日本消化器内視鏡学会雑誌
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原著
虚血性右側結腸炎の臨床像と内視鏡像の検討
大川 清孝 青木 哲哉上田 渉大庭 宏子宮野 正人山口 誓子倉井 修佐野 弘治
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2017 年 59 巻 1 号 p. 14-23

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要旨

【背景・目的】右側結腸に限局する虚血性腸病変を虚血性右側結腸炎と定義し,その臨床像と内視鏡所見の特徴を明らかにし,虚血性大腸炎と比較する.【方法】最近の11年間に経験した虚血性右側結腸炎7例を対象とした.病型は一過性型1例,狭窄型5例,壊死型1例であった.臨床像,腹部CT像,内視鏡像などについて検討した.【結果】虚血性右側結腸炎は,高齢男性に多く,基礎疾患では血管側因子を持つものが多くみられ,臨床症状は腹痛が主で血便や下痢は比較的少なかった.腹部CT像では著明な腸壁肥厚がみられた.非壊死型の内視鏡像は特徴的であり,輪状~帯状潰瘍であった.潰瘍は,腸間膜対側で幅が広く深い傾向がみられ,それに続いて腸間膜側に向かい浅く狭い潰瘍がみられ,全体として輪状傾向あるいは帯状傾向を呈していた.【結論】虚血性右側結腸炎は,虚血性大腸炎とは臨床像と内視鏡像が異なっており,病態が異なるものと推察された.

Ⅰ 緒  言

虚血性腸病変の分類には重症度別や成因別に種々のものがみられ,いまだに統一されたものはない.虚血性腸炎に関しても分類や定義や病名の使われ方に混乱がみられている.例えば,虚血性腸炎に壊死型を含むのか除くのか,壊死型虚血性腸炎と非閉塞性腸間膜虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI)の異同などについては意見が分かれている.右側結腸に限局する虚血性腸病変も本邦の定義では虚血性大腸炎とは呼べないが 1,右側型虚血性大腸炎と呼称した症例報告が多い 2),3.また,右側結腸に限局する虚血性腸病変の報告は極めて少なく,その臨床像や内視鏡像に関しては不明な点が多い 1.そこで,本稿では右側結腸に限局する虚血性腸病変の臨床像,内視鏡像などの特徴について自験例を検討し,本邦の虚血性大腸炎や欧米の右側結腸に限局する虚血性腸病変との比較を行う.また,これらの結果を踏まえて新たな虚血性大腸炎の分類の提案を行う.

Ⅱ 目  的

右側結腸(盲腸~右側横行結腸)に限局する虚血性腸病変を虚血性右側結腸炎と定義し 1,自験例の臨床像と画像所見の特徴を検討する.ただし,特発性腸間膜静脈硬化症は除外する.そしてこれらの症例と本邦の虚血性大腸炎や欧米の虚血性右側結腸炎と比較検討を行い,その違いを明らかにする.

Ⅲ 対象と方法

2005年~2015年の11年間に著者らが経験した虚血性右側結腸炎7例を対象とした.病型は一過性型1例,狭窄型5例,壊死型1例であった.診断,頻度,臨床像(年齢,性,罹患部位,症状,治療,血管側因子,腸管側因子),CT像,内視鏡像などについて検討した.また,これらの症例と本邦の虚血性大腸炎や欧米の虚血性右側結腸炎との比較を行った.統計学的検討にはχ 2検定あるいはt検定を用いp値が0.05以下を有意差ありとした.

Ⅳ 結  果

1.診断について

生検組織像または切除標本組織像で虚血に特徴的な立ち枯れ像や出血壊死を認めた症例は症例1,症例3,症例7の3例であった.症例6は発症1日目の内視鏡像で虚血性腸炎の重症型に特徴的なチアノーゼ所見 4を認めており,虚血が原因と診断が可能であった.症例2,症例4,症例5については長廻 5やわれわれ 4が虚血性大腸炎に特徴的な所見としたうろこ模様を潰瘍周囲に認めたことから虚血が原因と診断した.なお,全例で便培養や腸液培養を行い細菌性腸炎は否定できている.また,手術を施行した症例7以外の6例は特別な治療を行うことなく治癒を確認できたことも,虚血が原因であることを支持するものであった.

2.頻度について

虚血性右側結腸炎の頻度は,同時期の11年間にみられた広義の虚血性大腸炎245例中7例で2.9%であった.虚血性大腸炎は234例(壊死型1例,狭窄型11例,一過性型222例),虚血性直腸炎(直腸を主病変とし,一部S状結腸にあるものを含む 6)3例(狭窄型1例,一過性型2例),虚血性全結腸炎(S状結腸~上行結腸に病変がおよぶもの)1例(壊死型1例)であった.

3.臨床像について

年齢は51~84歳であり,一過性型の1例を除いて70歳以上の高齢者であった(Table 1).性別は男性5人,女性2人であり,男性が多かった.罹患部位は盲腸3例,盲腸~上行結腸3例,上行結腸1例であり横行結腸を含む例はなかった.主症状は腹痛が5例,下痢が2例と腹痛が多かった.その他の症状は発熱4例,血便3例,腹痛2例,下痢1例,腹部膨満1例であった.治療は壊死型の1例では緊急手術を行ったが,その他の症例は保存的に治療され改善した.血管側因子と考えられる基礎疾患は虚血性心疾患3例,高血圧3例,糖尿病3例,慢性腎不全2例(透析1例),心房細動2例,脳梗塞2例,慢性心不全1例,閉塞性動脈硬化症1例であった(Table 2).また,腸管側因子は便秘が7例中3例にみられた.

Table 1 

自験虚血性右側結腸炎の臨床像.

Table 2 

自験虚血性右側結腸炎の血管側因子と腸管側因子.

腸病変をきたす可能性のある薬の服用を検討したが,7例中5例で低用量アスピリンを服用していた.発症後3例は薬を継続し,2例は一時中止したが再開後に消化管病変の再発を認めなかった.そのため低用量アスピリンが病変に関与していないと考えた.

4.腹部CT像について

腹部CT検査は7例中6例に施行され,発症から1日後(2人),2日後,3日後,4日後,15日後に施行されていた(Table 1).施行理由は5例が腹痛であり,発症15日後に施行した症例のみが下痢を理由に検査されていた.CTは撮った6例全例で著明な大腸壁肥厚がみられたため壁肥厚の最も強い部位を測定した.その結果は11~26mmで平均17.8±5.5mmであった.

5.内視鏡像について

内視鏡検査は発症から1日後,3日後,4日後(2人),5日後,14日後,16日後に施行されていた(Table 2).6例はCT検査で見られた大腸壁肥厚を理由に内視鏡検査が施行されていた.しかし,14日後に施行された1例のみがCT検査なしで内視鏡検査が施行されており,下痢がその施行理由であった.内視鏡像は壊死型の1例(症例7)は全周性区域性の病変で病変部全体に厚い偽膜がみられ,それ以外に非連続性の小病変や潰瘍周囲のうろこ模様などはみられなかった.この1例は他の6例と異なる内視鏡像を示していた.その他の一過性型と狭窄型の6例については,類似した次のような内視鏡像を呈していた.主病変は輪状あるいは帯状潰瘍だが,病変の広さや深さは一様ではなかった.いずれも腸間膜対側で幅が広く深い傾向がみられ,それに続いて腸間膜側に向かい浅く狭い潰瘍がみられ,全体として輪状傾向あるいは帯状傾向を呈していた.輪状あるいは帯状と表現したが,完全に全周性ではない症例の方が多くみられた.病変の腸間膜対側では,3例に分厚い壊死組織が,2例にボール状の著明な浮腫がみられ,これまでに経験したことがない特異な所見であった.6例全例で主病変と離れて比較的小さい副病変がみられ,多くは不整形潰瘍で1例のみ短く細い縦走潰瘍がみられた.全例で一部あるいは全部の潰瘍周囲にうろこ模様がみられた.

