.
a:健常者腸管 送気前.
b:健常者腸管 送気後.管腔は拡張し,壁は良好に伸展する.
また,類似の内視鏡像を呈する疾患として,4型大腸癌,転移性大腸癌,Crohn病,潰瘍性大腸炎,虚血性腸炎,腸間膜脂肪織炎,放射性腸炎などの炎症性疾患や,子宮内膜症が挙げられ,鑑別に置く必要がある 6).鑑別に際しては,病歴や病変部位を含めた臨床情報とX線検査など他の画像所見を合わせて評価することが必要である.
一方,大腸原発悪性リンパ腫は,前述の中村らの報告の通り多彩な内視鏡像を呈するが,その肉眼型は組織型とある程度相関が見られるとの報告がある.例えば,潰瘍型ではびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(Diffuse Large B-cell Lymphoma;DLBCL)が大半を占め,隆起型ではDLBCLとMALTリンパ腫の頻度が高く,MLP型では濾胞性リンパ腫の頻度が高いと言われている.びまん型はT細胞リンパ腫に最も多く,次いでMALTリンパ腫に特徴的とされる.また,MALTリンパ腫の中では,肉眼型は隆起型が最も多く,ついで潰瘍型,びまん型,MLP型の頻度と報告されている 1),7).本症例において,2例ともにびまん浸潤様の肉眼型を示し,MALTリンパ腫の組織型であったことより,上記報告とやや異なる結果を得た.大腸原発悪性リンパ腫においては,組織型により治療法と予後が大きく異なるため,今後,組織型と肉眼型の相関についての過去の報告の検証を含め,症例の蓄積による検討を重ね,組織型を考慮した内視鏡診断を行うことが可能となれば理想的である.
びまん浸潤様の内視鏡像を示したMALTリンパ腫の2症例を経験した.びまん浸潤様の病変の特徴は①区域性の拡張不良と,②びらんを伴う浮腫状粘膜の2点が考えられた.これらの所見の検出による病変拾い上げには,十分な送気と鎮痙剤の使用が有用と考えられた.大腸原発悪性リンパ腫の肉眼型と組織型の相関関係については,過去の報告の検証を含め,今後,症例を蓄積し検討を重ねたい.
貴重なご助言を賜りました神奈川県立がんセンター腫瘍内科高崎啓孝先生,服部友歌子先生,消化器内科森本学先生に深謝いたします.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし