日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
胃癌に特異的な新しい内視鏡的マーカーであるWGA(white globe appearance):前向き研究
吉田 尚弘 土山 寿志中西 宏佳辻 国広冨永 桂松永 和大辻 重継竹村 健一山田 真也津山 翔片柳 和義車谷 宏
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2016 年 58 巻 12 号 p. 2449-2457

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要旨

背景:白色球状外観(white globe appearance;WGA)は,狭帯域光観察併用拡大内視鏡検査(magnifying endoscopy with narrow-band imaging;M-NBI)で認識されることのある小さな白色球状物のことである.WGAは胃癌と低異型度腺腫を鑑別することのできる新しい内視鏡的マーカーであることが報告されている.しかし,胃癌と胃炎を含む非癌病変との鑑別にWGAが有用であるかどうかは不明である.

方法:胃癌と非癌病変におけるWGAの頻度を比較するために,内視鏡検査を受ける予定の患者994人を対象とした前向き研究を計画した.すべての患者に対して白色光観察で胃癌が疑われる標的病変の有無を評価し,標的病変を認めた場合にはさらにWGAの有無をM-NBIで評価した.すべての標的病変に対して生検または切除を行い,病理学的に評価した.主要評価項目は胃癌と非癌病変におけるWGAの頻度,副次評価項目はWGAの胃癌診断における診断能とした.

結果:標的病変として188病変(156人)が最終的に解析され,70病変が胃癌で118病変が非癌病変であった.WGAの頻度は,胃癌で21.4%(15/70),非癌病変で2.5%(3/118)であり,有意に胃癌で高かった(P<0.001).WGAの胃癌診断における正診割合は69.1%,感度は21.4%,特異度は97.5%であった.

結論:胃癌におけるWGAの頻度は非癌病変のものに比べて有意に高かった.胃癌診断におけるWGAの特異度は高く,WGAの存在は胃癌診断に有用である.

Ⅰ 緒  言

胃癌は世界中で認められる疾患で特に西太平洋での有病率が高く,全世界における癌関連死の第3位を占めている 1).胃癌を早期に診断することは胃癌による死亡を防ぐために重要であり,内視鏡は早期胃癌を発見できる最も有用な検査方法の一つである.

内視鏡による胃癌の診断は「病変の発見」と「質的診断」から成る 2).質的診断とは胃癌と非癌病変の両者を鑑別することであり,狭帯域光観察併用拡大内視鏡検査(magnifying endoscopy with narrow-band imaging;M-NBI)の開発により大きく発展してきた 3)~6.M-NBIを用いた胃癌の診断体系は主に微小血管構築像と表面微細構造に基づいている.その診断体系の中心であるvessel plus surface classification system(VSCS) は胃癌の診断のために開発され,その有用性は確立されてきた 8)~10.しかし胃癌に対するM-NBIの診断体系には以下のようにいくつかの問題点がある:(1)胃癌を高い確信度で診断することが困難 10,(2)粘膜表面に露出していない胃癌を診断することは不可能 10)~12,(3)正確な診断のためには十分なトレーニングが必要 13),14,(4)診断に至るまでには長い検査時間を要する 5.したがって診断体系のさらなる発展が望まれている.

われわれは白色球状外観(white globe appearance;WGA)がM-NBIにおける胃癌診断の新しい内視鏡的マーカーになることを報告した 15.WGAは胃の粘膜上皮下に存在する小さな白色球状物のことである.病理学的な検討からは,拡張した腺管の内腔に壊死上皮と共に存在する好酸性物質すなわちintraglandular necrotic debris(IND)に一致すると推測している 15),16.INDは癌の病理学的マーカーである可能性が指摘されている 16.われわれは後ろ向き研究で,胃癌を低異型度腺腫から鑑別する特異度がWGAでは100%と高いことを報告した 15.われわれはWGAがM-NBIの胃癌診断体系を発展させることのできる有用な指標に成り得ると考えているが,WGAについて前向き研究の報告はなく,胃炎を含んだ良性病変におけるWGAの頻度は不明である.

われわれは胃癌と非癌病変におけるWGAの頻度を明らかにしWGAの臨床的有用性を検討する前向き研究を計画した.

Ⅱ 方  法

研究計画

この前向き研究は,STARD声明 17とヘルシンキ宣言に準拠し,石川県立中央病院で実施された.臨床研究実施計画書は石川県立中央病院の倫理委員会で承認され,大学病院医療情報ネットワークの臨床試験登録システム(UMIN-CTR)へ登録された(UMIN000013650).本研究に参加するすべての被検者からは文書による同意を得られている.

対象

選択基準は,20歳以上かつM-NBI可能な内視鏡システムを使用した上部消化管内視鏡検査を受ける予定の患者であった.われわれの施設では基本的にM-NBIが可能なシステムを使用した内視鏡検査を行っているので,上部消化管内視鏡検査を受けるほぼすべての患者がこの基準を満たした.除外基準は緊急内視鏡検査を受ける患者や生検を行うことができない薬剤を服用中の患者とした.

内視鏡システムと設定

拡大観察が可能な高解像度ビデオスコープ(GIF-H260Z,オリンパス株式会社)とビデオシステムセンター(EVIS LUCERA ELITE Olympus CV-290,オリンパス株式会社)と高輝度光源装置(EVIS LUCERA ELITE Olympus CLV-290SL,オリンパス株式会社)を使用した.M-NBIの設定は,構造強調はBモードのレベル8,色彩はレベル1であった.最大倍率で安定した内視鏡画像を撮影するために先端フード(MAJ-1990,オリンパス株式会社)を内視鏡先端へ装着した.

内視鏡医

本研究の内視鏡検査は,WGAの診断における熟練者1人(H.D.)と初学者8人の計9人の内視鏡医によって行われた.これらすべての内視鏡医は上部消化管内視鏡検査の白色光観察において6年以上,M-NBIにおいて3年以上の経験を持っていた.本研究の開始前に,初学者はWGAの画像を中心とした簡単な講義を熟練者から受けた.

内視鏡所見の定義

WGAはM-NBIで認識される小さな白色球状物と定義された.最大倍率時に画面の幅が約4.0mmであることから推測して,WGAのサイズは1mm未満と定義された.われわれは中拡大のM-NBI観察をWGAの発見のために用い,最大倍率でWGAの判定を行った.WGAの判定においては,(1)その球形を反映して白色の程度が辺縁から中心に向かうにつれて強くなること,(2)WGAが胃上皮と上皮直下の血管の下に存在することを反映して微小血管がWGAの上を走行すること,の2点を判定の指標とした(Figure 1).癌に存在したWGAが,最大倍率での観察時に癌と非癌の境界線(demarcation line;DL)と同一画面に映る場合は,そのWGAの分布は辺縁であると定義した.

Figure 1 

狭帯域光観察併用拡大内視鏡検査(magnifying endoscopy with narrow-band imaging;M-NBI)で視認された白色球状外観(white globe appearance;WGA).

a:中拡大のM-NBIで,胃癌が疑われる病変内に小さな白色の球状物(矢印)を認めた.

b:最大倍率のM-NBIでは,その白色球状所見の白色の程度は辺縁から中心に向かうにつれて強くなっており微小血管がその上を横切っていた(矢印).これらの所見が確認できたので,この病変はWGA陽性と判定された.この病変は内視鏡的に切除され,胃癌と診断された.

病変の肉眼型は胃癌取扱い規約 18にしたがって記録された.非癌病変に対してもこの分類を適用した.2つ以上の肉眼形態を有する病変は,より大きな形態を記載した.潰瘍の有無は内視鏡検査時に判断したものを解析に使用した.

WGAの判定

登録されたすべて患者に対して非拡大白色光観察で胃癌が疑われる病変(標的病変)の有無を評価した.標的病変は,「形状不整な境界」,「凹凸不整な表面構造」,「不均一な色調」の3項目のうち1つ以上を認めるものと定義された.胃内の観察を困難にする残渣や出血を認めた患者は除外した.標的病変を認めた場合は,病変全体を中拡大のM-NBIで観察しWGAを疑う所見の有無を評価した.WGAを疑う所見を認めた場合は,最大倍率のM-NBIで精査し最終的なWGAの判定を行った.出血や粘液で病変面積の50%以上が観察できなかった場合はその標的病変を除外した.WGAの有無に関わらず,適格となったすべての標的病変に対して生検もしくは切除を行い,病理学的評価を行った.

標的病変に対する中拡大の画像とWGAが疑われた所見に対する最大倍率の画像は電子保存された.初学者に関わらず検査時のWGAの判定が主要評価項目の解析に使用された.初学者の画像は熟練者によって別に評価され,この熟練者の判定は初学者と熟練者におけるWGA判定の一致率を評価するために用いられた.

病理診断

胃癌と非癌病変の鑑別はrevised Vienna分類 19を基に行った.C4(mucosal high grade neoplasia)または C5(submucosal invasion by carcinoma)を胃癌,それ以外のものを非癌病変とした.胃癌の組織型の分類は胃癌取扱い規約 18に従った.

評価項目

主要評価項目は胃癌と非癌病変のそれぞれにおけるWGAの頻度の比較である.副次評価項目は以下の通りである;(1)WGAの胃癌診断における診断能(正診割合,感度,特異度,陽性適中度,陰性適中度),(2)切除標本での病理評価が可能であったWGA陽性胃癌における腫瘍とWGAの特徴,(3)WGA判定における初学者と熟練者の一致率.

統計解析

胃癌と非癌病変におけるWGAの頻度をそれぞれ20%と3%と推測した.また,石川県立中央病院のデータベースから,内視鏡検査で標的病変とされる胃癌と非癌病変の頻度はそれぞれ5%と10%と推測した.αエラーを5%,検出力を80%で必要サンプルサイズを計算すると胃癌が46病変必要となり,従って本研究には1,000症例の患者登録が必要と考えられた.

2値変数に対してはカイ2乗検定もしくはFisherの直接検定を行い,連続変数については中央値で表記しMann-Whitney U検定で比較した.連続変数の関連については線形回帰で評価した.すべての検定は両側検定で行い,P値が0.05未満で有意と判断した.正診割合,感度,特異度,陽性適中度,陰性適中度については標準的な計算式で計算した.初学者と熟練者の一致率を評価するためにκ値が計算された.すべての解析にはJMP 11(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用した.

Ⅲ 結  果

2014年4月から6月までに994人の患者が登録された.15人が胃内の大量残渣や出血のため除外されたため標的病変の有無は979人で評価され,標的病変は237病変(189人)認めた.これらの標的病変からは,出血や粘液で画像が不鮮明な43病変と病理学的評価がなされなかった6病変の計49病変が除外された.最終的には188病変(156人)が解析対象となった.生検または切除病変からの最終病理診断は胃癌が70病変,非癌病変が118病変であった(Figure 2).

Figure 2 

本研究における登録患者のフローチャート.

患者背景と病変の特徴をTable 1に示す.WGAの頻度は胃癌で21.4%(15/70),非癌病変で2.5%(3/118)であり,有意に胃癌で高かった(P<0.001).部位や潰瘍については両群間で有意差を認めなかった.WGAの胃癌診断における正診割合は69.1%(95% CI,62.2%-75.3%),感度は21.4%(95% CI,13.4%-32.4%),特異度は97.5%(95% CI,92.8%-99.1%),陽性適中度は83.3%(95% CI,60.8%-94.2%),陰性適中度は67.6%(95% CI,60.3%-74.2%)であった(Table 2).

Table 1 

胃癌と非癌病変における患者背景および病変特徴の比較.

Table 2 

胃癌診断におけるWGAの診断能.

非癌病変においてWGAが陽性であるものを3病変認めた.これら3病変の病理診断は,良性潰瘍,胃炎,潰瘍瘢痕を伴った低異型度腺腫であった.3分の2が潰瘍と関連しており,この潰瘍の割合(66.7%)はWGA陰性非癌病変における割合(17.4%)に比べて有意に高かった(P=0.031).

胃癌70病変(60人)の臨床経過は,55病変は内視鏡的切除,11病変は外科切除が行われた.残りの4病変(4人)については,2人は根治不能な悪性疾患を併存しており,残りの2人は治療を拒否したため,治療が行われなかった.治療された胃癌66病変(56人)においては詳細な病理学的評価が可能であった.このサブグループ解析において,WGA陽性胃癌は14病変(21.2%)であった.腫瘍径はWGA陰性胃癌でWGA陽性胃癌よりも有意に大きかった.WGAの有無と肉眼型,部位,潰瘍,組織型,深達度の間に有意な関連は認めなかった(Table 3).WGA陽性胃癌14病変におけるWGA個数の中央値は3(1-13)であった.WGA個数と腫瘍径に有意な相関を認めた(R2=0.288,P=0.048).すべてのWGAの分布は腫瘍辺縁であった.

Table 3 

治療された胃癌患者56人におけるWGA陽性胃癌とWGA陰性胃癌の臨床的特徴の比較.

初学者によって標的病変は160病変発見され,その中で12病変がWGA陽性と判断された.すべての中拡大画像は熟練者によってダブルチェックされ,初学者によって見逃されたWGAがないことは確認された.熟練者による最大倍率画像の評価で,初学者によってWGA陽性と判断された2病変はWGAに特徴的な球状外観を認めないことから熟練者によってWGA陰性と判断された.これら2病変は病理学的には胃癌と診断された.WGA判定における初学者と熟練者の一致率はκ値で0.902であった.

Ⅳ 考  察

この前向き研究の結果は,胃癌におけるWGAの頻度が胃炎を含んだ非癌病変のものに比べて有意に高いことを示した(21.4% vs 2.5%).以前の報告ではWGAは胃癌の21.5%に存在し低異型度腺腫では0%であることからWGAが胃癌と低異型度腺腫の鑑別に有用であると結論されている 15.今回,胃炎を含んだすべての非癌病変においてもWGAは稀な所見であることが判明した.またこれらの結果からは,胃癌の約20%において内視鏡的にWGAを観察できることも示された.

胃癌診断におけるWGAの特異度は高い.微小血管構築像と表面微細構造を用いたM-NBI診断体系での胃癌診断の特異度は,今までに報告された前向き研究の結果では84.4-98.0%であった 4),5),10),20.WGAの特異度97.5%は従来のM-NBI診断体系に比べても遜色ない結果であった.したがってWGAは胃癌診断における確信度を高めることができる所見である.標的病変が従来のM-NBIで非癌と判断された病変でも,WGAは胃癌と診断するための有用なマーカーとなると思われる.しかし一方で感度は不十分なので,WGA陰性病変を非癌病変と診断することはできない.

WGAに関連した胃癌の臨床病理学的特徴について検討したところ,WGA陰性胃癌の腫瘍径はWGA陽性胃癌のものより有意に大きいことが示された.一方でWGAの個数とWGA陽性胃癌の腫瘍径には有意な正の相関を認めた.これらの結果の理由は不明であり,さらなる研究が望まれる.また,少数例の検討ではあるが,非癌病変におけるWGAは潰瘍と関連がある可能性が示された.潰瘍の有無はWGAを用いたM-NBI診断体系において重要な因子かもしれない.多数例でのさらなる検討が必要であるが,胃癌診断におけるWGAの特異度は,潰瘍を伴わない病変にその対象を限定することでさらに改善するかもしれない.

以前の報告 15と同様に,WGAは腫瘍辺縁に分布することが特徴的である.われわれはWGAがアポトーシス・ネクローシス現象を内視鏡で可視化したものであると考えており,この現象は胃癌の辺縁で優位に起こっているものと推測している 15.腫瘍の辺縁は最大倍率観察でDLが確認できる領域である.したがって,WGAを発見するためにはDLを観察することが効率的であり,またこの方法はDLを診断における重要な因子と位置づけている従来のM-NBI診断体系とも統一性がある.

初学者のWGA陽性病変の判定能力は熟練者によって評価された.WGA判定における初学者と熟練者の一致率は非常に高かった.初学者によって見逃されたWGAは認めず,熟練者によってWGA陰性と判定されたWGA陽性病変は2病変(1.3%)のみであった.これら2病変は病理学的に胃癌であり,初学者のWGA陽性病変の判定能は満足できるものと考えている.特に8人の初学者はこのレベルを達成するまでには簡単な講義を受けただけであった.したがって,WGAは短時間で判定方法を習得できる信頼できる診断マーカーであると思われる.現在,簡単な講義を受講後の内視鏡医によるWGA判定における妥当性と信頼性を評価する前向き研究を計画中である.

本研究にはいくつかの限界がある.1つ目は,本研究が単施設で行われたことである.初学者によるWGA陽性病変の判定の正確さが他施設の内視鏡医にまで一般化できるかは不明である.われわれは他施設の内視鏡医も正しくWGAを判定できるかを検討する多施設共同研究を計画中である.2つ目は,出血や粘液によるM-NBI観察の質の低さを理由に最終解析において約20%に相当する標的病変が除外されたことである.しかしこれらの病変を診断することは他のM-NBI診断体系でもやはり難しく生検が必要となるはずである.3つ目は,WGAの診断能とVSCSの診断能を別々に評価することができなかったことである.WGAもVSCSもM-NBIを用いて判定するため,内視鏡医はWGAを判定する画面で同時にVSCSも判定することができてしまう.したがってWGAの判定にVSCSが影響を及ぼした可能性を完全に否定することはできない.4つ目は,非癌の胃粘膜におけるWGAの病理学的評価が不十分であったことである.本研究ではWGA陽性の非癌病変は3病変しか認めなかったため,さらなる症例集積を行い良性病変のWGAの詳細を評価する予定である.5つ目は,得られたデータのすべてが,ほとんどの上部消化管内視鏡検査が胃癌の高リスク患者に対して行われている内視鏡専門施設のものであるということである.したがって胃癌の頻度は一般病院に比べて高いと思われるが,これが胃癌や非癌病変におけるWGAの頻度に影響を与えることはないと考えている.6つ目は,WGA判定に要する時間を測定していないことである,WGAがM-NBI診断に必要とされる時間を短縮できるかを評価するためのさらなる検討が望まれる.

本研究では胃癌におけるWGAの頻度が胃炎を含んだ非癌病変のものより有意に高いことが示された.胃癌診断においてWGAは高い特異度をもつので,WGAの存在は胃癌診断に有用であると考えられる.WGAはM-NBI診断体系の発展に貢献し得る新しい内視鏡的マーカーである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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