6.自験非壊死型虚血性右側結腸炎と本邦の虚血性大腸炎の比較

比較対象としたのはわれわれが以前に報告した非壊死型の虚血性大腸炎280例であり 6,今回の非壊死型の虚血性右側結腸炎6例と比較した(Table 3).年齢に関しては虚血性右側結腸炎では73±11歳,虚血性大腸炎では58±17歳であり虚血性右側結腸炎で有意に年齢が高かった(P<0.01).性別に関しては虚血性右側結腸炎で男女比は4:2,虚血性大腸炎では78:202であり,虚血性右側結腸炎で有意に男性が多かった(P<0.05).狭窄型の比率は虚血性右側結腸炎では83%(5/6),虚血性大腸炎では10%(16/156)であり,虚血性右側結腸炎で有意に高かった(P<0.001).血管側因子保有率は,虚血性右側結腸炎では83%(5/6),虚血性大腸炎では31%(48/156)であり,虚血性右側結腸炎で有意に高かった(P<0.01).個別の疾患では脳梗塞,虚血性心疾患,糖尿病,透析が虚血性右側結腸炎で有意に多かった.腸管側因子保有率は,虚血性右側結腸炎では33%(2/6),虚血性大腸炎では47%(73/156)であり,両者に有意の差はなかった.

Table 3 

自験非壊死型虚血性右側結腸炎と自験虚血性大腸炎の比較.

7.自験虚血性右側結腸炎と欧米の虚血性右側結腸炎の比較

われわれの7例と比較対象としたのは右側結腸に限局した虚血性大腸炎は予後が悪いと述べたSotiriadisらの論文である 7.壊死型を含めたわれわれの7例とSotiriadisらの右側結腸に限局した虚血性大腸炎71例を比較した(Table 4).われわれの症例では,手術率は14%(1/7)であったがSotiriadisらの症例は55%(39/71)であり,われわれの症例で手術率が低かった.30日以内の死亡率はSotiriadisらの症例は22.5%,われわれの症例は0%と低かった.基礎疾患については,Sotiriadisらの症例では,高血圧76%(54/71),糖尿病35%(25/71),虚血性心疾患49%(35/71),慢性心不全20%(14/71),慢性腎不全21%(15/71),透析17%(12/71)であった.一方,われわれの7例では,高血圧43%(3/7),糖尿病43%(3/7),虚血性心疾患43%(3/7),慢性心不全14%(1/7),慢性腎不全29%(2/7),透析14%(1/7)であった.この2群においてどの疾患もほとんど差はみられなかった.

Table 4 

虚血性右側結腸炎の自験例と欧米例の比較.

8.症例

①症例3 77歳 男性

脳梗塞の既往があり,近医にて低用量アスピリンとシロスタゾールを服用していた.また,糖尿病,高血圧,慢性腎不全などがあり,インシュリンを使用し降圧剤を服用していた.18時頃に突然腹痛が出現し,翌日の6時に排便時に出血があり,当院を紹介され受診した.腹部CTにて,盲腸~上行結腸の著明な壁肥厚があり,4日後に内視鏡検査を施行した.回盲弁対側に壊死物質を伴った深い潰瘍がみられ,そこから両側に線状の浅い潰瘍が広がっていた(Figure 1-a).その周囲にはうろこ模様がみられた(Figure 1-b).腸間膜対側の大きな潰瘍には塊状の壊死物質がみられ,洗浄しても剥がれなかった(Figure 1-c).その口側と肛門側には周囲にうろこ模様を伴う浅い不整形潰瘍がみられた.潰瘍辺縁から生検を行ったところ,間質の浮腫,出血と腺管の立ち枯れ像を認め虚血性変化と診断した.2週間後の内視鏡検査では病変は著明に改善していた.

Figure 1 

症例3の内視鏡像.

a:回盲弁対側に壊死物質を伴った深い潰瘍がみられ,そこから両側に線状の浅い潰瘍が広がっている.

b:潰瘍周囲にはうろこ模様がみられる.

c:大きな潰瘍には塊状の壊死物質がみられ,洗浄しても剥がれない.

②症例6 77歳 男性

糖尿病と閉塞動脈硬化症で他院通院中であり,低用量アスピリンとシロスタゾールを服用していた.新たに反対側の大腿動脈の閉塞性動脈硬化症が出現し,某病院にてステントを挿入した.その約16日後に突然腹痛が出現し,その後血便が出現したため当院を受診した.腹部CTにて盲腸~上行結腸の著明な壁肥厚を認め(Figure 2),緊急内視鏡検査を施行した.盲腸~上行結腸近位側の腸間膜対側に2/3周性のチアノーゼ所見を認め,その対側(腸間膜側)には輪状の細い潰瘍がみられた(Figure 3-a).腸間膜対側の主病変部にはボール状の隆起がみられた(Figure 3-b).その病変の肛門側上行結腸にほぼ同様の腸間膜対側優位の潰瘍を認めた(Figure 3-c).チアノーゼ所見の存在より重症の虚血性腸病変と診断した.その後保存的に病変は改善した.

Figure 2 

症例6の腹部CT像.

盲腸~上行結腸の著明な壁肥厚を認める.

Figure 3 

症例6の内視鏡像.

a:盲腸~上行結腸近位側の腸間膜対側に2/3周性のチアノーゼ所見を認め,一部にボール状の小隆起がみられ,その対側(腸間膜側)には輪状の細い潰瘍がみられる.

b:腸間膜対側の主病変部位にはボール状の隆起がみられる.

c:その病変の肛門側上行結腸にほぼ同様の腸間膜対側優位の潰瘍を認める.

③症例1の発症4日めの内視鏡像

回盲弁は発赤し,その対側に輪状潰瘍がみられた.輪状潰瘍の腸間膜対側部分はボール状の浮腫を伴う大きな潰瘍であり,そこから両側に細い潰瘍が伸びだしており(Figure 4-a),その周囲にはうろこ模様がみられた(Figure 4-b).

Figure 4 

症例1の内視鏡像.

a:回盲弁は発赤し,その対側に輪状潰瘍がみられる.輪状潰瘍の腸間膜対側部分はボール状の浮腫を伴う大きな潰瘍であり,そこから両側に細い潰瘍が伸びだしている.

b:潰瘍周囲にはうろこ模様がみられる.

④症例4の内視鏡像

上行結腸に全周性の輪状発赤がみられ,腸間膜対側には白苔を伴う不整形潰瘍がみられた(Figure 5-a).発赤部はうろこ模様で構成されていた(Figure 5-b).

Figure 5 

症例4の内視鏡像.

a:上行結腸に全周性の輪状発赤がみられ,腸間膜対側には白苔を伴う不整形潰瘍がみられる.

b:発赤部はうろこ模様で構成されている.

Ⅴ 考  察

1.虚血性大腸炎の診断基準について

Williamsらは1975年に虚血性大腸炎の診断基準を提唱した 8.本邦では1981年に長廻ら 9が,1993年に飯田ら 10が,1997年に勝又ら 11がWilliamsの診断基準を元に独自の改変を加えている.本邦では飯田らの診断基準が広く用いられている.飯田らは罹患部位に関して直腸を除く左半結腸に発生するとしており,勝又らは左半結腸中心に発生するとしている.これらの定義に従うと,直腸に限局した虚血性大腸炎や右側結腸に限局した虚血性大腸炎という呼称は正しくないと思われる.直腸に限局した虚血性腸病変は,本邦と欧米ともに虚血性直腸炎という呼称が多く用いられている.Williamsらの定義では罹患部位を規定しておらず,欧米では右側に限局するものは右側型虚血性大腸炎と呼ばれているのが実情である.本邦でも右側型の虚血性大腸炎という呼称が症例報告などで用いられている.しかし,このような呼び方は本邦の定義からみると正しくないと考え,本稿では右側結腸に限局する虚血性腸病変を虚血性右側結腸炎と定義して,種々の検討を行った.

2.虚血性右側結腸炎の臨床像,内視鏡像と虚血性大腸炎の比較

虚血性大腸炎は女性が男性に比べて2~3倍多い,20代や30代の若年者にもみられる,便秘や浣腸が誘因となることが多いなどの事実から,腸管側因子が病因の本質的なものであると推察されている 12.これに動脈硬化などの血管側因子が加わるとより重症になると考えられている 13

今回自験非壊死型虚血性右側結腸炎と自験虚血性大腸炎の臨床像を比較した.年齢は73歳と58歳であり,虚血性右側結腸炎で有意に高齢であった.性別は虚血性右側結腸炎では男が女の2倍であり,逆に虚血性大腸炎では女が男の約2.5倍であり,大きく異なっていた.狭窄型の比率は83%と7%であり,虚血性右側結腸炎で有意に多かった.血管側因子と考えられる脳梗塞,虚血性心疾患,糖尿病,血液透析なども虚血性右側結腸炎で有意に多くみられた.この結果から,虚血性右側結腸炎は虚血性大腸炎に比べて,重症例が多く,成因として血管側因子の関与が強いと考えられた.この結果はSotiriadisらの論文において右側型虚血性大腸炎はその他の部位の虚血性大腸炎に比べて重症例が多いとする報告と同様の結果であった.

非壊死型虚血性右側結腸炎と虚血性大腸炎の症状を比較すると,虚血性右側結腸炎では腹痛100%,血便50%,下痢50%であり,虚血性大腸炎に比べて血便と下痢の割合が明らかに低かった 6.また,虚血性大腸炎ではほとんど認めない発熱も虚血性右側結腸炎の検討では50%にみられ,重症例が多いためと考えられた.内視鏡検査の適応に関しても虚血性右側結腸炎は強い腹痛が主であるため,6例中5例でCT検査が先行していた.一方,血性下痢を示すことが多い虚血性大腸炎では,われわれの施設においては,多くはCT検査を施行せず内視鏡検査が行われていた.

非壊死型虚血性右側結腸炎と虚血性大腸炎の内視鏡像を比較すると,虚血性右側結腸炎では縦走病変は副病変の1例しかなく,主病変は輪状~帯状潰瘍であった.しかも腸間膜対側で潰瘍が深く幅が広い傾向があった.一方,虚血性大腸炎ではほとんどで縦走病変がみられ,腸間膜対側で程度が強いという傾向はなかった.これらのことより,虚血性右側結腸炎と虚血性大腸炎では重症度や臨床症状や内視鏡像は明らかに異なっており,両者は異なる病態であると考えられた.

3.本邦と欧米の虚血性右側結腸炎の比較

われわれの虚血性右側結腸炎と欧米の虚血性右側結腸炎(Sotiriadisらの71例)の比較では,基礎疾患の種類や割合はほぼ同じであるが,重症度は欧米例で高かった.その理由の1つは本邦よりも欧米では動脈硬化性疾患の重症度が高いことがあげられる.もう1つはSotiriadisらの症例はバイアスがかかっており重症例に偏っている可能性である.Sotiriadisらの検討は病理組織学的に証明できた症例のみを対象としており,手術例に偏っていると推察される.実際に彼らの手術症例の割合は55%でありわれわれの14%と比べ高かった.われわれの非手術例6例については,病理組織学的に証明されたのは2例に過ぎなかった.強い腹痛があること,病変が右側結腸にあること,発症から日が経過してから内視鏡検査がされる傾向があること,抗血栓薬を飲んでいる確率が高いこと,などの理由で内視鏡検査や生検組織検査が行われにくいと思われる.たとえ生検検査がされても発症から比較的長く経過しているため,診断できない可能性が高くなると考えられる.これらの理由でSotiriadisらの検討では軽症例が脱落している可能性が高いと推察される.

4.内視鏡像について

本邦の虚血性大腸炎の定義では縦走潰瘍が診断基準に入っている.われわれは以前に急性期虚血性大腸炎の内視鏡像の検討を行い,縦走病変は94%にみられたが,みられなかった6%はうろこ模様で診断可能であったとし,診断根拠としてこの2所見は有用であるとした 4.Williamsらの虚血性大腸炎の定義では潰瘍形態についてはまったく触れられていない.こういう考え方であるから,右側に限局した虚血性腸病変も虚血性大腸炎としてあつかっているものと思われる.Sotiriadisらの検討では,右側に限局した虚血性腸病変の内視鏡像の特徴はまったく触れられておらず,診断根拠はすべて病理学的所見である.前述したように組織所見のみで診断すると,非手術例の多くが診断できないことになり,軽症例が除かれる傾向となる.そのため,内視鏡像とその経過も含めて診断すべきであるとわれわれは考えている.

本邦ではわれわれの報告 14以外の非壊死型虚血性右側結腸炎の報告は,「虚血性大腸炎」と「右側結腸・上行結腸」をキーワードとして1990~2014年の医学中央雑誌およびその関連文献を調べた限りでは12例のみであった 3),4),15)~24.12例中7例は手術が施行されており,狭窄型が11例,一過性型が1例であった.これらに記載されている内視鏡所見の多くは全周性潰瘍あるいは著明な狭窄により潰瘍の詳細は不明であり,明らかな縦走潰瘍の報告は1例もみられなかった.しかし,今回のような輪状あるいは帯状潰瘍で,腸間膜対側で幅が広く深い傾向がみられるという内視鏡像の記載は1例もなく,これまで一度も報告されたことがない内視鏡像である.病変部位が右側結腸であるために,回盲弁の位置を腸間膜側と同定でき,病変部位を腸間膜対側と同定できた.腸間膜対側にみられた分厚い壊死組織やボール状の隆起も,これまでほとんど報告されたことがない内視鏡像である.恐らく限局性に強い虚血が起こることにより生じたと思われる.ボール状の隆起は浮腫または出血によるものが考えられる.本邦で虚血性右側結腸炎の報告例が少ない理由は,右側結腸が病変部位で腹痛が強いため内視鏡検査が行われていない,あるいは内視鏡検査が行われていても診断がつかないままとなっていることなどが考えられる.今回のような特徴的内視鏡像があれば,虚血性右側結腸炎と診断してよいとわれわれは考えているが,今後症例を重ねて検討する必要があると思われる.

5.虚血性右側結腸炎の成因と虚血性腸炎の新たな分類の提案

虚血性大腸炎の特徴的内視鏡像は結腸紐に一致した縦走潰瘍である.野村らはウサギを用いた実験にて腸管内圧を高度に上昇させると,結腸紐付着側の血流が著明に低下し,非付着側の血流は比較的保たれていることを証明した 25.このことは虚血性大腸炎の縦走潰瘍が結腸紐付着側にできるという臨床的裏付けとなる結果であり,虚血性大腸炎の成因として腸管内圧の上昇が関与していることを示唆しているとした.

虚血性右側結腸炎の成因として心疾患や透析などによる低還流状態や微小血栓・塞栓などが考えられている 14.腸管の辺縁動脈は,腸間膜側から両側に分かれて走行し腸間膜対側で終わる.微小塞栓がこの血管に入ると対側で血管を閉塞するため,対側に潰瘍ができることになる.虚血性心疾患,心不全,透析などに起因する低還流状態でも同様に腸間膜対側でより血流が低下するため腸間膜対側により重篤な潰瘍ができると考えられる.完全に血流が遮断されれば区域性病変で壊死型になると思われ,壊死にならない程度の血流低下が非壊死型虚血性右側結腸炎の成因と考えられる.大井らはウサギを用いた実験で腸管の辺縁動脈を3cm間隔で2カ所結紮すると全周性の帯状病変か腸間膜対側の輪状病変ができることを証明した 26.後者は非壊死型虚血性右側結腸炎の潰瘍形態に一致しており,壊死にならない程度の動脈血流低下で本症が起こることの証明と考えられる.

今回の検討により,非壊死型虚血性右側結腸炎と虚血性大腸炎は臨床像のみでなく,内視鏡像も明らかに異なるため両疾患は明らかに異なる病態と考えられた.よって,虚血性右側結腸炎を虚血性大腸炎と区別する考え方は妥当であると考えられる.

そこで,大腸の虚血性腸炎を虚血性左側結腸炎(従来の虚血性大腸炎),虚血性右側結腸炎,虚血性直腸炎,虚血性全結腸炎に分類することを提唱する.そしてそれぞれについて重症度により壊死型,狭窄型,一過性型に分類することとする.これらは罹患部位による分類であるが実は病態による分類でもある.虚血性左側結腸炎は腸管側因子が本質的なものであり,虚血性直腸炎は血管側因子が主であるが腸管側因子の関与もみられる6.一方,虚血性右側結腸炎と虚血性全結腸炎は血管側因子のみが関与している可能性が高い.それぞれで重症度により壊死型,狭窄型,一過性型に分類すると,虚血性右側結腸炎は壊死型と狭窄型がほとんどであり,虚血性全結腸炎は壊死型がほとんどである 27.また,虚血性右側結腸炎と虚血性全結腸炎にはNOMIが多く含まれていると考えられる.

Ⅵ 結  論

われわれの経験した虚血性右側結腸炎7例の臨床像,CT像,内視鏡像などについて検討した.基礎疾患では血管側因子を持つものが多くみられ,臨床症状は腹痛が主で,血便や下痢は比較的少なかった.CT像では著明な壁肥厚がみられた.非壊死型の内視鏡像は特徴的であり,輪状~帯状潰瘍で,腸間膜対側で幅が広く深い傾向がみられた.これらの結果から,虚血性右側結腸炎と虚血性大腸炎は病態が異なるものと推察された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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